第2話 (参)そして今日も

 昨日きのうまで三日連続で道を訊かれた。どれほども大学へ通う途中か、帰り道、マアマアと、よくある事。もう夏休みも後半に過ぎ、今日からの故郷への帰省の途についた。 


 ――東京駅で乗り換えのホームへ向かう。駅はいつもより、旅行者らしき人が多い。

 また声をかけられた。

「あの、すいません、○○のホームはどちらですか?」

「この先―― で――」これで四日連続だ。


 東京から新幹線で一時間半、さらにローカル線を乗り継いで故郷の駅の改札を出る。懐かしき匂がして、家路についた。一年ぶりの実家は変わらず、早めの床につく。


 片田舎にあり、幹線道路からも離れてポツンとある我が家。朝早く、畑へ向かう軽トラの音、他の車は通らない、静かな朝静かな一日。(しばらくは、道を訊かれることもないだろう)と、のびのびと。のんびりし過ぎて退屈なくらいだ。

 お昼前、「ワタルくん、ちょっとオクラ取ってきてくれる」と母の声。

「ああ、いいよ」と、自家用の畑へ向う。


 自宅前の小道を渡ろうと、するとそのとき、一台の黒いバイクが近づいた。ドドドと、エンジンの低いうなり黒ジャンパーに黒サングラスの男、歩を止めた私。

「あのぉすいません、○○大橋へ行く道はこっちですか?」

 ○○大橋? 私はためらった、自殺の名所***** として最近よく噂されている。その場所はよく知っている。

 知らないとも言えず、いえ―― 「この先は行きどまりですよ、戻って十字路を左折してしばらく行けば――」

 バイカーはもう一度道順を繰り返すと「ありがとう」と言い残し、狭い道を切り返しバイクをゆっくり反転した。


「—―乗っていくかい?」

 えっ?! (今、何と?―― 言った? そう聞こえた)

「じゃあ、また――」

 確かに男はそう言うと戻って、十字路までトルトルと、そこでこちらを振り返り、エンジン音だけを体に残す。黒い背中に髑髏を描き、スピードを一気に上げて走り去る、まるで非日常の世界のように。

 

 夜、寝付きながらも頭はその光景を繰り返す。時は過ぎていた。えっ今日も、結局、今日一日で家から出たのはその一回だけだった。まさか夢だったわけではないだろう、これで五日連続―― やがて、深く揺らいだ眠りの内についていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る