第17話逃亡者リク
入浴後のマッサージをし合って、昼間の疲れを癒した俺は、ソコソコ良いベッドで朝までぐっすりと寝られた。
アルコールも飲んでいたので、とにかく気分が良かった、身体も気持ちが良かったのを覚えていた。
何故かとなりの部屋のニースとバルクが寝不足だと言っていたが、遊び足らないんじゃないかと思う。
疲れたら寝るのが自然だと思う。
この二人はよほど体力が余っているんだろう。
「だからって言って朝から地引網をやらせるか!?」
「そうよ!私だってか弱い乙女なんだから!」
妙に息の合った二人。やはり筋肉は裏切らないとでもいうのかな。
「まあまあ、とりあえずバルクはこの網を置き間で投げて。
「とりゃあああああああああああああ!」
漁港で借りて来た、本来船から降ろす重そうな重りを付けたゴツイ網を力自慢のバルクに投げさせた!
見事に広がった網に付いているロープを握る。
「さあ、ここからだみんなの力が必要だ!それ!ロープを引っ張るんだ!」
そーれ、そーれ、と四人でロープを引っ張る。
やはり、ホテルの朝食は焼き魚だろ。
このために朝市に行って大根らしきダインコーンと言う野菜を買ってきたんだ。
魚醤もあるし、焼き魚におろし大根醤油で食いたいだろ?
ズズズ……
「何か大物が入りやがった!リク!鑑定で分かるか!?」
「このクソ――!この網の中身を鑑定させてもらおうじゃねえか!」
【鑑定対象:投網】
詳細:投げる事で魚などを一度に捕まえる網の事。
備考:アージ26匹、サーバ18匹、イワシン57匹、
カッツォー12匹、ボラー6匹、カマスン22匹、
シイラン2匹、ブリブリン21匹、スズーキ5匹、
タイマン4匹、イシノヨウダイ3匹、イワノヨウダイ3匹、
スキスキス12匹、レインボーマリーン1匹、
グログロマグロ7匹、バナナエビ15876匹が入っています。
「うわああああああいっぱい入ってるううううう!」
頭の中に文字の羅列が次々に流れて行った!
ピコン!
【鑑定魔法29より30へレベルアップしました】
詳細:実用品や一般魔法道具の鑑定が可能。
これは数か!数が多いからか、連続で鑑定のレベルが上がったああああああああ!
初めての海の生物で鑑定ラッキー!
「みんな負けるなああああ!」
俺が声をあげると、後ろのバルクからグンッと魔力が大きく流れるのを感じた。そして一番先頭で頑張っているニースからも!
「ここまで来たら朝飯はアジの開きだろおおおお!」
ニースも可愛い顔を歪ませて必死だった!
そして身体強化など持っていないはずのグレイスが、顔に青筋を出して本音を言う!
「マグロマグロマグロマグロの刺身いいいい!」
そこでグンッ!と一気に軽くなった!
「一気にふんばれええええええ!」
足を砂浜にめり込ませながら人生で一番の気合を入れて足を踏ん張った!
「ぬおおおお!」
「ひらきいい!」
「さしみいい!」
「うぉらああ!」
全員の力と気合が一つとなり、一気に網が砂浜に近寄ってくる!
この世界では言わないはずのアジの開きやマグとの刺身と言う単語を、誰もが変に思わなかった。
「「「「いけええ!」」」」
一気に砂浜を滑りあがってくる魚の入った網。
安全な所まで引き上げると、ロープを緩めて中の魚のお披露目だった!
後はつかみ取りの世界だった。
バルクとニースは勿論、俺もグレイスに頂いた時間停止機能付きのマジックバックにつかみ取りだった。
とりあえず砂浜で拾った棒で、デカい魚の頭をぶん殴り、〆てからバックへ。バナナエビなんかバナナの太さでビンビン跳ねてるので一番最後だ。
みんな汗だくの塩塗れになりながらも笑顔で魚をつかみ取り。
全て終わる頃には疲れてへとへとになっていた。
それでも石ころを並べて竈を作る者、薪を拾い集める者、魚をさばく者、その補助をする俺……
朝のご飯はアージの塩焼きにグログロマグロのお刺身、そして朝来るときに買っていたパンだった……
「ああ……ご飯が欲しいね」
「「「うん……」」」
少し残念だったが、お魚は美味しくてみんなお代わりの魚を焼いて食べていた。そのまま磯に移動してカニや貝類を一日掛けて集めた。
そして最後の三日目には買い物をしてから帰ろうと、朝から街中をぶらつき、それぞれ欲しい物を買っていった。
俺は次来る時用に釣竿セットだけ。アクセサリー用に貝殻の大きなモノはマジックバックに入れてあるので帰ったらニースの約束したアクセサリーを作ろう。それとマジックバックをくれたグレイスにも……
市場の中をみんなで歩き、そろそろお昼ご飯を食べて、バカンス……いや、調査を終えようかと思っていた。
人で溢れる市場で美味しそうな果物を見ながらスイカでも買って、マジックバックに入れて帰ろうかと店員に声を掛けようかとした時だった、ゾワッと背中に鳥肌が立つ!
それは偶然なのか、本能なのかは分からないが、俺は殆ど無意識に身体を左へとずらした!
そこへ痩せた現地の者らしい男が、俺の元居た場所へと体当たりをして空ぶってきた。
その時、腹の所に銀色に光る物が見えた。
「おいナイフ――」
「チッ」
振り向き様にナイフを横向きに一閃!
買い物中の客を押しのけるように辛うじてバックステップで避ける!
更に逆向きでナイフを一閃!
人ごみを押しのけるように二度三度とバックステップで避けた!
「てめえっ!」
明らかに俺への殺意。少し色黒で背の低い男が目を血走りながら俺へと小さいナイフを持って腕を伸ばして来る!
咄嗟に伸びきる腕を蹴り上げ細い腕の肘が逆へと折れた!
「殺しだ!騎士団を呼べ!」
信じられないような顔で折れた腕を押さえる男。
そんなに金持ち風には見えないと思ったし、人通りの多い所で、超高価なマジックバックを見せびらかしてなどいなかった。
単純にやれそうだと思われたか?
その落ちたナイフを見ると、銀色に光る刃には薄っすらと緑色の何かが塗られていた。
毒?
鑑定を!
だが、その瞬間再び頭の横がゾワッとする感覚に襲われる!
間髪入れずに膝を着いている男を蹴り飛ばし前へと逃げる!
「クソッ」
声だけが後から着いてくる。
やはり……と言うか一体何で俺が襲われるんだ?!
2……3人?人ごみをかき分け移動すると、同じようにかき分けて来る者達がいる事に気が付く。
「盗賊だ!刃物に毒!早く騎士団を呼べ!」
二度目の注意に、一斉に客が逃げ出した。
勿論、少し離れていた仲間達は腕を折った男を無力化していたが、付いてくる野盗から逃げる為にどんどん仲間からは離されていく。
「俺が一体何を!」
客を押し倒し、何院も怪我を負わせているとは思うが、確実に俺だけを狙っていた。
シュッ
ゾーンに入っているのか、音の聞こえた反対へと逃げる。
徐々に落ち着いてきた。素人よりは強いが、冒険者としてはまだまだ初心者!
幼少の時から遊びと評して、格闘戦を仕掛けて来たあいつの姉ちゃんよりは甘い!
逃げる様に露天の店先で並んでいたオレンジを取り、賊へと向けて投げる!
「フンッ」
毒が塗ってあるのか、やはり小型のナイフでサクッと輪切りにされた。
次はキュウリ、そしてナス、ナス、芋、玉ねぎ、キャベツ、キャベツ、キャベツ!
「ええい!ちょこまかとお!」
逃げながら色々な物を投げる。
残念だな。お前はすでに俺の術中にハマっている。
最後だと気合を入れて逃げながらその在処を発見していあ店前へと逃げ、力を入れていないフリをしながらドリアンを全力で投げつけた!
キャベツを間違えたのか、小型ナイフで振り払おうとして、そのままドリアンの質量に押され、顔面にドリアンの棘が縫い付けられた!
「顔面ドリアンの刑だあああ!」
「キサマ!」
もう一人の追手が声を出し、一気に近寄ってくる!
お前も俺の術中にハマってんだよ。
余裕でギリギリまで引きつけ、大きな人の横をヘアピンカーブのように曲がっていく。
次の瞬間、バキッっと音がし、追っていた男が倒れていた。
「これで全部か?」
その大きな人はバルクだった。
「ああ、一応な。だけど気を付けろよ」
「もちろん」
そのバルクの顔は、いつもの優しい顔では無く、闘いの中の険しい顔に変わっていた。
元々こちらのバザールの男子は、大柄な体格が多くいて、完全なる私服のバルクが仲間だと思う余裕が無かったのだろう。
最後に倒れていた男を見ると、完全にカウンターで決まった顔面は、クレーターのように陥没し、ピクリとも動かない状態だった。
俺は地面にしゃがみ、直ぐ近くに落ちていた小型のナイフを鑑定する。
「さて、この事件の『真実』とやらを、鑑定させてもらおうか」
【鑑定対象:ナイフ】
形状:刃渡り10cm、折り畳み式
材質:純鉄
特殊性:刃に猛毒物が散布(合成毒:錬金錬成にて解毒薬はない)
「うげっ」
「どうした?」
「これ錬金で作られた合成毒だ……しかも市販の解毒薬のない奴」
「うげっ、ちょっとでも毒が入ると死ぬじゃねえか!みんな離れろ!」
「そもそもリクが毒って言った時から近づかねえし!」
ドリアンの棘で、顔が穴だらけの血まみれになっていた男を捕縛するニースが言った。
「リクくん!大丈夫だった!?」
遅れて来たグレイスは、騎士団に初めの賊を突き出していたらしい。まあ、隠れて付けてきていたノアがやったのだが。
近くに来るなり切られていないか身体をペタペタ触ってくる。もし切られていたら死んでるわい。
何故か影のように着いてきたノアに睨まれているが、そんな悪い事をしたか?何か勘違いでもしてるんだろう。
そんな睨むなよ、やましい事はしてないはずだ…………多分。
猛毒を使った殺人に発展しうる行為という事で、死んだ奴も含めて全員騎士団につれて行かれた。
この世界は基本的人権などは一応あるが、犯罪者に対しては弁護をする者などいない。
目撃者などがいる場合は、裁判なども一切無く実刑だ。
当然、地球で行われていない、非合法な尋問も平気で行われる。
五体満足で刑罰に送られるか、瀕死の状態がずっと続くのかの違いだ。
口が堅いのなら尋問は死ぬまで行われるだろう。
殺す目的で来て、自分が殺されるなんて思っても居ない奴がたまにいるんだ。自業自得だバーカ。
だが、俺らが帰る前になり、騎士団詰所で預かってもらっていた馬を取りに行くと、どうせ王都へと帰るのだからと経過を書いた報告書を持たされるバルク。
「まあ、騎士団の務めだから後は任せた」
「何を言ってるリク。お前が当事者だろ?検定結果も報告しなきゃならねえんだぞ。お前も一緒だからな」
「え?近衛騎士団本部だよね?」
「ああ、兄貴たちのいるところだ」
「やだ!お前の兄弟姉妹全員怖いんだもん!」
「リク逃げるな!ニース捕まえろ!」
「やだやだやだあああああああ!」
俺は落ちて行く夕日に向かって馬を走らせるのだった。
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