第16話姫様の危機?
深夜……人気も無くなり、ホテルの中も大浴場や高級部屋にはお風呂もあり、汗を流した宿泊客が、鼾を掻いて寝ている時間…………
3階に上がる階段の横に置かれた少し豪華な椅子に座る男の姿があった。
ノアだ。
下の階は騎士団の上級者、所謂、指揮官達の猛者が寝ている。
ノアも地方男爵の四男の生まれであり、魔物が闊歩する地域では立派な戦力として武闘派揃いの男爵領で腕を磨き、王都での近衛騎士を目指して騎士学園に入った経緯があった。
そしてその王立剣術師範の腕と静かな性格、整った容姿、そして一を言わせると二でも三でも先を見越せる頭脳を評価され、王の次女専属の執事としての仕事を言い任された。
ところが、この王女は公式での仕事は失火いrとしているのに、私生活がめちゃくちゃたった。
勝手に王宮の外へと出て行く。お仕事と評して正教会へ仕事に行き、友人とのお遊びで教会を放り出して遊ぶ。
護衛も付けずに町の中を一人で買い物をする。
何度言っても聞かない王女様の事を考え、ノアも見習い神父として働く事になった。
だが、王女様の意思は強かった。
このノアが執事になった事を認めるまでに1年。
漸く生活の場にいる事を許されたのもその頃。メイドなんかが着替えの手伝いに入る事すら出来ない王女らしからぬ人柄の割に、教会では一般市民に愛される“蒼穹の乙女”“暁の聖女”と呼ばれるまでになった。
自分で見つけた仲間、アイゼンシュタイン公爵家の五男であるバルク殿、ドゴール公爵家の次女であるバイオレット嬢…………こちらも王女様と同じく、はねっ帰りの性格で、冒険者としての名前も持っており、普段はニースと呼んでいるが、この二人の貴族に合わせて、王都でも有数なアストール商人の五男であるが、幼少の時から遊び友達であり、兄妹のように中の良い現在鑑定士として名をうりだしているリクの三人が、王女様の御友人であり、仲間と呼べる存在であった。
だが、これはマズイ…………
同衾ではないと言うが、先ほどから身体機能増強の魔法を使って限界まで聴覚を研ぎ澄ませて聞こえる、効いたらダメな吐息……
執事は主の事をただ聞いているだけでは三流。意見を言ってから二流。その先を考えてこそ一流と呼べれると、先代王の執事であったセバス様にも言われた。
“時には壁となり、またある時には兄となり、そしてまたある時には周りに溶け込む空気となれ”
と言われた先代執事の言葉を言わせると、ここは姫様のお好きにさせるのが良いのか。
同衾しているその場を見て見ぬふりをしろと……
ぐぬぬぬぬ…………おのれリク……。姫様の純潔を奪いおったか…………
だが、その時、物音もせずに一つのドアが開いた!
丸太のように太い腕、床を踏みしめるコングのような足。そして短髪の顔が出て来る。
バルク殿だった。
「よおノア。大変だな見張りも」
「いえ、コレが家の決まりですので」
お互い貴族の嫡男ではない子供だが、公爵家と地方男爵と言う相手にもならない家の格。
そして武闘派揃いの男爵家というのが恥ずかしくなるほどの化け物そろいの一騎当千の猛者しかないアイゼンシュタイン公爵家の戦力。この無手の状態でも一瞬で絞殺されるかのような鋭い眼光でもってこの私を後退ける圧力。
なぜあのリクがこの
「ちと、目を瞑っててくれねえか?」
「え?……」
その巨体からは考えられないような隠形の技を使い、物音どころか、空気の乱れもないまま蜃気楼のように奥へとバルク殿は移動を始めた。
「バルク殿……そこは――」
「親友の卒業祝いだ。賑やかに祝ってやるのさ」
「い、いや!それは!――」
確かに、仲間や親友と言う壁を取っ払ってもリクに好意しか見せていない姫様。
少しリクの方に鈍感さが散発過ぎる程に見られるが、多分姫様とリクは相思相愛。
ただ、大商人の息子とはいえ、姫様との家柄には差があり過ぎる!
女系の子孫に対して特に政略結婚を進めてこず、個人の尊重を重んじた過去もあって、この二人にはそこまでの壁はないはずだがっ。しかし!
「漸くだよ。好きなら好きで既成事実を作っちまえば良いのさ。グレイスもそこかの貴族なんだろ?」
ああ、忘れていた。このバルク殿も鈍感にて脳筋の家系。
未だに姫様の家をどこかの貴族と思っているとは!
心の中で言わせてもらおう、お前の13年間は一体何を見ていたのだ。貴様の眼は節穴か!
「大丈夫だって。俺もなんとなく事情はわかるからな。へへ、だからよお、グレイスのおっぴろげーな場面を見て祝いてえのよ。ほらこれを付けな」
濃い子似ろの薄いタオルを渡された。
そのタオルをバルク殿は頭に被り、鼻の下で結んでいる。
何だ?一体何をしようとしているのだ?!
「知らねえのか?他人の閨に忍び込むときの正式な恰好だ。藍染ににたやり方で染めさせた手ぬぐいをな、こうやって鼻の下で結ぶのが習わしなんだ」
「そ、そうですか。では私も……」
同じように手ぬぐいと言うタオルを頭にくるみ、鼻の下でタオルを結ぶ。多少鼻が豚のようになるが、これで存在を消せれるのだろうか…………
そりゃあ、私も独身男性。興味が無いと言ったら嘘になる。
ここは騙されたと思ってバルク殿に付いて行こう……
姫様の部屋の前まで来ると、ボルグ殿は懐から懐から針金のような固くて細い金属を取り出す。
それの先をおもむろに鍵穴へと差し込み、回したり捻ったりと動かし始めた。
10分後…………
「ううむ…………これは初めてやったらかの有名な義賊、石川五右衛門はどうやって開けていたのだ?」
ああ、私がバカだった。脳筋はやはり脳筋だった。木を切り倒すのは出来ても、こうやって鍵を開ける高等技術なんてのは無理だったのだ。むしろ鍵をぶち壊す方が――
その時、一瞬の風が吹いた!
音も無く、静かに、暗闇に潜みながら一陣の風と共に凄まじい衝撃波が!
ズガッン!
目の前のバルク殿の脳天にッ!
「いてえな、ニースよ。お前ものぞきか?」
「失礼ね、私は確認よ確認リクが失敗してないかの確認をしようとしただけだから」
頭蓋骨が陥没しそうな衝撃だと思たが、流石は公爵家。ボルグ殿には蚊に刺された程度の感覚なんだ。
そしてその踵をボルグ殿の頭にめり込ませているバイオレット嬢。その顔は薄い黄色のタオルを頭の上からかぶり、顎の下で結んでいる。
これで隠れたつもりなのか?むしろ目立つのでは?!その顔もニヤニヤしていて、確認と言うよりも野次馬ではないか!
声高々に聴いてみたい!やる気があるのかと!
「ボルグ、貸しな」
裸足の足でボルグ殿の顔を押しやり、針金を奪い取ったバイオレット嬢。
ものの30秒で開錠すると、みんな声や物音を立てずに姫様のいる部屋へと侵入するのであった…………
「あっ……そこ気持ちいいっ、あっリクくんって上手ぅ」
「ここかい?ここが良いの?」
「そこそこ……あっやっぱり上手ぅ」
一気に温かくなる空気。
そしてベッドがきしむようなギシギシと言うモノ音に紛れ、私達は一列になりながら四つ這いで大きな部屋を進みながら二人の声を聞いていた。
「さっきはグレイスに動いてもらったから、今度はみっちりと俺が動いてあげるから」
「ああっ嬉しい。ああっそこ凄いっ ああ!ちょっと待って!待って!変な声が出ちゃう!」
「凄いコリコリしてるよ。ここが弱いんだね」
「ああダメ!そこ弱いから!」
「グレイスの弱点発見!ほらここが良いんだろ?ここもかな?ああここもそうだね?」
「ああ!なんで解るの?凄い!凄いよ!ああそこ来る来るくるううう」
なんて破廉恥な姫様だ。こんなあられもない声をあげるとは。
私、もうすぐ鼻血どりゅりゅーんであります。この声だけで一生ものであります!
「ああ!ぐりって!ぐりってええ!そこそこそこおお!もっと対句してぐりぐりいいいいって!」
「ここが良いんだ・おらおらおらあ!」
「ああ効くうううう!もう駄目!もう大丈夫だから今度は私が上になるね」
マジでありますか!?
姫様が上になられると?!このノア、もはやこれまで!
デカいボルグ殿の身体が邪魔になって全く見えていないのだが、妄想と声だけでパンが10個はイケる!
その時だった。やはり見るだけでは我慢が出来なかったのか、ボルグ殿とバイオレット嬢が突入した!
「おい良い事やってんな!」
「なーにしてんのよ!」
ダメです!ああ!執事失格であります!
だが、私の思っていたようにはならなかった。
その声は確かに上気していたが、姫様の声はまともだった。
「いいでしょ~リクくんってマッサージが凄く上手なんだから。でも私も上手だったでしょ?」
「うん、グレイスって凄くマッサージが上手いんだ。もうと彼が全然残ってないよ」
「へ?…………ああ…………よかった……な」
「ま…………マッサージなのね」
「どうしたのその手ぬぐいなんか頭に被って」
「手ぬぐい珍しいわね。余ってたら私にもちょうだいね」
ま…………マッサージかよ!変に期待…………イヤ、妄想するだろうが!
「ああ解散!解散!」
「ちょっとは期待してたんだけどなぁ。ボルグ、私にもマッサージしてよ」
「おお、俺にもやってくれよ」
二人はなんとなく白けた顔で解散してしまった。
残された私はと言うと…………
「お嬢様、明日も忙しくなりそうですので、美容と健康の為に早くお休みください。リクも早く寝るんだぞ」
「そうだね!リクくんそろそろ寝ようか」
「だね。身体も解れたし、ぐっすり休めそうだよ。じゃあお休みグレイス」
「うん、お休みリクくん……」
こうして姫様と私の危険は去っていったのでたった。
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