第75話 何とかしたい
§西城美登里
沖縄という場所で私は小峰君と一杯話して彼の友達位にまで持って行きたかった。でも上手く行かなかった。
全く行かなかったと言ってもいい。だから最後のチャンスと思って品川駅で明日からの三連休のどこか一日会って、私の気持ちを伝えようと思ったけど、家の仕事の手伝いを理由に断られた。
せっかく、荻窪さんと葛西さんに協力して貰って小峰君との距離を詰めたつもりだったのに実際は一ミリも詰まっていなかった。
久保田さんと仲の良い振りをしていたけどあれは私の避ける為としか見えなかった。なぜって彼から久保田さんへアプローチする様な雰囲気は欠片も無かったからだ。
私は小峰君に嫌われているのだろうか。でも何を。勉強会前は話した事も無いから嫌われる理由は何処にもない筈なのに。なんとか二人だけで話すきっかけを作れないものだろうか。
§東儀義明
修学旅行で三橋さんに近付こうと思っていた。最初は上手く行ったつもりだったが、街倉も三橋さんへのアプローチをはっきりと出していた。
そして三橋さんは街倉が自分を好きだという事を理解していた。でもあまり街倉と二人きりで話したいという気持ちは無かった様に感じられる。
だからと言って三橋さんが俺に寄って来るような事も無かった。俺は自分の事をうぬぼれてはいないが、普通よりちょっとイケメンだし、成績だっていい、それに根っからの明るさで女子達の話にも乗れる。
だから三橋さんだって俺から話して行けば応じてくれると思ったのに。なんで街倉も俺も受け付けないんだろう。まさかまだ倉本の事を思っているのか。
もう一年以上前の事だし、倉本は三橋さんをはっきりと拒絶している。それは学校での普段のあいつの態度からも分かる。
そして緒方季里奈という三橋さんにも負けない背が高く綺麗で可愛くスタイルも良くて頭も良い子がべったりと付いている。
沖縄でもあいつらの傍に行く事も何度か有ったが、緒方さんの倉本への愛情は中途半端ではない。
とてもあの二人の間に入って倉本と因りを戻そうなんて思っているとは思えないのだが。
§街倉元也
沖縄では三橋さんと上手く話しをする事が出来なかったけど、それは東儀が居たから。彼女の俺に対する態度は悪くなかった。
本当はどこかで明日からの三連休の間に一日会いたかったけどあの状況では約束するなんて出来ない。
だから家に着いたら改めて連絡しようと思っている。
そして家に着いて玄関でお母さんにただいまと言って直ぐに自分の部屋に入った。お母さんは話したがっていたけど、こちらの方が重要だ。
でもまだ彼女は家には着いていないんだじゃないかな。
十五分位待ってから彼女のスマホに掛けてみた。
時間をおいて二回掛けたけど出なかった。諦めてキャリーケースやバッグから洗濯物やお土産物を出しているとスマホが鳴った。画面を見ると三橋さんからだ。直ぐに出た。
『街倉です』
『三橋です。済みません。スマホをオフにしていたものですからさっき気が付いて』
『いえ、こうして掛けてくれるだけでもとっても嬉しいです』
『そうですか。何か?』
『あ、あの。沖縄ではあまり話す事が出来なくて。…いえ三橋さんが悪いんじゃなくて、俺が上手く…』
『そんなに謝らないで下さい。私も上手く話せなかったのですから』
『そ、それでですね。もし良かったら明日からの三連休でどこか一日会えないかなと思って』
『…いいですよ』
『ほ、本当ですか?』
『はい、いつにしましょうか?出来れば明日は休んでいたいので』
『そうですね。俺も同じです。じゃあ土曜日、二子玉の改札十時でどうですか?』
『良いですよ』
『ありがとうございます。じゃあ明後日二子玉で』
『はい』
やったぁ。明後日三橋さんと会える。でもそれよりも俺の着信を見て掛けてくれたって事がとっても嬉しい。今はステータス友達だけどまだ十分に彼女と恋人になるチャンスはあるんだ。
俺と季里奈は修学旅行から帰って来た翌日、季里奈の部屋で月曜日に提出しなければいけない修学旅行の感想文を書いた。でも午前中いっぱいは掛からずに終わった。
「和樹、どうしようか?」
「ああ、どこかに出かけても良いけど長距離移動は目に見えない形で疲れるからな。今日はのんびりしていよう。明日の午前中は稽古もあるし」
「のんびりするのは良いけど、何をしてのんびりするの?」
「サブスクのドラマの続きとか?」
「今日はいいけど、明日の午後からは?」
「うーん、二子玉に行って河川敷でも歩くか?」
「じゃあ、お弁当作ろうか?」
「それも良いけど、悪いよ。コンビニで適当に買って行けばいいさ」
「えーっ、駄目。和樹の健康は私が守るの!」
「いいのか?」
「うん」
という訳で次の土曜日、俺と季里奈は稽古が終わった後、季里奈が作ったお昼が入っているランチボックスと飲み物が入ったバッグを持って二子玉に出かけた。気温は低くなっているが風が無ければ十分に暖かい。
二子玉の改札を出て左に曲がって道路に出た所で直ぐに左に曲がって道なりに行けば多摩川の河川敷に出れる。
ここは大分整備されたお陰で随分歩きやすくなった。もう午後一時近かったので早く場所を決めてシートを敷こうと思っていたら季里奈が
「和樹、あれ」
視線の先に何と街倉と三橋さんがシートを敷いて座って居る。これは驚いた。
「へーっ、三橋さんと街倉君、あんなに仲が良くなっていたんだ。じゃあ心配ないかな」
「そうだな」
「でも彼女に対する挨拶は駄目」
「分かってるって。でも街倉とあんなに仲がいいなら気にする事も無いんじゃないか?」
「それでも駄目!和樹逆方向に行こう」
「それが良さそうだ」
という訳で上流に行くのは止めて下流方向行って適当な場所にシートを敷いて座った。
「和樹、早い話しかも知れないけど後三週間で二学期末考査がある。今度は私は絶対に三橋さんに負けない。だから和樹も負けないで」
「うん、でも季里奈は大丈夫でも俺はちょっと…」
「だから来週月曜日から毎日考査準備に入る。二学期始めからの範囲をもう一度しっかりと見直して類似問題もやって対策をする」
「凄い気の入れようだな」
「当たり前。絶対に負けないんだから」
季里奈は焼き餅な上に負けん気強いな。
――――――――――
以下閑話 街倉と三橋さんの会話
「三橋さん、俺、修学旅行で一杯話して俺をもっともっと知って貰って友達プラスアルファ位になりたかったんです。でも東儀が班に加わって…」
「…私も街倉君とは話したかった」
「えっ?!」
「正直、今迄、和樹いえ倉本君の事が有って真摯にあなたに向き合う事は失礼だと思っていたの。
でもそれは間違いだった。街倉君と私が合うか合わないかは分からないけどきちんと前を向いてあなたと友達から初めて見ようかなと思う事にした。ちょっとうまく言えないけど」
「じゅ、十分です。今迄の友達風から本当に友達から俺と向き合ってくれるって言ってくれたんですよね」
「うん」
「やったぁ!じゃ、じゃあ。手を繋ぐ事は?」
「それはまだ出来ない。倉本君の事を気にしてじゃない。手を繋ぐならもっと街倉君の事知らないと。それにあなたが私をもっと引き付けてくれないと」
「そ、それって、こ、恋人になるって事?」
「そこまで一直線には行かないわ。でも少しずつ近付けるなら手繋ぎもあるかな」
「が、頑張ります!」
「はい。待っています」
俺と三橋さんの間は、今はこの空の様に花曇りだけど絶対に雲一つない晴れ間にしてこの人を彼女にするんだ。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひ☆☆☆を頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
新作公開しました
作品名は「恋愛は思い通りにはいかないもの」です。
下記のURLでご覧頂けます。
https://kakuyomu.jp/works/16818792439446248191
あらすじに書いてある通りモテるけど関係が続かない主人公剣崎俊樹が経験を通じて恋を成就させるという物語です。
多分に濃い目の設定です。私としてはですが。
宜しくお願いします。
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