第74話 修学旅行は終わったが終わっていない事もある
修学旅行最後の日。午前中、国営沖縄記念公園へ行って見学した後、昼食を摂ってから那覇空港から東京に戻った。
羽田空港団体専用到着ロビーで解散すると
「小峰、帰るか」
「おう」
三人で京急の乗り場に向かおうとすると西城さんと久保田さんが
「「私達も一緒でいい」」
小峰を顔を見ると構わないという顔をしている。
「うん、いいよ」
ホームで電車を待っていると街倉達も来た。五人で話をしているが三橋さんの横は東儀だ。頑張れ街倉。
電車が入って来てボックス席に座る。俺と季里奈、前は西城さんと久保田さんだ。小峰は通路を挟んで反対側。俺も通路側だから話すには問題ない。
二十分位で直ぐに品川に着いた。渋谷まで皆一緒だからそのまま乗り継ぎで改札を出て山手線に行くのだが、西城さんが小峰に何か話をしている。
山手線ホームに着いて電車を待っていると街倉たちもやって来た。三橋さんの隣は街倉だ。東儀は他の女子二人と話をしている。
気にしている訳では無いが直ぐ側にいるので目に入ってしまう。季里奈が
「和樹、明日は振替休日だよね。何しようか?」
「そうだな。帰ってから考えよう」
「うん」
でもその前に四日間分の口付けしたい。帰ったらしようかな。
季里奈が俺の顔をいや唇をジッと見ている。まさか…。
渋谷では、街倉と東儀それに西城さんが同じホームでも反対方向。久保田さんは井の頭線だ。俺、季里奈と小峰それに三橋さんが同じ方向だ。
自然と俺と季里奈、小峰と三橋さんとなると思ったが、三橋さんはドアを一つ離れて乗った。彼女なりの配慮だろう。
俺達は他の人の邪魔にならない様にドアの近く行った後、
「小峰、さっき品川駅で西城さんに何か言われていただろう?」
「それかぁ。明日からの三連休のどこか一日会えないかと言われたんだ。沖縄でもっと話したかったけど、あまり話せなかったからって」
「西城さんも積極的だな。で、どうするんだ」
「帰れば家の手伝いしないといけないと断った」
「そうか」
小峰は一つ目の駅で降りた。俺が何を言える立場でもない。
季里奈が小声で
「ねえ、三橋さんて同じ方向なの?」
もう教えても良いだろう。
「俺達の駅から三つ目だ」
「えっ!三つ目。とても近いじゃない」
「そう言われても」
「じゃあ、二子玉は直ぐなの?」
「うん」
「もう!」
季里奈は三橋さんが俺達の駅に近い事よりも俺達がいつも遊び場にしている二子玉が近い事が気に入らないらしい。何となく理由は分かるが。
俺達が降りる時、三橋さんがぺこんと頭を下げた。俺も下げると季里奈がご機嫌斜めになった。後でなんか言われそう。
§三橋絵里
同じ電車だから和樹達と一緒になった。和樹と緒方さんが降りる時、クラスメイトだし良いかなと思って和樹達に頭をぺこんと下げて挨拶したら和樹が同じ事をしてくれた。
あの事は許されないからこうなっているのだけど挨拶位はしてくれる様になったんだ。嬉しい。
本当は和樹と元通りになりたい。でももう駄目かも知れない。沖縄でも和樹達の班とは近くに居る事が多かった。
バスだって一緒。自然と目が和樹に行ってしまったけど、緒方さんの和樹に対する思いは相当に強いという事も分かった。学校では分からい所まで。
だからもう元通りになれないのかも知れないという気持ちが強くなって来た。こんな事を思う度に何であんな事したんだろうと自分自身が嫌になる。
今、街倉君が一生懸命アプローチしてくれている。でも和樹の事が心の中に有って彼の気持ちに向き合う事が出来なかった。
そうしたら同じ班の女子二人が和樹の思いは一度切り離して街倉君と真剣に向き合うなら協力してくれると言ってくれた。だから修学旅行ではそうしようと思ったら、東儀君が入って来た。
同じ班だから無下には出来なかったけどその分、街倉君と話す時間が少なくなった。東儀君は同じ班だからなのか私にも色々話しかけて来る。
一緒にいる女子二人も話しかける。クラスでも人気者の彼だから女子と話すのが馴れているんだろう。
その所為で街倉君とは中途半端な感じになってしまった。沖縄という解放された空間だから気持ちをそのまま出せるかも知れないと思ったのに。
このままいつもの学校生活に戻ったら街倉君と真剣に向き合う事が出来るんだろうか。彼女達との約束もある。心をしっかりと決めないと。
駅を降りて家に向かう途中季里奈が
「和樹、なんで三橋さんに挨拶したの?」
「いや、だって同じクラスだし。向こうから挨拶してきたら返すのが…」
「和樹!あの人はあなたを裏切った人だよ。そんな人が挨拶して来たからって返して欲しくない。和樹は全部私なの!」
「そんな事分かっているけど…」
「分かっていない。帰ったら四日分しっかりするからね」
「へっ?!よ、四日分?」
「うん、四日分」
あれって留置きになるの?
家に着くともう午後五時近かった。季里奈の家までと言っても目の前だけど送って行ってから自分の家に行こうとしたんだけど、
「和樹、上がって行って」
「季里奈、明日にしよう」
「良いの。上がって」
玄関で話をしていると季里奈のお母さんがドアを開けて
「お帰りなさい。季里奈、和樹君。上がったら?」
「ほら、和樹」
「じゃあ、せめて荷物を置いて来てから」
「嫌だ」
季里奈のお母さんが笑っている。仕方なく荷物は玄関に置いたまま、季里奈の部屋に行くと直ぐに抱き着いて来た。そして俺を見て目を閉じた。
どの位口付けしていたのか分からない。離れようとしても季里奈が離れてくれないからだ。
やっと唇が離れると抱き着いたまま
「和樹、私以外の人を見ないで。私だけ見ていて」
「季里奈…」
「和樹、さっきの様な事はとっても不安になる」
「あれは、ただの挨拶…」
「それでもだよ。見向きもしなかった人に時間が経ったからって挨拶をしたらどんどん先に進んで行ってしまう気がする。だからあんな事しないで」
そんな心配をしていたんだ。
「分かったよ。三橋さんにはもうあんな事しないから」
「うん、そうして。後…和樹。どうしても和樹の誕生日まで待たないといけないの?」
「それは二人で待とう。我慢とかじゃない。そうしなければいけないんだ。でもどうしたんだ、そんな事聞くなんて」
ホテルのお風呂で見た三橋さんの体の事なんて言えない。でも和樹があの体を抱いていたなんて思うと胸が締め付けられる。
「季里奈、前に有った事を無しにする事は出来ないよ。でも先を見る事でそれを忘れるしかない」
「和樹…」
もう一度口付けした。今度もしっかりと吸い付いて来た。やはり彼女の事なんだろう。でも受け止めるしかない。
それから一階に二人で降りると彼女のお母さんが
「和樹君、ごめんね。我儘な娘で」
「いえ」
「季里奈の事、これからも宜しくね」
「はい」
なんか俺達の事見ていたのかと思う位、的を得ている気がする。そのまま家に帰ると母さんと妹の香苗が出迎えてくれた。でも開口一番
「お兄ちゃん、帰って来て早々なんで唇にリップの後が付いているの?」
「えーっ?!」
§季里奈
あっ、和樹の唇拭くの忘れた。大丈夫かな?
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひ☆☆☆を頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
新作公開しました
作品名は「恋愛は思い通りにはいかないもの」です。
下記のURLでご覧頂けます。
https://kakuyomu.jp/works/16818792439446248191
あらすじに書いてある通りモテるけど関係が続かない主人公剣崎俊樹が経験を通じて恋を成就させるという物語です。
多分に濃い目の設定です。私としてはですが。
宜しくお願いします。
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