第51話 思いは届かなくても


 §三橋絵里

 和樹と緒方さんとの遭遇。そして緒方さんから掛けられた言葉が私の心の中に出口の無い液体の様に漂っていた。


『三橋さん、街倉君とデートなんだ。良かったわね。私は和樹の家族と一緒に一昨日まで海に旅行に行っていたわ』


 街倉君と一緒に居る所を和樹に見られたくなかったという思いと緒方さんが和樹の家族旅行に一緒に行ったという事実。


 これで和樹にいくら言い訳しても私は街倉君と付き合い始めたと思っているだろう。

 そして緒方さんはたった半年なのに、四年も付き合っていた私が出来なかった事、そう和樹の家族と一緒に旅行まで行く、つまり私より和樹の家族に信用されているという事実。


 今迄、和樹への思いを支えていた私の中の何かが崩れていく感じがした。街倉君は友達でさえない。


 でも和樹はそうは見てくれないだろう。夏休みに二人で会うんだから。それに街倉君とはもう三回目。街倉君だって十分に友達以上に思っているかもしれない。



「三橋さん?」

「えっ?」

「もう冷たかったジュースが温まってしまいますよ」

「あっ、ごめんなさい」


 ストローに口を付けて飲むとまだ冷たさは残っていた。本屋からここに来るまで本屋での出来事を考えていて目の前が見えてなかった。


 いつの間にこんなジュースを頼んだんだろう。街倉君のジュースはほとんどが飲み終わっている。


 §街倉元也

 本屋の出来事は思った以上に三橋さんの心にインパクトがあった様だ。特に緒方さんが三橋さんに言った言葉は俺が聞いても厳しかった。表面的で無い何か。それが緒方さんの言葉から分かった。


 でもこのままでは三橋さんは動けなくなってしまう。何かしないと。


 何も思いつかないまま、気の抜けた三橋さんを見ているしかなかった。会話は何も無い。ここに座ってもう一時間近くが経っている。

 でも俺はこのまま三橋さんとさよならするつもりはない。


「三橋さん、少し散歩しませんか。駅の反対側にある池のある公園でもいいですし、河川敷に行って川べりを歩くのもいいですよ。それとも何か食べますか?もう午前十二時はとっくに過ぎています」


 街倉君の気持ちは嬉しい。でもこういう事になればなるほど彼に期待を持たせ、そのチャンスを作り出す。だから断らないと。これ以上の期待を持たせない為にも。


「街倉君、私…」

「公園に行きますか。そうしましょう。少し気が晴れないと」


 §街倉元也

 これ以上、三橋さんのこの姿を見たくない。こうなったら少し強引にでも気分を変えさせないと。


 俺は、手を引こうとしたけど今度も避けられた。でも立ち上がって、顎を引いてうんと言ってくれた。



 二人で駅の反対側に行って、ゆっくりと池の周りを歩いた。三橋さんは下を向いたままだ。だから東屋迄歩いて行って二人で縁側に座った後、


「三橋さん。俺、あなたの事が好きです。一年の時から好きでした。でも倉本と別れた後のあなたに声を掛けるほど勇気がない男でした。


 でも今は違います。三橋さんの心がどんなに倉本の方に向いていようともいずれ俺の方に向かせます。向かせて見せます。


 だから俺を三橋さんの傍に居させて下さい。今は友達以下でもいいです。でも必ずあなたを倉本の前で俺に微笑みを掛けられる様な人にして見せます」


 気持ちは分かるけどとてもそんな気になれない。だから

「街倉君…」

「待って下さい。今返事をして下さいなんて欠片も思っていません。友達以下でも良いんです。三橋さんの傍に居る事を許して下さい」



 結局、三橋さんが口を開く事は無かった。俺が傍に居てもいいのかいけないのか。友達以下なのか、それともそれ以下なのか。


 全く分からないけど無言は肯定と思う事にした。夏休みはまだ半月ある。後、半月が勝負だ。




 俺は、本屋で本を買った後、季里奈と一緒に本屋とは反対側の二階にある公園に一番近い喫茶店で食事をする事にした。ここなら季里奈も注文に迷う事も無い。


 中に入って注文をした後、感想文の事を季里奈と話した。

「季里奈、流石にこの二冊、どんなにスピードリーディングしても今日入れて三日は厳しいな」

「そうだね。勢いで買ったけど、やはり一冊二日は欲しいよね」

「そうすると今日は十一日だから十四日まで読んで、その後感想文を書く事にするか。感想文は一日も掛からないし」


「そうだね。でも何処で読むの?」

「自分の部屋しかないんじゃない」

「だから、どっちの自分の部屋」

 そうか、そういう意味か。


「今日帰ってからと明日は俺の部屋、明後日と明々後日は季里奈の部屋。感想文はうちのリビングでどうかな」

「うん、そうしよう」


 和樹とは一日も離れて居たくない。和樹が武道場の夏合宿に行っていた時なんか部屋に籠っていてとても辛かった。

 でも聞いたら思い通りの返事が返って来た。流石私の和樹。


 注文の品が来たので食べながら話をしていると

「和樹、あれ。今日は良く会うね」

「ああ」


 街倉と絵里が公園の方に歩いて行っている。絵里が思い切り沈んでいる。本屋の事かそれともあの後街倉と何か有ったのか?


「まあ、気にしないしよう」

「うん」


 二人で食べ終わって少し休んでから外に出たけど季里奈が

「和樹、ちょっと気になる」


 そう言って公園が全体的に見える高台迄走って行った。それを追いかけると季里奈が遠くを指差している。

「あの二人仲がいいのね」


 いや、あれは絵里が街倉を拒絶している様に見える。でも二人は動かない。何してんだ?でももう俺には関係無い様だ。二人の間の事だろう。


「季里奈、帰るぞ」

「えーっ、興味あるにー」

「なんで?」

「だって、あの後、良い事するかも」

「季里奈!帰るぞ。本を俺の部屋で読むんだろ」

「あっ、そうだった」

「もう」


 絵里の事はもう俺の視界の中から完全に消えている。あいつがどんなに俺の事を引き摺っていても俺には関係ない。街倉と仲良くなる事だけを祈るだけだ。祈りもしないけど。


――――

次回をお楽しみに。  

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひ☆☆☆を頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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