第4話 白の監獄

ふと、意識が浮上したのは、奇妙な静寂のせいだった。

いつも体を揺らしていたはずの、規則正しい振動とレールを噛む音が消えている。

私はベッドから跳ね起き、航汰がまだ寝息を立てているのを横目に、客室の分厚いカーテンを開けた。


「……うそ」


窓の外は、白一色だった。

昨日までの穏やかな景色はどこにもない。

猛烈な吹雪が視界の全てを塗りつぶし、叩きつけるように雪片が窓に張り付いては消えていく。

列車は、まるで時が止まったかのように、真っ白な虚無の真ん中で沈黙していた。


やがて、スピーカーから列車支配人・結城さんの、緊張を隠せない声が流れ始めた。

『お客様にお知らせいたします。当列車は、北海道を襲っている記録的な猛吹雪のため、現在、信号所で緊急停車しております。復旧の目処は立っておりません。

また、悪天候により、外部との通信も現在、不可能な状態でございます』


その放送が終わる頃には、航汰も目を覚まし、私たちは急いで服を着替えてラウンジカーへ向かった。

そこには、同じように不安な顔をした乗客たちが集まっていた。

「いつになったら動くんだ!こっちは札幌で大事な契約があるんだぞ!」

ベンチャーキャピタリストの高遠さんが、客室係の新田さんに詰め寄っている。

警備主任の長谷部さんは、腕を組んで厳しい顔で窓の外を睨んでいた。

他の乗客たちも、携帯電話の電波が立たないことに苛立ち、あるいは諦めたようにソファに沈んでいる。


閉じ込められた。

この、見えない悪意に満ちた乗客たちと一緒に、白の監獄に。

私の脳裏に、昨夜から続く疑念が渦巻く。

こんな非常事態だというのに、あの安藤氏の姿はやはり見えない。本当に、ただの体調不良なのだろうか。


誰もが、終わりの見えない待機時間に、じりじりと神経をすり減らしていた。

外では雪が狂ったように舞い、車内では疑心暗鬼が静かに空気を蝕んでいく。

その、張り詰めた沈黙を切り裂いたのは、甲高い、短い絶叫だった。


それは、列車の前方——私たちがまだ足を踏み入れていない、最高級の客室が並ぶ車両の方から聞こえてきた。

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