ここはゲームだと信じてる俺、痛覚ゼロの激ヤバ戦闘でヒロインを曇らせてしまう ~勘違い勇者の英雄章~

志久野フリト

第1章 リーナとの出会い

第1話 ゲーム世界への転生?

 スマホを見ながら横断歩道を渡るのは、やっちゃいけないこと。

 そんなの、小学生でも知ってる常識だ。


 でも、この新作VRの告知だけは、見逃すわけにいかなかった。


『完全没入型・生きるように遊ぶ異世界がここに!』


(来たー! 本当に出るんだ、このシリーズの続編!)


 俺は夢中で、その予告映像を再生した。


 幻想的な森の中、鎧を着た勇者と魔法を操る聖女が並び立ち、仮面を付けた男に立ち向かっている。興奮で心臓が跳ねる。まさに、俺が待ち望んだ異世界だ。


 その瞬間だった。


 ドカン、と何かが俺を跳ね飛ばし、視界がぐらつく。

 鼓膜を突き破るようなクラクション、耳鳴り、砕ける音。


 視界が真っ白に染まって、何もかもが遠ざかっていった。

 





 気づけば、俺は草原に立っていた。


 どこまでも広がる緑、遠くで風が草を揺らしている。

 空は高く澄んで、雲がゆっくりと流れていた。


 俺はたまらず、草木の匂いを嗅ぐ。


(あれ? この草の匂い、現実でも全く嗅いだことがないな)


 VRでも再現できない、妙に生々しい、土の香りだった。


(え、なにこれ?)


 思わず自分の頬をつねってみる。


 痛みは、ない。けれど感触はある。不思議な感覚だ。


(いや、待て。これはまさか……)


 半信半疑のまま、試しに言葉を口に出す。


「ステータス・オープン」


 その言葉に応じるように、目の前に光のパネルが現れた。


 浮かび上がったのは、まるでゲームUIのようなステータス画面。


 名前:XX

 職業:旅人

 レベル:1


 HP:30

 攻撃:10

 防御:10

 素早さ:15

 スキル:鑑定、アイテムボックス


 称号:魔王の卵


 持ち物:旅人の服、銅の剣


(マジで、ゲームの世界?)


 見慣れたステータス形式、RPGのような初期数値。


 鑑定、アイテムボックスこれはもう、定番スキルだ。


 それにこの称号、魔王の卵だと!


 平原スタートで、不穏な称号持ち。これはもう、俺がゲームの主人公に違いない!


(いや、でも……)


 次の瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。


(俺、あのとき、確かに車に轢かれたよな)


 白昼夢なんかじゃない。VRゴーグルなんて着けてないし、ログインもしてない。


 でもここは間違いなくゲームの世界だ。


 ぞくりと背筋に寒気が走る。


(きっと、本当の俺はベットの上で……)


 嫌な考えが、脳裏をよぎる。俺は溜まらず頭を振った。


(せっかく、完全没入型の世界に来たんだ)


(だったらもう、これをゲームだと思って、楽しむしかないだろ!)


 よし、と拳を握りしめた瞬間。


「キャーッ!」


 女の子の叫び声が、静かな草原に響き渡る。助けを求める、切迫した声だ。


(誰かが襲われてる?)


 そう考えるより先に、体が動いていた。俺は草をかき分け、声のした方へ駆け出す。


(これはきっと、チュートリアルの戦闘だな)






 足音を殺して丘を越えると、そこにいたのは金髪の少女だった。

 彼女は薄汚れたローブ姿で、地面に尻もちをついている。


 そして、彼女の前には、唸り声を上げる狼のような魔物、銀色の毛並みには殺気が宿っている。


(やば、デザインかっこいい。でも、結構、強そうだな)


 俺は魔物に向かって、試しに呟いてみる。


「鑑定」


 目の前に光のパネルが浮かび、情報が表示される。


 種族:シルバーウルフ

 レベル:15


(レベル15!? 俺、今レベル1だぞ。 チュートリアルにしては鬼畜過ぎやしませんか?)


 だが、少女は今にも食われそうだった。


「やるしかないか」


 俺は腰に下げた銅の剣を抜き、草を踏みしめて静かに背後へと回り込む。


 そして。


「スラッシュ!」


 鋭く踏み込み、斬りつけた。


 ガキンッという音が鳴る。金属が硬いものを弾いたような、鈍い手応え。

 切り傷はついたが、致命傷には程遠い。


(ちくしょう、やっぱりレベル差が大きいな)


 だが、不意打ちは成功したようで、シルバーウルフは逃げるように俺から距離を取った。

 

 奴は唸りながら、こちらを睨みつける。


「あなたは!」


 少女が驚いた顔で見上げてくる。


「ああ、俺は旅人のクロスだ。お嬢ちゃん、俺が来たからにはもう安心だ!」


 そう言った瞬間、少女の顔が真っ青になる。


「た、旅人! それならシルバーウルフに勝てるわけありません。あなただけでも逃げてください!」


 その目には、諦めと後悔が混ざっていた。


(私なんかが生き残ったところで、どうせ……)


「嫌だね。俺は君を絶対に見捨てない」


 俺は少女の前に立ち、剣を構える。


「それに……」


 シルバーウルフと向き合いながら、俺はニヤリと笑う。


「イベント戦からは、逃げられないのがお約束なんだよ」


 次の瞬間、魔物が大地を蹴ってこちらへ向かってくる。


 俺は剣を構え直し、吠えるように叫んだ。


「こいよ、オオカミ野郎! 俺のゲーム捌き、見せてやる!」






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