第27話「定義再構築学会《コード・アーク》からの招待」

 ──ある朝、共鳴支援室に一通の封書が届いた。


 紙媒体の郵便は、この再定義社会ではもはや珍しい。


「差出人:C.A.(コード・アーク)?」


 封を開くと、そこにはエンボス加工された紋章と、一枚の招待状。


【あなたの“共鳴理論”に深く共感し、ぜひお話を伺いたく存じます】

定義再構築学会コード・アーク 代表:リュカ・ゼロス】


「……聞いたこと、ある?」


 つばきが首を傾げる。


「いや、初耳。でも、胡散臭さは満点だな」


 だがレンの胸には、妙な引っかかりがあった。


 この「コード・アーク」という名前──どこかで、見た気がする。



 翌日。二人は封書に記された場所へ向かった。


 そこは、旧AR3管理局の廃ビルだった。


「ここ、昔AR3を運営してた場所だよ。政府直轄の“コード管理区画”だった」


 案内された地下フロアは、驚くほど整理されており、むしろ最新鋭の設備に改装されていた。


 そして、現れたのは──白衣姿の長身男性。


「ようこそ。“コードの継承者”たち」


 リュカ・ゼロスと名乗る男は、レンより十ほど年上で、冷静かつ知的な印象だった。


「あなたが、風見レンくん。そして姫崎つばきさんですね」


「ええ、そうです。そちらが“コード・アーク”の……?」


「我々は、AR3システムが“過去の遺産”にならないよう、再構築を試みる者たちです」



 リュカは、タッチパネルを操作しながら説明を続ける。


「現在、あなたの“共鳴支援理論”が注目を集めています。“定義”の代替案として」


「代替?」


「AR3は、“数値による管理”を徹底した。だがそれは、“存在の意味”を縛る枷にもなった」


「それが、神の暴走につながったんだよな」


 リュカは静かにうなずいた。


「我々は、あらゆる“定義”を一度リセットし、人間が“定義を持たずに生きる社会”を模索している」


 つばきが眉をしかめる。


「それって、混乱を広げるだけじゃない?」


「その通り。だが、“混沌”を通らなければ、“本質”には辿り着けない。あなたたちは、“再定義”した。だが我々は、“定義そのものを拒否”しようとしている」



 レンはしばらく沈黙したのち、言った。


「つまり君たちは、“無定義社会”を作ろうとしてる。数値もスキルも職業もなく、ただ“生”だけがある世界を」


「その通り。共鳴者たる君には、我々の理論が“どこまで通用するか”を見極めてもらいたい」


「……見学は?」


「歓迎します。ただし、戻れる保証は、ない」


 リュカは微笑んだ。



 帰り道、つばきがぽつりとつぶやく。


「行くんだろうな、あんたは」


「ああ。たぶんね」


「まったく、そういうとこだけはブレないよね」


 夜の街に、次なる“選択”の予感が漂っていた。

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