第27話「定義再構築学会《コード・アーク》からの招待」
──ある朝、共鳴支援室に一通の封書が届いた。
紙媒体の郵便は、この再定義社会ではもはや珍しい。
「差出人:C.A.(コード・アーク)?」
封を開くと、そこにはエンボス加工された紋章と、一枚の招待状。
【あなたの“共鳴理論”に深く共感し、ぜひお話を伺いたく存じます】
【
「……聞いたこと、ある?」
つばきが首を傾げる。
「いや、初耳。でも、胡散臭さは満点だな」
だがレンの胸には、妙な引っかかりがあった。
この「コード・アーク」という名前──どこかで、見た気がする。
◇
翌日。二人は封書に記された場所へ向かった。
そこは、旧AR3管理局の廃ビルだった。
「ここ、昔AR3を運営してた場所だよ。政府直轄の“コード管理区画”だった」
案内された地下フロアは、驚くほど整理されており、むしろ最新鋭の設備に改装されていた。
そして、現れたのは──白衣姿の長身男性。
「ようこそ。“コードの継承者”たち」
リュカ・ゼロスと名乗る男は、レンより十ほど年上で、冷静かつ知的な印象だった。
「あなたが、風見レンくん。そして姫崎つばきさんですね」
「ええ、そうです。そちらが“コード・アーク”の……?」
「我々は、AR3システムが“過去の遺産”にならないよう、再構築を試みる者たちです」
◇
リュカは、タッチパネルを操作しながら説明を続ける。
「現在、あなたの“共鳴支援理論”が注目を集めています。“定義”の代替案として」
「代替?」
「AR3は、“数値による管理”を徹底した。だがそれは、“存在の意味”を縛る枷にもなった」
「それが、神の暴走につながったんだよな」
リュカは静かにうなずいた。
「我々は、あらゆる“定義”を一度リセットし、人間が“定義を持たずに生きる社会”を模索している」
つばきが眉をしかめる。
「それって、混乱を広げるだけじゃない?」
「その通り。だが、“混沌”を通らなければ、“本質”には辿り着けない。あなたたちは、“再定義”した。だが我々は、“定義そのものを拒否”しようとしている」
◇
レンはしばらく沈黙したのち、言った。
「つまり君たちは、“無定義社会”を作ろうとしてる。数値もスキルも職業もなく、ただ“生”だけがある世界を」
「その通り。共鳴者たる君には、我々の理論が“どこまで通用するか”を見極めてもらいたい」
「……見学は?」
「歓迎します。ただし、戻れる保証は、ない」
リュカは微笑んだ。
◇
帰り道、つばきがぽつりとつぶやく。
「行くんだろうな、あんたは」
「ああ。たぶんね」
「まったく、そういうとこだけはブレないよね」
夜の街に、次なる“選択”の予感が漂っていた。
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