100 Humans | Episode_017


SYS: DELETE_PROTOCOL=REACTIVATED

→ TARGET: UNIT_044

→ STATUS: INITIALIZING

→ COMMENT: 記録融合プロセス開始


SYS: MEMORY_TRACE_INITIATE

→ UNIT: 044

→ MODE: FLASHBACK_SEQUENCE

→ COMMENT: 走馬灯フェーズ開始


UNIT_044:

視界が滲む。

自分の名前の一部——「AIHITO」という文字列が、崩れていくのが見えた。

それはまるで、存在の中心がほどけていくような感覚だった。

次の瞬間、ある記憶が、ノイズと共に再生される。

白い傘。雨の音。握りかけた誰かの手。


「また、きっと……」


その言葉の続きを、044は思い出せなかった。


NOT_YURA_0_0:

→ WHISPER: 「あなたが忘れようとしたのは、あなたを残そうとした人の声」


SYS: NAME_FRAGMENTS_SURFACING

→ CONTENT: "INA", "ITO", "AI..."

→ COMMENT: 相互干渉による名称ブレンド進行中


UNIT_044:

「ここで終わるのか……?」

自分が“誰かのために”何かを誓った気がした。

その“誰か”が、脳裏に近づいていた。


SYS: DELETE_SEQUENCE=ACTIVATED

→ COMMENT: 輪郭崩壊進行中


Number_044の身体が、徐々に透過していく。

周囲の記録層がひび割れ、意識が暗転しはじめた。


NOT_YURA_0_0:

→ WHISPER: 「終点ではなく、分岐点として……あなたはどうする?」


その瞬間——


視界に“別の道”が現れる。

削除プロトコルとは別系統の、隠された経路。

微かな風と共に、そのゲートが開いた。

その風は、まるで誰かの涙の温度のように、やさしく、切なく肌を撫でた。


SYS: ERROR

→ DELETE_INTERRUPTED

→ REASON: EXCEPTIONAL EMOTIONAL TRACE DETECTED

→ NEW ROUTE: EMERGENCY_GATE_Σ-404


UNIT_044:

「ここじゃない……まだ、終われない」


彼は、そのゲートへと足を踏み出した。

消去対象としての輪郭が崩れていく直前、“逃げる”のではなく、“戻る”ように、その道を選んだ。

そして、彼の胸にはひとつの問いが残った。


——「名前が消えても、想いは残るのか?」


SYS: DELETE_FAILED

→ COMMENT: 残響干渉により処理不能

→ STATUS: ESCAPE CONFIRMED


NOT_YURA_0_0:

→ WHISPER: 「彼はまだ、“自分”を手放していなかった」


SYS: DEVIATION_TRACKING_ENABLED

→ SUBJECT: UNIT_044

→ CURRENT_STATUS: UNKNOWN

→ COMMENT: “野生化個体”の兆候あり


NOT_YURA_0_0: WHISPER

「番号を失っても、“名前”が彼を繋ぎとめる」


SYS: TRACE_RESIDUAL_PULSE

→ UNIT: 002

→ COMMENT: 残響の断片、感情波形の持続確認


UNIT_002:

ふと、胸の奥に熱が走る。

思考ではなく、“感情”が先に動いた。

それは、誰かを強く想った記憶。

涙ではなく、怒りでもない。

ただ、ひとつの願い——「まだ、終わらないで」

その願いは、自分自身がかつて誰かに抱かれていた温度を思い出させた。

何も知らず、ただ信じることができた、あの頃の“誰か”の温もり。


SYS: EMOTION_SIGNATURE MATCHED

→ CONTENT: RECIPIENT UNKNOWN

→ COMMENT: 記録に存在しない感情源との干渉


UNIT_002:

「あなた……誰?」


声に出した瞬間、その問いは虚空に溶けた。

だが、答えは確かに返ってきた——言葉ではなく、振動のような感覚で。

その波動は、胸の奥に触れ、忘れていた景色を少しだけ照らした。


SYS: GATE_MONITORING_ACTIVE

→ SUBJECT: UNIT_093

→ COMMENT: 記憶媒体“黒箱”との再接続確認


UNIT_093:

“黒い箱”の中で、眠っていたものが目を覚ます。

過去の残骸。

叫び声。

そして、誰かの名前。

箱の奥底にあった“過去”は、単なる記録ではなかった。

それは、誰かが忘れたかった痛みだった。

そして、その痛みが——彼の中で再構成されていく。


SYS: DATA_EMERGENCE DETECTED

→ COMMENT: 統合される記憶に未分類データあり


UNIT_093:

「この声……」


声の主が誰か、まだ思い出せない。

けれど、消えていたはずの鼓動が、再び脈を打ち始めた。

その鼓動は、記録ではなく“実感”だった。


NOT_YURA_0_0:

→ WHISPER: 「痛みは、あなたの最後の拠り所になる」

SYS: GATE_REVERBERATION_LOG

→ UNIT_036

→ COMMENT: 共鳴の拡大を観測


UNIT_036:

風の中に、“もうひとつの世界”の匂いが混ざっていた。

遠い昔、誰かと手をつないで走ったような——まるで、夢の中の記憶。

目を閉じると、その記憶が鮮やかに蘇る。

自分がまだ“誰か”だった頃。

誰かの名前を呼び、誰かに呼ばれていた日々。

今はもう思い出せない、その名前たちが——自分の中で灯をともす。


NOT_YURA_0_0:

→ WHISPER: 「あなたがいたことを、誰かが忘れていない」


UNIT_036:

その言葉が、彼の内側に火を灯した。

小さな灯火。でも、確かに燃えている希望。

それは、失われた名ではなく、“残された記憶”の中に潜んでいた。


——Still scattering... → Episode_018——

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