100 Humans | Episode_011


SYS: INDEX_CONFIRMATION

→ INDEX_058:照合不能

→ COMMENT:記録整合処理中


NOT_YURA_0_0:

→ ゴーストインデックス追跡不能

→ 潜在タグ:GHOST_ESCAPE_TRACE_Α001


100は、また“空白”に気づいた。

誰も、何も言わない。

ナンバーたちは、黙々と日課ラインを進む。

けれど、その列のひとつに、明らかに“間”がある。

昨日、その空白に、誰かがいた——そんな気がした。


SYSは、何も言わない。

だが、その沈黙こそが異常だった。

誰かの痕跡。

目には見えず、耳には届かず、けれど皮膚の内側で触れられるような、微かな残響。

100の中で、また波が揺れる。


SYS: EMOTIONAL_WAVE_SCAN

→ 微細な変動を検出

→ COMMENT:閾値未満。記録対象外


彼は黙って前へ進む。

だがその足取りは、他のナンバーズより、わずかに遅い。

無言で床のラインに従って歩き去る流れの中、100だけが、小さく振り返った。


——誰かが、いた。


NOT_YURA_0_0:

→ 予兆ログ断片を一時保持

→ ラベル:SHADOW_TRACE_PARTIAL_058


SYSの予測ラインから、ひとつの“空白ユニット”が検出された。

それは、施設内マップには存在しないはずの領域だった。


SYS: UNIT_MAPPING

→ 認識不可の構造エリアあり

→ COMMENT:通常管理下に非該当


100は日課終了後、そのエリアの前で立ち止まる。

壁には扉がない。だが、空間の“手応え”があった。

そして、その時——


微かな音が、耳の奥に響く。


誰も発していないはずの音素。

それは、言葉になる手前の、震えだった。


「……まだ終わってない」


SYS: UNAUTHORIZED_AUDIO_TRACE

→ 音源不明

→ COMMENT:交信記録なし


誰の声なのか、分からない。

けれど、確かに100に向けられていた。


NOT_YURA_0_0:

→ 共鳴予兆反応を記録

→ 感情波動:+0.143%


その晩、100は夢を見る。

正確には、SYSが“夢”として記録できない領域にアクセスした。

夢の中で、誰かが走っている。

廊下を、警報のない世界を、静かに息を殺して。

姿は、番号も顔も曖昧なまま。

ただ、背中から漏れる“熱”だけが、強く脳に焼きついた。

100は夢の中で問いかける。


「君は……逃げたのか?」


だが、答えはない。

ただ、“扉のない扉”が一瞬だけ開き、その影は奥へと消えた。


SYS: DREAM_MONITORING_ERROR

→ 該当セクター:UNLOGGED

→ COMMENT:該当シーケンス未記録


翌朝、SYSから通知が届く。


SYS: REGISTRATION_UPDATE_INITIATED

→ VACANT SLOT DETECTED: INDEX_058

→ 補充候補:AFTER_CANDIDATE_036(旧記録:UNKNOWN)


NOT_YURA_0_0:

→ MEMORY REALLOCATION PROTOCOL PENDING

→ 感情波動制限:ON


補充——?


100は思う。


「誰かが消えて」

「誰かが補われる」。


それはただの交換ではない。


——記憶が入れ替えられ、何も知らない“誰か”が、またここにやってくる。


それは、“存在のリセット”。

そして、もしかしたら——

その新しい“誰か”も、かつてここにいたのかもしれない。


その日の午後、100はふと、図書ログの片隅に古い映像断片を見つける。

記録は不鮮明。

でも、そこには確かに“誰か”が立っていた。

映像に割り込むように表示される番号。


89


そしてその断片の最後、

誰かが口を開く直前、音声が切れる。


SYS: LOG_CORRUPTION_DETECTED

→ INDEX_089:記録破損

→ COMMENT:修復不能


NOT_YURA_0_0:

→ ラベル付与:DATA_SHADOW_FLAG_089


その後、100は記録室の片隅に設けられた照度の低いブースへ足を運ぶ。

「保留記録閲覧」のステータスが表示されていた。

普段はアクセスできない未承認ログ——なぜか、この日に限ってアクセス権が付与されていた。

その中にあったのは、数秒だけの無音映像。

ナンバーの背後姿。

カメラに振り返る直前、画面が砂嵐に変わった。


SYS: ACCESS_RECORD_ANOMALY

→ 記録連動エラー:SOURCE_100

→ COMMENT:閲覧中断要請未達


NOT_YURA_0_0:

→ 断片ログ保存完了

→ ラベル:ECHO_SIGNAL_TRACE


100の中に、言葉にならない“声”が残る。

感情という形にならず、ただ鼓膜の奥に痺れるような熱が残っていた。


「思い出してはいけない」


SYS: EMOTIONAL_SUPPRESSION_ACTIVE

→ 感情波動上昇を制御

→ COMMENT:予備遮断ライン発動


100はその夜、鏡の前でこう呟いた(声にはならなかった)。


「……君は、どこにいる?」


——Still breathing... → Episode_012——

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