未来に名前を付ける日ーー無名の手か未来を支えるまで

未来に名前をつける日

第0話

この物語の始まりは、

愛ではなく、否定からだった。

否定された声が、問いとなり、

問いが、言葉となり、

言葉が、動力となった。

だから私は、語る。

優しさからではなく、

動き出した魂として──

生き延びる者として。


第0章 未来に駆ける

巨大なトラックのエンジンが目を覚ます。夜明けの少し前、町はまだ眠っている。だが、その静けさの奥で、確かに何かが動きはじめていた。それは空気の振動か、それとも誰かの意志か。世界がまだ目をこすっているその隙間に、ひとつの決意が芽吹こうとしていた。

──その少女には、まだ呼ばれる名前がなかった。

けれど、その胸の奥には、誰にも知られていない、しかし確かな未来の風景があった。

それは幼いころ、父の仕事現場に連れていかれた日のことだった。砂利道を巻き上げるように走る巨大な車体、うねる地面を押し返すように進む車輪、軋む音。鉄と油の匂い。轟音の中で確かに聞こえた、運転手の息遣い。額の汗をぬぐう手、その指先に宿る静かな集中。車内に差し込む朝の光は、まるで神殿のように神々しく、その人の背中を金色に照らしていた。

その人は言った。「これは、道をつなぐ仕事なんだよ」

その言葉が、彼女の中でエンジンのようにかかった。

「ああ、私も、あれを運びたい」

それはおもちゃではなかった。

それは誇りだった。誰かの暮らしを、静かに確かに支えているという誇りだった。誰にも気づかれず、誰にも褒められずとも、確かに誰かの未来をつなぐという、無名の仕事の輝きだった。

学校で聞かれた夢の話。みんなが書いた「ケーキ屋さん」や「先生」に交じって、彼女は迷いなくこう書いた。

「運転手になりたい。大きな、大きなトラックに乗って、まだ届いていない未来を運ぶ人になりたい」

周囲は一瞬、沈黙した。

それから──笑われた。

「女の子なのに」「危ないよ」「もっと他にあるでしょ」「そんなの、向いてないって」

でも、そのたびに、彼女の心にエンジンがかかった。静かに、だが確かに始動した。

放課後、ひとりで見に行った資材置き場のフェンス越し。止まったままのトレーラーをじっと見つめる時間。交差点で目をこらし、走り去る車の車種を当てる日々。ノートの端に描き続けたトラックのスケッチ。

誰にも見せない夢だった。

けれど、その夢は、彼女を走らせた。

名前は、まだついていない。けれど、彼女が見ている未来は、はっきりしている。

その未来を、彼女は自らの手で運びはじめる。

それは、名もなきエンジンの鼓動だった。



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