第7話 愛していたのに
なにもかもを愛すると、そう言ったのはあなた。私を期待させたのは、まぎれもないあなた。全てを受け入れると言った。どのような事柄もすべて。それを覆したのは、あなた。
どうしていけないの? ひとくちでよかったのに。確かにひとくち求めれば、際限なく求めてしまっていたかもしれないけれど。
けれど、けれど、そこは我慢をして、あなたを尊重して、倫理と共にとどめておくつもりだった。受け入れてくれると考えたから、うちあけたのに。震える望みに対して、好ましい答えは返ってこなかった。
どうして。どうして。愛しあっていたじゃあないかとぶつければ、あなたはまるで被害者のように体を縮めて怯える仕草をした。反故にされたのは、この私だというのに。
許されるものか。期待をさせたこと、愛が無効であったこと、虚言を吐いたこと。なにもかも。
今、眼前には、血だまりの上に転がるあなた。私のすべてを裏切った、あなたの体が力なく、そこにある。私がすべてをかけて愛した、あなたのその身体が。そこに。
血だまりに指を浸して、すくった血液を口へと運ぶ。私のどうしても欲しかった、あなたのたったひとくち。
血をくださいと。肉は我慢をするからと。そう言った。
目の色が変わる。私を見る、愛しく濡れていた瞳は瞬時に冷え切って、絡めていた指は私を切り離そうとした。
私はあなたの離れかけた指を、無理矢理に引き寄せて、反対側に折り曲げた。触れていた骨の感触が、知らないものへ変わる。鈍い音が空気を走った。あなたのつんざく声も共に並走していた。
こんなこと、したくはなかったのに。したくはなかったのに。
聞いたこともないような汚らしいうめき声。うずくまって、息を荒げているあなた。すすり泣く声が聴こえる。こんなこと、したくは。
けれど、許しはしない。もう、あなたは私を見てくれはしないだろうから。それならば、望みを叶えよう。せめて私の望みを、盛大に。
刃物を背に振り下ろして、何度も刺し貫いた。生にしがみつくような、言葉が一言聞こえる。助けて、と。
そして今、目の前にはあなたであった生肉がある。
私の願望。ひとくちが、すべてに変わった。
ああ、幸せだ。幸せでたまらない気持ちだ。
生きたあなたを愛していたのも事実。しかし、あなたを口にしたかったのも、また事実。
さあ、食べよう。幸福を噛みしめながら。愛したあなたを、噛みしめながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます