第12話 貴族の慣習と社交界の常識:香りの裏に潜む本音

城での生活は、食事や服装だけではない。小春が最も戸惑ったのは、貴族たちの間で交わされる「会話」と、そこから立ち上る「香りの情報」だった。

貴族の慣習:

• 言葉の裏と建前: 貴族たちは、常に建前と本音を使い分ける。表面上は丁寧な言葉を交わしていても、その裏では「嫉妬」や「軽蔑」、「打算」の香りが色濃く漂っていることが多かった。

o ある日、小春は宮廷の廊下で、二人の貴婦人が立ち話をしているのを見かけた。 「あら、マリー様。そのドレス、とても素敵ですわね。流行の最先端でいらっしゃる」 (マリー様の体からは「自慢」の香り。でも、もう一人のレディの体からは「見下し」の香り? 「あんな安っぽい生地で、よくも堂々と着られるものだわ」って香りがする……え、口では褒めてるのに?) 小春は、彼女たちの会話と香りのギャップに混乱した。

• 身分による序列: 城内のあらゆる場所で、身分による序列が明確に存在した。廊下での立ち位置、会話の順番、座る席、全てに意味がある。小春は、その暗黙のルールを理解できず、たびたび無意識にそれを破ってしまう。

o ある晩餐会で、小春は空いている席を見つけて座ろうとした。すると、シオンが慌てて小春の手を引いた。 「小春! そこは宰相の席だ! お前は、私の隣の席に座るのだ」 (「失敗」の香りと「恥ずかしさ」の香りがする……。え、席にも順番があるの!?) 小春は、シオンの言葉に驚き、周りから感じられる「呆れ」の香りに、顔を赤らめた。

社交界の常識:

• 情報戦の場: 社交界は、情報収集と駆け引きの場だった。表面上は優雅な会話が繰り広げられていても、裏では様々な思惑が交錯している。小春の嗅覚は、その思惑の「香り」を捉えてしまうため、混乱することが多かった。

o とある夜会で、小春はシオンのエスコートで挨拶回りをする。ある老婦人が、笑顔でシオンに話しかけてきた。 「シオン殿下、お久しぶりでございます。お変わりなくご壮健で何より。隣の可愛らしいお嬢さんは、どちら様でいらっしゃいますの?」 (このおばあちゃん、口では優しいこと言ってるけど、体からは「探り」の香りがする……。そして「値踏み」の香りも……。「この娘が、王子に本当に相応しいのか?」って思ってるのかな?) 小春は、無邪気にその香りの情報について答えそうになり、シオンにひじで軽くつつかれた。

• 噂と評判: 社交界では、噂や評判が何よりも重要だった。良い評判は身分を高め、悪い評判は地位を貶める。小春の異邦人としての背景や、シオンからの特別待遇は、すぐに噂の対象となった。

o ある日の午後、庭園を散歩していると、数人の貴族の令嬢たちが集まってひそひそ話しているのが見えた。彼女たちからは、「好奇」と「嫉妬」の香りが強く立ち上る。 「聞いたかしら? あの異邦の娘、シオン殿下の御心を射止めたとか」 「ありえませんわ! あの無作法な娘が、殿下の妃になるなど!」 「殿下もどうかしているわ。一体、あの娘のどこが良いというのかしら」 (うわー、みんな私の悪口言ってるー……。でも、なんでこんなに「キー!」って怒ってる香りがするんだろう? 私、何かしたかな?) 小春は、自分のことを話されているとは気づかず、彼女たちの放つ「激しい嫉妬」の香りに、ただただ困惑するばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る