三話 戦争のために造られた子供④
一樹が目を覚ましたのは、見知らぬ部屋の、寝具の上でだった。
スプリングが埋め込まれたマットレスに、ペラペラのシーツ。しかもお約束の二段式。
隊舎での生活を思い出して、薄く笑いが込み上げてくる。
起きあがろうとして、頭の痛みに顔を顰め、違和感のある首をもう一度寝転び、さすった。
頭痛が酷いのは急激な酸欠と血流が絶たれた事が原因だろう。陸自でも腐るほど経験したものだ。
しかし、それだけに精神的なダメージも大きかった。
機械化されているとはいえ相手は子供。そんな相手に職業軍人である自分が遅れをとるなんて。
僕も焼きが回ったな。相手を甘く見過ぎた。
平和ボケをしていたつもりはなかった。なんせ、特隊ではいつも戦時と心構えをしていたから。
だと言うのに、自分は呆気なく負けてしまって、
「自信もあったのになぁ……」
寝返りを打ち、悔しさに唇を噛む。
あまつさえ、気絶させられるだなんて。
と言うか、陸将も陸将だ。サイボーグ兵を使う会社だなんて情報、先に渡してくれても良かった筈なのに。
上官への、絶対に表へ出してはいけない愚痴を心の中だけでつらつらと並べていく。
けれど一樹自身、それが間違いだと言うのは理解していた。
陸自、しかも特隊のみが、恐らくではあるが知っている事なのだろう。故に、報告書にも書かれていなかった。
敢えて知らされて居なかったのは、この企業島以外で彼らの事を口にする事が出来ないからだ。
だとすれば、これは想定していたよりも難易度の高い任務という事になる。それを自分が遂行するのだから、上官からの信頼も厚いという事だ。
でもなぁ、こっちは普通の人間だしなぁ。
しかも、あの青羽駒利と言う女も色々と問題だ。自分より三つも歳下だと言うのに、色々な意味で負けていると思い知らされる。
口調や振る舞い、状況判断能力と、指示のやり方。自分を試し、即座に動ける行動力。
並じゃない。なんならウチに欲しい人材だとさえ思えてしまうのだから、纏った雰囲気、そのカリスマ性も最たるモノだ。
ここからどう巻き返すかだよな。
ファーストコンタクトでは良いところを見せられなかっただけに、すぐさま送り返されると言う可能性も無くはない。
前任者がどのようにしてあの場を乗り切ったのかは、報告書には記されていなかったが、何か特別なことをしたに違いない。
ベッドから起き上がり、自分の背嚢から一樹は一冊のノートを取り出す。
中にはこれまでに培って来た技術や経験についての考察が、事細かに書かれている。
さて、それでは始めよう。
青羽駒利とあの二人のサイボーグ兵について、次に会った時に、どう対応するのかを決めなければならない。
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