断話 青羽 駒利の日常
青羽駒利が眉間に皺を寄せながら、苛立たしげに指先でトントンと執務室の机を叩いていた。
怒りの矛先は、研修生をものの見事に昏倒させた社員。直属の部下でもある白川雪名に対してだ。
名前通りの真っ白な髪をいじりながら、不満そうに駒利からのお叱りの言葉を聞いている。
会社員、軍人、そのどちらにしても相応しくない態度に駒利の怒りも増していく。
「貴女ねぇ、自分がやったことを分かっていますの? 前回のはまだ相手が動けなかったから良かったですわ。でも今回のは、明確な命令違反でしてよ?」
談話室に行く前に指示を出したのは、相手の判断力、行動力を見るために軽く喧嘩を売ってみろというだけのものだった。
そこに関して言えば、雪名の行動は満点で、しっかりと相手の対応力を測ることはできた。
一瞬とは言え、雪名の動きを封じる力量を見せられたのには驚いたが。
しかし、そこからが問題だった。雪名が彼を羽交締めにし、あまつさえ気絶させるなんて状況を見せられて、正直に言って震えが止まらなかった。
別に、彼女に恐怖したからとか、自衛軍との関係悪化を懸念してとかでは決してない。明確な命令違反と、その後に悪びれもなく彼女が言った、
「今回の人はなかなかいい動きでしたね」
などと言う発言に、どうしようもない怒りが込み上げてきたからだ。
しかも、殆ど合格ラインに達していた相手をだ。全くもって度し難い。
これだから子供は嫌ですわ。
こめかみをヒクつかせ、机を叩いていた手で今度は眉間を摘む。軽く目眩がするのを感じながら。
「これで何度目ですの? 貴女の独断専行には、周りも迷惑してますのよ?」
本当に、誰に似たのか、親の顔を見てやりたいとさえ思って、バカバカしいと被りを振る。
そんなの、いつも見てますのに。
そして、今度はその隣で、そ知らぬ顔を続けている男を見た。
彼の名前は黒崎務。白川とバディを組ませている子供だ。
「務も務でしてよ。どうして止めなかったんですの?」
もしも自衛官に何かあった時、彼ならそれを止められるであろうと一緒に連れて行ったのに。
彼は何もせず、ただ明後日の方に視線を向けているだけだった。
「こんなことなら、紫を連れて行けば良かったですわ」
本当に、問題児だらけのチームに頭が痛くなって仕方ない。
会社から任された第四防衛部の中で、彼らの課だけが責任者不在となっている。だから部長である駒利自らが指揮を執っているのだが。
次々に社員が辞めたり人事異動を申し出てくるわけだ。
こんな子供を相手にさせられて、理性を保てる大人は多くない。
そう、彼らは大人を舐めているのだ。自分達よりも非力な純粋な人である大人のことを。
だからこうして叱っている間も、雪名は口先を尖らせて不満気で、務はどこ吹く風と涼しい顔をしているのだ。
あぁ、もうっ、本当にこの子達はっ!
「良いですわね? 自衛官様が目を覚ましたら謝罪に行きますわよ? 手違いでしたと今度はちゃんと頭を下げるんでしてよ!?」
「りょうかいでーす」
「わかりましたよ」
不満そうにヘソを曲げる二人が、駒利は憎たらしくて仕方がなかった。
だから子供は嫌いですの。と、先ほどと同じことを心の中で毒吐きながら、駒利は携帯を取り出し、一つの連絡先を呼び出す。
頭痛が増していくのを感じながら、通話を繋いだ。
「ご無沙汰しております陽一おじさま。駒利ですわ。一つ、話さなければいけないことがありますの」
下げたくない頭を下げるのが自分の勤めだと割り切って、心のわだかまりをどうにか消そうと苦心して。
これが、自分の日常だからと、辟易する思いで明るい口調を心掛けるのだった。
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