第14話 心配性の侍女

夕食の味は皇族達に囲まれた緊張のせいでよく分からなかった。やたらと豪華だった事と微笑ましそうな視線くらいしか覚えていない。


「レイ、私はやる事があるからここで失礼する」

「分かりました」


私室まで送り届けてくれたエディングは残念そうな表情で「また会おう」と自分の部屋に戻って行く。ようやく一人になれた事で安心と疲れが同時に襲ってきた。このままベッドに寝転び眠ってしまい気持ちに飲み込まれそうになる。

もちろん結婚式前日の花嫁にそれが許されるわけもなくこの後は身体を磨かれる予定だ。


「レイ様、入ってもよろしいでしょうか?」


部屋の扉を叩かれると外から聞こえてくるのは侍女ウィノラの声だった。どうぞと入室を許可すると勢い良く扉が開かれる。


「レイ様!お待たせいたしました!」


別に待っていたわけじゃないけど。

ただ慣れた人を見ると安心感が凄まじい。ぱたぱたと駆け寄ってくるウィノラは「何も問題ありませんでしたか?変な事はされていませんか?」と尋ねてくる。彼女の大袈裟に騒ぎ立てる姿を見て落ち着く日は来るとは思わなかった。


「問題もないし、変な事もされていないわ」


私の答えに安心したのか笑顔を見せるウィノラに気が緩む。逆に「ウィノラとイーゴンはなにをしていたの?」と尋ねる。


「第二皇子宮の案内を受けていました。ここかなり広いですよ」

「王国の城より大きいものね」

「ええ、これからまた案内ですよ」


嫌そうな表情を浮かべたウィノラの言葉にそうなの?と首を傾げると「次は本城の案内です…」と返される。

ここに着いてからもう数時間は経っているのに。まだまだ案内は終わらないらしい。

広い場所なので仕方ないと思うけど。


「ならどうしてここに来たの?」

「少しだけレイ様の様子を見たいとお願いしたらようやく解放してくれました、あの悪魔」

「悪魔?」

「ガリオン様の事ですよ」


拗ねた様子で答えるウィノラ。おそらくガリオンになにかされたのだろう。彼はあのエディングの側近をしているのだ。どんな性格をしていも不思議じゃない。


「ウィノラさん、そろそろ案内を再開してもよろしいですか?」


そう思っていると外からウィノラを呼ぶ男性の声が聞こえてくる。どこか聞いた事のあるそれはおそらくガリオンのものだろう。


「呼ばれてるわよ」

「分かっていますよ…」

「もう少し頑張りなさい」

「はぁい」


とぼとぼと部屋を後にするウィノラを見送るとソファの背中にもたれ掛かる。全くうちの侍女があれだと祖国の侍女達への印象が悪くなってしまうではないか。

あの子の事だから外ではしっかりしているのでしょうけど。


「レイ、明日の式の確認を…。って疲れているのか?」


寝室から姿を現したのは一枚の紙を持つエディングだった。ソファでぐったりしてる私を見つけての言葉だったのだろう。


「少しだけ疲れました」


これくらいの本音は許されるだろう。

居住まいを正しながら言うとエディングは「そうか」と目を細めて喜ぶ。私の隣に座った彼は私の頭を自分の肩にくっ付かせてきた。疲れで抵抗する気力のない私はされるがまま。

ふんわりと苦味のある男性らしい匂いが漂う。


「少しだけ眠ったら良い」

「ですが…」

「ぼんやりした状態で話を聞かれても困る。今は寝ていろ」


乱暴な言い方なのに頭を撫でてくる手は優しくて気遣いを感じられる。

どこか懐かしい感覚に安堵を感じた私はあっさりと夢の世界へと誘われた。

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