ひよこキング

ニワトリキング

プロローグ 一途な想いに傷はツキモノ

「傷、今日も……楽しかったね。」

 きずは俺の名前だ。大っ嫌いではあるが、友達から名前で呼ばれるのは仲がいい証拠だとして受け入れている。


「な。今日も雨だけど。」

「やっぱり、筋金入りの雨男は違うね。」

 遊ぶ時に限って雨が降る。土砂降りから小雨まで、多種多様の雨を降らせてきた。雨男の俺には、よくあることだ。

「そんな褒めるなよ。心羽みう。照れる///」

 顔を背け、片手で見られないよう隠し、恥ずかしいですよのアピールをする。

「別に褒めてないけど?」


 沈黙が流れる。別に嫌な空気ではない。いつものお決まりの会話ができてむしろ心地がいいとさえ思っている。


「次は虎も来れるといいね。」

 虎は今日来られなかった友達に心羽がつけたあだ名だ。三浦大河みうらたいがで大河だからタイガーで虎。安直ではあるがいいセンスだと思っている。俺にもかっこいいあだ名をぜひ、つけてもらいたいものだが(傷ってかっこいいじゃん?)と言われ、どうやらその才能を俺のために使ってはくれないそうだ。誰か俺にいいあだ名をつけて欲しいものだ。


「そうだね。また、連絡しとくよ。」

 虎は王都で多忙にしているらしく、誘ってもなかなか遊びに来られない。魔術師の虎には、よくあることだ。


「今度はボウリング行こうぜ。で、また、虎が来られなかったらコソ練するじゃん?それで、ボコボコにできるくらい上達しておいて、これまで来なかったことをまとめて後悔させてやるんだよぉ〜。」


「いいね。ボウリング。楽しそう。でも、コソ練の事もちゃーんと伝えとく。」


 なんか声色が後半、威圧感を帯びていっていた。形だけでも一旦謝らないとまずいやつだ。


「すいやせんっしたー」

 右手の傘ごと、15度の角度で高速のお辞儀した。もちろん服や髪は濡れるが、あまり気にしない。


「よろしい」

 両手を腰にあて、体を反って、誇らしげにしている。「えっへん」と効果音が出てくる感じだ。たまにめんどくさいやつだけど、俺たち3人がバラバラにならないよう努力してくれているのは間違いなく心羽だ。


 そんなこんなでお別れの交差点間近まで来た。もうすぐ解散だろう。

「虎やあめおとこと違って一般人の心羽は暇だろうからまた遊んであげるよ。」

 うふふと笑って

心羽みうと遊びたいだけでしょ?」

 と言う。これもいつも通りの会話の1つ。自意識が高いのは一般人のたちばな心羽みうには、よくあることらしい。


 交差点に着いたところで、いつもの感じで左手を振り、俺が別れを告げる。

「それじゃまたね。」

 心羽方面の信号が青になる。信号からは「カッコウ カッコウ」と音がなっている。


「うん。またね。」

 いつもなら顔を合わせ、そう言って右手を振り返しているはずなのに――


「あのさ……傷……」

 歩道の前で心羽が止まる。カッコウの音は鳴り止み、青信号が点滅に変わる。

「ん?」

 そこにはいつもと違う心羽がいた。明らかにいつもと違う。目を合わせようとしない。何かしようとしていることだけはわかる。


「……?」

 長い沈黙の後、口を開いた。点滅が終わる。


 魔法の存在するようになったこの世界にも、記憶喪失はなかなか起きないことだ。


(……俺の勘違いだったか?)

 目が合うといつもの心羽に戻っていた。、王都から離れ、ジジイと暮らすようになった俺に気を遣って言葉に詰まったのだろう。俺だけが忘れてしまっているが、俺が記憶をなくす前からの長い付き合いで、お互いにねんごろな関係だったそう。虎も含めて。


 俺の方面の信号はすでに変わっているが、もう少し話すことにした。

「ぜーんぜんダメだね。王都に行けば、何かわかると思ったけど……」

「え?なんかその言い方だと行ったみた――」

「行ったよ。無断で。」

「……やばぁ」

 やばい顔でドン引きされている。弁明しなくては。


「だって、行けそうにないから……」

「もうちょっとまともな言い訳しな?」

 悪いことをした自覚があるだけに、ロクな言い訳が出てこない。


「……行っても思い出せなかったってこと?」

「これっぽっちもな。悲しいぜ。」


「あっちにはどれくらい居たの?」

「うーん。1時間くらいかな。でも、目的は完遂された。へへっ」

 今度は俺が、鼻を人差し指で擦りながら誇らしげにしている。


「目的って……なに?」

 今度は俺の帰る方の信号が「ピヨ ピヨピヨ ピヨ ピヨピヨ」の音が終わり点滅し始める。気のせいか先ほどよりも雨が強くなっている。


(なんか食いつきがいいな。珍しい……)

 普段は自分の話が中心の心羽が、珍しく俺の話に興味を持ってくている。別にそれが嫌だと思ったことはない。あくまでもで、友達も会話のデッキも少ない俺は助けられている。俺から話せる話題ができたことが少し嬉しい。


「……記憶喪失の時に介抱してくれた子の誕プレ渡すために行ってきた。それで、電話番号しか知らなかったから……PINE《パイン》交換した。で、交換して別れた後すぐジジイに連れて帰られた。本当は観光もしたかったんだけどなぁ。あのジジイめ……」


「へっへー。そうなんだ……傷のおじいさん厳しいもんね……魔法使いで、すごい人だけど……」

 どちらの信号も赤だ。


 沈黙が流れる。これは嫌な空気だ。いつもの通りじゃない、居心地がよくない感じだ。


(さっきまで食いつき良かったのに、なんか変なこと言ったかな?)


 青になり、心羽が歩き出す。この雲を吹き飛ばすような笑顔で別れを心羽が告げた。

「また会おうね。」

「おう」


 目を合わせてはいるが手は振ってこない。降っているのは雨だけだ。心羽にいつも通りの元気な様子はなく、どこか寂しそうな雰囲気を離れていく背中から感じさせる。俺もこの時間が過ぎていくのが寂しく感じている。

(今度から楽しい時の写真でも取って、アルバムに保存しようかな?いつでも思い出せるように……)


 信号待ちをしていると、後ろから大きな声で俺を呼ぶ声がしたので振り返る。


「王都!次はちゃんとおじいさんに許可取ってからいくんだよ!」

「おう!」


「後っ!PINEもうちょっと早めに返してっ!」

「……はーい。」

 ポケットに両手を突っ込み、帰路きろく。


(そうだ。俺は王都に行くんだ。俺の誕生日までに……ジジイには悪いが遠慮はしない。)


 今でも容易に。記憶喪失で、真冬の路頭に迷う俺をちょー優しく介抱してくれたこと。王都からの別れの際に目が合うと、小さく笑って小さく片手を脇腹の辺りで振ってくれたこと。誰もいない神社の一番上の階段で熱々の肉まんを半分にして食べたこと。


 別れ際の「気をつけてね」の一言と、たった三日間の優しさで惚れてしまうチョロい奴だったと気づいたのは、その思い出をいつか忘れてしまうんじゃないか?と怖くなった時だった。そう、薬袋《みない》 きずは彼女――長崎あやかに一途な恋をしている。

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