十五話 式守家の当主
祓い屋が集まる会合と言っても、全員が並んで座っての話し合いのようなことが行われるわけではないらしい。
各々が情報を交換したい相手と話をしたり、何かしらの取引を行っているようだ。
……一応、座卓の上に料理や飲み物も提供されているけれど、ここで飲食をするのはちょっと躊躇っちゃうかも……。
普段の千依ならば、「ご自由にどうぞ」と言われれば遠慮することなく料理に手を伸ばしていただろう。
だが、たとえ安全と言われても、商売敵が多い場所で何かしらを口に入れるのは避けたかった。
……それにやっぱり、どことなく視線を感じる……。
それもそのはず。
拝上一門の当主が嫁を迎えた上に会合へと連れてきているとなれば、誰だって気になるだろう。
「……すまないね。僕のせいで注目を浴びるはめになって」
「三智鷹様は色んな人から、興味を持たれているんだなぁと改めて実感しました」
「はは、興味なんて軽いものじゃないかもしれないけれどね。……おっと、ちょうど会長がいるし、挨拶に行こうか」
「会長……?」
「『祓の会』の会長だよ。
三智鷹は紺鼠色の羽織を纏っている壮年の男性へと声をかける。
相手は振り返るなり、厳しそうに見える相貌を崩した。
「三智鷹じゃないか。久しぶりだな」
「前回の会合には参加できず、すみません。すでにご存知だと思いますが、家で色々ありまして」
「確か、許嫁が妖に狙われたんだったな」
「ええ。相手は無事でしたが、その婚約は解消になりまして」
「そうか……。それは災難だったな……。三智鷹、あまり気を落すな。お前のように有望な者ならば、すぐに新しい相手が──……おや?」
式守、と呼ばれた男性は三智鷹の隣に立っている千依に気付き、小さく首を傾げる。
「可愛らしいお嬢さんだな。そちらは?」
「紹介します。僕の妻の千依です」
「……初めまして。千依と申します」
千依は出来るだけ丁寧に挨拶をした。
「式守」という名前は「拝上」と並ぶほどに祓い屋の中で有名だ。式守一門は特に式の扱いに長けている者が多く集まっているという。
式守は千依を見るなり、目を少しだけ見開いた。
「なんと、結婚したのか。それはめでたい。……だが、早めに教えてくれれば今日、祝いを持ってきたというのに」
「つい先日、籍を入れたばかりでしたから。なので、今日は妻の顔を繋ぐためでもあるんです」
「……ふむ。それはつまり、彼女も祓い屋としての素質があると?」
「ええ。今はまだ見習いですが、正規の祓い屋として免許を得る日も遠くはないでしょう」
「お前が人を素直に褒めるのは珍しいな、三智鷹。……千依さん、だったかな」
「はい」
式守の視線が再び、千依へと向けられる。
「この男は普段から飄々としていて、何を考えているのか分かりづらいが、人知れず溜め込みやすい奴だ。どうか呆れず、見捨てないでやってくれ」
それは同業者としての言葉というよりも、三智鷹を長年見てきた身近な者としての言葉のように聞こえた。
千依はぱちぱちと目を瞬かせた後、それから答える。
「もちろんでございます」
そう返せば、式守は苦笑しながら頷いた。
「式守さんは相変わらず、僕への評価が厳しいですね」
「本当のことだからな。……それと千依さんにもう一つ。今後の依頼は、しっかりと拝上一門の『見習い』として務めるように。──君がいつか、免許を取る日を楽しみにしているよ」
「え」
式守はにやりと笑い、軽く右手を振ってから、その場を去っていく。
千依はぎこちなく、隣に立っている三智鷹の方を見る。
「……三智鷹様。今のってもしかして」
「知っていたみたいだね、千依さんが違法の祓い屋をやっていたこと」
「ばっ、罰金はっ……!?」
ぶわっと体から汗が噴き出す。
激しく焦りながらも小声で訊ねれば、三智鷹は苦笑を返してくる。
「あの人のさっきの言葉が返答だと思うよ。まぁ、千依さんがあれ以上、違法の祓い屋のままで活動していたら、僕が君を見付けるよりも先に『違反者』として捕まっていた可能性はあるけれど」
「ひぇっ……」
つまり、千依が違法の祓い屋をやっていたことを「祓の会」の会長である式守はすでに知っていたのだろう。
その上で、あえて泳がせていたのかもしれない。
「拝上一門に入るならば、それでいいってことなんだろうな。大目に見てもらえて、良かったね」
にっこりと笑いかけてくるが、そこには少し意地の悪さが透けて見えた。
「さすがに肝が冷えました……」
中級以上の妖と対峙する時よりも、恐怖を感じた程だ。
先程の式守という人も三智鷹と同じで、敵に回さない方がいい種類の人間だろう。
「でも、やっぱり式守さんも目がいいね。抑えていても、千依さんの実力は分かるみたいだ。あの人に千依さんを先に引き抜かれなくて良かったよ」
少し安堵するように三智鷹は肩を竦める。
「本来、君ほどの実力ならば、どこの流派からも引っ張りだこだと思うからね。……まぁ、どこにもあげないけれど」
ふふん、と上機嫌に三智鷹はそう言った。
すでに三智鷹と結婚しているのでどこにもいけないだろう、とはあえて伝えなかった。
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