第13話 異国のナイチンゲール


宮部は消えた。マスクドシリウスのチャンネルは

そもそも存在しなかったものとなり、星のカケラたちも自分たちが、そうであったことは記憶から消えた。しかし、カケラたちの起こしたテロは消えない。ただ、誰がやったかは不明のまま、終息した。

河野さんは言っていた。奪った命や大きな出来事は

残るのだと。ただそこまでのプロセスが変わるんだ、と。



結果ありきで修正される、ということのようだ。





「暁くん、お疲れ様。これでまた1つ、世界大戦から遠ざかる事ができた。とてもいい決断だったと思うよ。彼はもう狂っていた。あのままではこの先苦しむことしか待ってなかっただろう」





…………そう思う。確かにそう思う。

だけど宮部はそれでも生きたかったんじゃないかな。とはいえ、それだけならいくらでも救済のしようはあったとしても、マスクドシリウスを盲信する者をテロリストにしていた。例え、直接的な言葉を使わなくとも。もちろん、マスクドシリウスを盲信した者たちの心の奥底に、破滅願望やこの世界への不満があったのは間違いないが。宮部の話の中で、隣室のおじいさんの事が出てきたけれど、宮部はきっと、不思議な魅力のあるやつだったんだと思う。そして、星のカケラの会で思ったけれど、皆とワイワイ楽しんでいる宮部は、本当に嬉しそうだった。ずっと、寂しかったんだろうな。




「彼はね暁くん、いや彼みたいなタイプはね、とても危険なんだよ。無意識に人の心を掴んでしまうから。掴まれた者は、同じ波長でその相手の望むことをしてしまう。それは、過激であればあるほど一体感を呼ぶ。そして、酔いしれ、突き進む。集団の心理は時として恐ろしいものを生み出してしまう。そこにカリスマがいるのなら尚更にね。過去の歴史にもそんな事例いくつもある」




「そうですね……」




「ところで暁くん、そろそろ次お願いできる?」




簡単に言うなよ!!同級生がこんな事になったんだぞ!このジジイ自分でやれよ!!と言いながらも俺、リュックからササッと冊子取り出してんじゃん!!




「セラ・ノア」

河野はたった一言その名を言う。

その表情は無機質だ。




それを聞き、セラ・ノア?と暁はページをめくる。

そこにセラ・ノアの書かれたページを見つけた。




セラ・ノア

元看護師

現在は、クアンザ共和国にて貧困の支援を行う。

各国の支援で維持する“白光の家”にて、末期の

病人たちの最期の看取りを中心に、世界中への

平和への呼びかけなど行う。

ノーブル平和創造賞受賞




「平和の申し子みたいな人じゃないですか。この方が何故ジャスティスチェアの対象に?」




「支援というのはもちろん善意だ。この国を裕福に、平和に、発展のために、と。それをそれぞれの国民はダメとは言わない。自分たちの税金が良い事に、人助けに、人命に使われているからだ。しかしどうだろう?ずっと支援しているはずなのにこの国は豊かになっているのだろうか?暁くん、君もし道端で天使を拾うことがあれば試してごらんよ、毎日その天使に湯水のように金を与えてみたらどうなるか」




「えっ!?天使!?そんなのその辺に落ちてるんですか?」暁は目を輝かせて河野に聞く。そんなの……育てたいに決まってる!!と。




「は?例え話も通用しないの?落ちてるわけないだろうが!!!」




まじでなんなのこのジジイ!!

道端に落ちてたのこのジジイだったな!そういえば!毎日お前に重油でも与えたやろうか、あぁ?




暁は精一杯の毒を吐く。あくまで心の中で。





「国民から批判されずに支援をし、そしてそれがそれぞれのポケットの中に入っていたら、豊かになるのはこの国ではなく誰かさんのポケットだ。さぞかし誰かさんたちのポケットは豊かになっただろうね?」




「だからって世界大戦て?」





「異様なまでのメディアの取り扱い方、皆が疑わない善行、それを支援するという建前の人権保護、しかし今の時代の情報の伝達速度では、暴かれつつある真実…………しかしもう、大国は手を引きたい。何故ならそれで多くの無知な人間たちを騙してきたから。引かれて困るのは誰か?彼女だ。大国の秘密を握る彼女はどうする?」





どうするって………俺が彼女なら……

脅す。その欺瞞に満ちた同じ穴のムジナたちを。




「セラノアはカードをまだ切ってはいない。しかし彼女の手元にあるのは紛れもない大国の恥部だ。国民たちからの信頼は失墜し、誰もボランティアを、募金を、支援を信じなくなるだろう」





河野は笑う。

そしてさらに続けた。





「そしてそのポケットの中の大金で“戦争の火”を買うことができたなら…どうだろう?」




暁はゾッとした。

この世界は、どれほど脆く出来ているのかと。

そんな事くらいで、それが火種になるのなら

いくつあっていくつ摘み取ればいいんだよ、と

思っていた。





「でも河野さん、今回は僕はムリですよ。だって日本語しか話せませんもん」




話が通じなければなにもできない、暁は思った。

それにはそれに見合った人を見つけてほしい、それに出来ればやりたくない、と思っていたのだ。





「大丈夫、暁くんでいけるから」





河野はニヤリ……と微笑んだ。




「いや、ムリですって」




「試してみるといい。そして、セラノアを裁くんだ」

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