最終話 祷雨は、祈りか絶望か

「あー、疲れた……」


 斎藤さんたちと駅で別れたあと、予約してもらっていた駅前のビジネスホテルにチェックインした。


 用意されていたのはシンプルなシングルルームで、私は部屋に入ると荷物を脇に起きベッドに突っ伏した。


 今日は本当に疲れた。


 龍穴開放とライタンの召喚もだけど、とにかく移動に疲れた。


 新幹線や車移動も時間がかかったけど、あの獣道みたいな山道も結構大変だった。


 官僚の人たちはあの山道をスーツで歩き、今ごろは何事もなかったように新幹線で東京に戻っているはず。


 そしてまた、明日の朝から霞ヶ関で仕事をするのか……。


「官僚って大変だな……」


 思わず呟く。



 しばらく寝転がっていたけど、気になってスマホを手に取った。


 神羅義かむらぎ神社からの車の中でスマホの電波が通じたので慌てて検索してみたけど、ライタンの画像はすごい勢いで拡散されていたとはいえ、もとを辿ると画像は3種類しかなかった。


 どれも斎藤さんが言っていた通り不鮮明で、鳥の群れのように見えたり、何か細長いものが浮かんでる?という感じで、決定的に龍だと分かるものはなかった。


 画像加工されてるものもあったけど、それは明らかにフェイクで、結局ネタとして扱われ面白がられているだけのようだった。


 とりあえずほっとする。


 それにしても龍みたいなものが現れたのかも?くらいでこんなに世間は反応するんだ。


 私にとって龍はかわいくて愛しい存在だけど、世の中の人にとっては伝説の神獣、または信仰の対象なんだと改めて知った。



 でもつい色々検索していると、ピロンと音がして高坂さんからLINEが来た。


「今夜は実家に泊まる。明日新幹線で話そう」



 実家に泊まるということは、お父さんと話がうまく行ったのかな。


 だといいけど、と思いながら私は「了解」のスタンプを返してスマホを横に置いた。



─────────────────────




 翌日も、指定された新幹線の座席はグリーン車だった。


 隣に座った高坂さんは、少し疲れたようにため息をついた。


「昨夜は大変だったよ」


「お父さんともめたの?」


 高坂さんは慌てて否定した。


「違うよ。神社への問い合わせ。ホームページからもそうだけど、電話も何回もかかってきて」


「何で?」


「神社の上に龍は本当にいたのかって」


 想定外の話に言葉がでなかった。


 まさか実際に神羅義神社に問い合わせる人までいたとは。


「電話に関しては、うちの親父が『知りません』でガチャ切りしてたけど」


 あー、やりそう……。


 想像してちょっと笑ってしまう。



「昨日両親と話したんだけどさ……」


 高坂さんが話し始めたので、私は聞くことにした。


「正直二人とも老けたなって思った。まだまだ元気ではあるけど、やっぱり親不孝してたなって」


「……」


「まだ正直、神社を継ぐかどうかの踏ん切りはつかない。でもこれからはちょくちょく帰ろうかと思ってる。神職の資格なら今からでも取れるし」


「神主になるの?」


「いや、まだ分からないけど」


 座席の背もたれに深く沈み込みながら、高坂さんは続けた。


「俺、恥ずかしいけどさ、実家のこともだけど国とか国防とかあんまり考えたことなかった。たまにニュースでスクランブルの話とか聞くけど、真剣にとらえてなかったというか。でもそういう無関心がダメなのかもと思って」


「それは、私もそうだよ」


 私もあの会議のとき、斎藤さんに家族の具体例を出されるまでよく分かってなかった。


 国を守ることは国民の命と生活を守ることに直結してるんだ。


 ああやって、陰で日本を支えてくれてる人たちがいる。


 私たちができることは小さいのかもしれないけど、一人一人意識を持つのは大切なのかもしれない。



「だから祷雨のことは早川さんの判断が全てなんだけど、俺としては祷雨はアリなのかもしれないと思ってる。でももちろん一番負担が大きいのは早川さんだから、どんな判断でも俺は受け入れるよ」


「うん、ありがとう」


 改めて、高坂さんがいてくれてよかったと思った。


 この大きな判断を私一人では決められない。


 国側の人たちは祷雨を推進してるけど、私自身が答えを出すにはもうしばらく時間がかかりそうだ。




─────────────────────




 そうして東京駅に着き、私たちはそこで別れることになった。


「じゃあ、また連絡するよ」


「うん、私も」


「いつでも相談してくれよな……、その、もっと頼ってくれてもいいし」


「え?」


 私がとっさに聞き返すと、高坂さんは「あ」という感じで一瞬慌てて


「それじゃ、また!」


 と言って、あっという間に人混みに紛れていってしまった。


 残された私は立ち尽くしていた。


 いまのは何だったんだろう……


 しばらく考えたけど、「ま、いいか」と今は割り切ることにした。


 私には、とりあえず考えなければいけないことがある。


 今はまだ決断を出せないけど、自分が後悔をしない答えを出したい。



 ────けれど、


 いつも持ち歩いている小さな袋から、メイリンの鱗を取り出す。


 それは日の光を受けて、青くキラキラ光った。


 その光は、私の心の中の迷いを映しているかのようだった。


 けれど見つめているうちに、その光は──


 まだ見ぬ未来への小さな希望、そして祈りのようにも思えた。


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