第7話 パートナーについて
アイリスとカイの婚約は少し間を置いてからということに決まった。
空白の一年間の埋めるかのように毎日会いに来てくれているカイをアイリスは受け入れた。屋敷で会うことが多いが時々は外でデートをすることもあり二人は幸せに満ち溢れた日々を送っている。
そんなある日のことアイリスの元に一通の手紙が届いた。差し出し人は学園、内容は創立記念をお祝いする王城パーティーのお知らせだった。毎年恒例の行事であるそれは学院に通う生徒を子に持つ貴族も参加をしている大規模なもの。アイリスの隣に座っていたカイが手紙の内容を覗き込んだ。
「今年も参加するの?」
「行かない理由がないもの」
出席必須というわけではないがいかないとなると後で質問攻めにされるだろう。それならば参加した方が良いとアイリスは苦笑いで答える。
「ふーん。エスコートは?」
「お父様かお兄様にお願いしようかしら」
分かりきった質問をしてくる意地悪なカイを揶揄い返してやろうとアイリスは考えた。
実際婚約者がいない身となれば身内に頼むのは不自然な話ではないし、頼めばあの二人なら引き受けてくれるだろうと確信もある。
「アイリス、意地悪しないでくれよ」
「先に意地の悪い質問をしたのはカイでしょ」
「ごめん、ごめん」
拗ねたふりをするアイリスを宥めようとカイは彼女の髪を一束持ち上げてそっとキスを落とした。
婚前の男女がべたべたと触れ合うなんてはしたないと思われるかもしれないが今は二人きりだ。気にする必要はないとアイリスはされるがままにカイの行動を受け入れた。
「カイは昔から意地の悪いところがあるわ」
「アイリスの口からエスコートして欲しいとお願いされたかっただけなんだ、許してくれ」
どこか浮かれたようだったカイがしゅんとしおらしくなるものだからなかなか見れない姿にアイリスはくすりと微笑んだ。
「それじゃあお詫びに今度のパーティーのパートナーをお願い出来るかしら?」
アイリスからの言葉を受けたカイは一気に明るい笑顔を取り戻して「喜んで」と頷いた。
彼と私どっちが年下か分からないわね。
まるで子どものような無邪気さを見せる彼にアイリスは心の中で揶揄った。
「僕、だいぶ浮かれてるな」
揶揄う視線を察したのか口元を手で覆って恥ずかしそうにするカイを見てアイリスは「お互い様よ」と笑った。
顔には出さないが彼女もだいぶ浮ついた気持ちでいる。ずっと想いを寄せていた相手にエスコートをしてもらえるのは楽しみだし、二人で踊ることを考えただけで胸が躍るのだ。
本当に幸せ過ぎるわ。
「どうしたの?」
カイの肩に寄りかかると少し驚かれたものの優しい笑顔で抱き寄せられた。
「幸せだなって思っただけよ」
ハリーとの婚約がなくなったことも嬉しかったがそれ以上に好きな人と両思いだったこと、そして婚約者になれることがアイリスはたまらなく嬉しかった。こんなに幸せで良いのかと思ってしまうほどに。個人的には世界で一番幸せなのではないかと思うくらい幸せな気持ちでいっぱいなのだ。馬鹿になったと思われそうだから決して口にはしないが日々そのことばかり考えている。
「アイリスはすぐに可愛い事を言うね。僕も幸せだよ」
「良かった」
額にキスを落とされるとそこを中心に熱が広がっていく感覚がする。アイリスはそれが今だになれなかった。気恥ずかしさで顔を赤く染めるとカイは揶揄うように笑う。
「額にキスをしただけで真っ赤になられてたらこの先が心配だな」
「どういう意味?」
顔を持ち上げて不思議そうにするアイリスの顎に手を添えて、親指をそっと柔らかな唇に滑らせるカイは距離を縮めた。
「婚約者になったらキスはここで受け止めてもらうことになるんだよ、アイリスは耐えられるかな」
言っている意味を理解したアイリスは先ほどの比にならないくらい顔を赤く染め、逃げるように距離を置いた。
カイとのキスを考えたことはなかったが直接言われると相当恥ずかしい気持ちになる。アイリスは赤くなった頬を隠すように両手で覆い、彼を少し睨んだ。
「揶揄わないでよ」
「本気なんだけどな。早く君とキスをしたいよ」
「だから…」
「大丈夫、ちゃんと心の準備が出来るまで待つからゆっくりで良いよ」
優しいカイのことだ、無理強いはしてこない。ただ長く待たせるのも、自分が待つのも嫌だから近いうちにはすることになるのだろうとアイリスは内心思った。
一方でカイも長く待てる自信があるか少し不安だった。
「こっちに戻っておいで、アイリス」
「揶揄わないって約束したらね」
「分かったよ」
両手を広げるカイの腕の中に戻ったアイリスはふとテーブルに乗った手紙を眺めた。
なにも起こらないと良いけど。
正体不明の嫌な予感が胸をざわつかせた。
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