第42話 貧民街
移動手段は、馬と牛と徒歩。
ルシーナ隊が行進することはすでに知らされているらしく、一般人たちの花道。
小さな子供たちが、「頑張ってね!」と声を透してくれた。
黒肌の緑毛馬に乗っている私は、習った通りの手の振り方をしてみせる。
聖女様って、と半端にひそひそ声が聞こえるけど、風の向きで聞こえにくい。
――少し、不安。
レイン姫のイメージって、どれくらい広まっているんだろう?
それから、レイン姫あらため、「アメ」について。
そう思うと少し不安だった。
――私は姫の産まれじゃない・・・
表情をくもらせたらしく、茶色の緑毛馬に乗ったサクラ君が言う。
「あんたさんは、あんたさんでいいと思う。俺も緊張している・・・」
「えっ・・・あ、はい・・・気遣い、ありがとう。感謝します、サクラ」
「はい、姫」
――なに、この、姫と兵士の会話??自然と口から口調が出た。
牛に乗ったラクも側にいて、話しかけてきた。
「アメ。ここは栄えている普通の街。貧しい街のあたりになると・・・わびしいですよ」
ラクの言った通りだった。
手紙のやりとりで何となく把握しているつもりではいたけど、貧しい。
まず、罵詈雑言と石ころが飛んで来た。
これに対応するのは一般兵たち。
そこで炊き出しをして、川の中や道端に捨ててある人間の死体を片付けた。
「なんなのここは・・・?」
聞き取った兵士たちが苦そうな顔をした。
どうも地図にないこの地区は、文字にするなら貧民街。
貧しいものしかいない。
炊き出しはすぐになくなって、死体は炎魔法で一気に焼かれた。
とにかく、不潔。
皆が皆、「姫さまはたずさわらないで下さい」と雰囲気で言っている。
申請されていた衣類を渡したり、野菜の苗を渡したりした。
「ありがとう、ブタ!優しいやつはブタだ!」
十五歳くらいの女の子が、嬉しそうにそう言いながら逃げて行った。
――わたしは人間です、って叫べたら・・・どんなにか良いだろう?
ここで下した判断は、リンゴの木の苗を植物魔法『サカス・サカセル』で贈ること。
これは貧民街を喜びに沸かせた。
リンゴの木の苗を肥料と一緒に土に植えて、魔法で成樹させるのだ。
すぐに実ができて、食べれる状態になった。
貧民街には魔法もない。
とても驚いていたし、なにより文字もないので手紙が来なかった、ってことらしい。
せめて言語が同じでよかったのかもしれない。
・・・多分。
言葉使いが汚いと思ってしまった。
上手くいったはずなのにしょんぼりしていると、ラクが側に来て言った。
「ここらは、犯罪を犯したものたちの子孫で構成されている区です。あまりお気になさらず。わたしたちの思想にも、生まれによる実力の差というものはあります。運も実力の内、と言うような言葉がある」
「わ、わたしはっ・・・」
「アメ。運も、実力の内です」
――えっ・・・?
「あ、はい・・・」
「うん。僕はあなたを個体として認めていますよ。実力を持っている、と」
「嬉しい」
「うんうん。今は以上です。あ。サクラは気分を悪くして少し休んでいます。得手、不得手はしょうがない」
空を見上げた。
青空で、ぽかぽか陽気。
本来の私なら、鼻歌でも歌い出しそうなくらい良いお天気。
「どうかされましたか、姫?」
兵士のひとりが声をかけてきた。
「いえ・・・天候が雨でなくてよかったのかな、て」
「ああ、確かに。煮炊きが難しくなりますもんね」
――ああ、そうだった。予定より物資が入りそう。申請しておかないと。
私は兵士のほうに視線を合わせると、微笑した。
「心遣い、感謝します」
「とんでもない!」
「一緒に頑張りましょう」
「了解です!」
次の区になるまで、荷物が狙われた。
どうも貧民街の人々には、配給みたいなものに本当の感謝ができないらしい。
なにも貧民街の全部ではないだろうけど、この区の人々は正直、心まで不潔だ。
その馬や牛も食べたいからくれ、とか意外だった。
荷物番を見つけて奇襲をかけて来たりして、一般兵が対応してくれた。
わたしの寝床が真夜中に襲われ、彼らが火矢を放ったのは「外の人」に向けてらしい。
なのに、姫が自分の子供を産んだら自分が王様だ、「いとわない」と叫びが聞こえた。
・・・とても、心地悪い場所だった。
次の街でもこんな想いをするんだろうかと思うと、億劫だった。
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