第12話 万能と言われている薬酒


 村の人たち代表に、「レイン姫じゃなくて、アメでいいの?」って言われる。


「えーっと・・・はい。レインでもアメでもいいですよ。別人です」


「本当に異世界から来たのっ?」と子供たちが言う。


「はい。えーっと・・・少なくとも、目覚めたら知らないひとの身体でした」



 数秒の間。


 村から歓声が上がる。


 そうか。レイン姫を一言二言で現す言葉が見つかった。


 性格悪いんだね。



 姫は総じてそういうものなんだと思って普通だと思っていたと、老婆。


 うんうん、と老爺たち。


 花と蜜蜂が意味を変えてよかったー、と子供たち。



 ああ、なんだか心が痛い。


 消毒されてるみたいに。


 ここで頑張るに、前世からの心の傷が消毒されているような気がする。



 本当に私は、こんなに好い人たちと一緒にいてもいいんだろうか?


 やっぱりそう思うのは前世からのトラウマか。


 ここを出て生きていく、っていうのもなんだかおかしい気がするくらい適合したい。


 この村には。


 対面を大切にしてくれてありがとう、と、摘んだ花を青年のひとりからもらった。


「良い香り~。あまーい香り~」


「芋の件、マジでありがとうなっ」と老爺たち。


「うんうん。私って、ここにまだいてもいいですか?」


「それでいい」


 付き添いのラク神父が「それでいいんですよアメ」と言った。


「これからは村人はあんたさんのこと、アメって呼ぶそうや」


 そう言って近づいて来たサクラ君が、花を取り上げた。


「えっ」


 一輪の水色スミレの花を、私の耳元に飾ってくれた。


 にっと、笑うサクラ君。


「なかなか似合ってるで」


「俺があげたのに~」と村人の青年がなげく。


「俺の女になるんじゃいっ」


「そうなんですか?」


 村人の視線が私に集まって、慌ててしまう。


「え、あ、はい。サクラ君と付き合っています」


「・・・あ、そうか。別人だった」と花をくれた青年。


 村人たちが、「すまんすまん、アメちゃん」と雰囲気が穏やかに戻る。



 レイン姫は・・・何をしてたひとなんだろう?


 国のために美しくあらねば、みたいに記述にあったけど・・・


 うーん・・・



「聖女様で変りはないんですか?」と少女に言われる。


 困ってラク神父に振り向くと、うなずかれた。


「その身体でいるかぎり、姫か聖女様だと思って下さい」


「なるほど」



 カリスと言う少女に相談を受けた。


 カリスの母は男を作って出て行って、父と暮らしていると。


 一軒家に住んでいるけど、それは隔離のためらしい。


 父親が肺を患っている、と。


 それからすすめられた肺に効く薬酒を飲んでから、喋り方が少しおかしい、と。


 この村に医者の代りがいるんだとしたら、衛兵らしい。


 つまりラク神父たち、ってことになる。


 困った顔をしているラク神父が、「酔っているだけなのかと思っているんです」と言う、



「医者の免許を持っていますか?」


「いえ、免許?またすごい知識を持ってるなぁ・・・免許は持っていません」


 三人兵が「俺たちはメカニック系だぜ」と言う。


「ラク神父に何かあった時に?」


「「「そう」」」


 ラク神父が「薬酒の成分は全て簡易の血液検査でクリアしているんです」


「じゃあ、薬酒ってアルコールですよね?酔っ払い?」


「どうも最近、血を吐いたりするんです。薬酒を飲み始めたせいだわ」とカリス。



「成分表ってありますか?」


「知らない」


「あ。こちらが管理していますよ」とラク神父が言う。



「それ、見せてもらってもいいですか?」


「別にいいんですけど、見て分かるんですか?」


「うーん・・・もしかしたら、って言う心当たりがあるんです」


「でしたら資料室に移りましょう」



 ――

 ――――・・・


 自室にて本棚と向き合い、そして黒い装丁の西洋書の造りの書籍を取り出す。



 開いて見ると、そこには「持ち出し禁止」と描かれていた。


 朱印が打ってあって、おそらく王宮とあるんだから王宮のなんだろう。


 持ってきちゃったのね、レイン姫~・・・!!


 でも、ありがとう。



 少し前に興味があって、目を通してあったページを探す。


 メロリンコルン。


 これだ。問題はメロリンコルン。



「どういう意味です?」


 呼び出されたラク神父が不思議がる。


「おそらくですが、カリスの勘は当たっているかもしれません」


「薬酒は万能効果のあるものでしか作られていません」


「はい・・・おそらく、メロリンコルンアレルギーです」


「はぁっ?」


「メロリンコルンは薬酒にすると万能効果があるとされていますが、カリスの父親は普段から薬酒を摂取していた、とのこと。酔っていたのも本当だと思いますが、メロリンコルンは適合しないとアレルギーに変るんだそうです」


「・・・メロリンコルンが?」


「この世界にあるのかどうか分からない言葉だけど・・・」


「なに?」


「メロリンコルンは、薬酒にして摂取しすぎるとアレルギーを発するひとがいると」


「まさか・・・『天罰』っ?ああ、なんてこった。すぐに確認します」



 退室して自分以外誰もいなくなった自室で、ベッドに腰掛ける。


 そのまま後ろに倒れてベッドに寝転ぶ。


 ふかふか。


 ――・・・役に立てたんだろうか?



 後日談、薬酒を摂取するのを止めたカリスの父は吐血が止まったらしい。


 身体に良いものだからと摂取していたが、天罰的なことってあるんだなと言ったらしい。


 その喋り方が治ったのを感謝されて、カリスの父は久しぶりに外に出ることも叶った。


「空を見上げるなんて久しぶりだなぁ」



 自分も空を見上げてみる。


 吸い込まれそうな青空が冴えていて、素直に綺麗だと思った。



 サクラ君と朝焼けを見る約束をして、当日は木登りをした。


 葉陰まで美しい。


 山の稜線や森の木々の影が、朝焼けに飲み込まれそうになって輪郭を溶かす頃合い。



 ああ、このまま安穏とした日々が続けばいいのに、となぜか思った。


 

 ――――・・・

 ――


 サクラ君は、ピアスふたつをくれた。


 例のデザインしたやつ。


 小さな化粧箱に入っていた。


 

 なるほど、カタピ・・・片耳にふたつ穴が開いているんだった。


 ひとつは内側用の縦に長いピアス、もうひとつは半休の単体で外側用のセット。


 水色と透明な宝石の贈り物に、鏡を見る時間が少し長くなりそうだと言った。


 サクラ君は苦笑。



「お礼はキスでええで」


 そこにラク神父がやって来て、「探しましたよ」と少し怒っている。


 ラク神父を手招きして、不思議そうにされる。

 

「サクラ君、目をつぶって?」


「ほう」


 目をつぶったサクラ君を示して、ラク神父に目配せをすると意を察したようだった。


 片手の指二本を示して見せる。


 ラク神父が片手の指二本でサクラ君の唇に触れて、すぐに私の肩を抱いて移動を始める。



「・・・ん?なんや今の違和感・・・なんでラク神父の味がすんねんっ?」


「なんです、ラク神父の味、って?」


「風味じゃ!!」


「私の指って風味があるんだ?」



 少し、笑ってしまった。


 その冗談はけして多用してはいけませんよ、とラク神父に言われる。


「皆が僕の指の風味を覚えたらイヤですから」



「俺、なにっ?」


 うしろから着いてくる形となって、サクラ君が困惑中。


 肩を抱いたままエスコートされて、いつもの場所に戻った。


「ちょっとした罰ですよ、サクラ」


「ああ。勝手に森に入った件な。分かった。指風味の刑でちょうどや」


「ああ、そう」


「うんうん」


 

 薬酒の件で、メロリンコルンの量を減らす試みがあった、と報告がのちにあった。


 すると喘息的な症状が改善した件がある、というもの。


 どうもメロリンコルン、味も香りもいいし、時期になると大量に採れるらしい。


 薬酒が毒に変りかねなかったのは、濃かったから。


 メロリンコルン入りの薬酒は、どうも「美味しい」で有名らしい。

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