第29話「愚の骨頂ですわ」
「……そろそろ起きろ、寝坊助」
「ん〜〜〜〜?」
俺の布団をデカデカと占拠して眠る、ふに子を揺する。一度は目を開きかけたものの、どこ吹く風といった様子で寝返りを打った。ので、
「お、き、ろ、よ……!」
「んあ〜〜〜〜」
正面から脇の下に手を通して、無理やり起き上がらせようと試みる。が、小学生の腕力では、彼女の恵体は持ち上がりきらない。ふくよかな感触に、なんでコイツ無駄に色々重いんだよと、最早イライラしながら引き上げると、にへらと笑って「えへへ、おはよ〜〜〜」と抱きついてきた。
「もうこんにちはの時間だけどな」
「も〜〜、それこそが休日の醍醐味でしょーが」
「毎日休日みたいなもんなのによく言うぜ」
ふに子はふわあと大きく欠伸して、立ち上がる。
「お腹すいちゃったあ」
「朝ご飯、食うか?」
「おじちゃんのご飯も食べたいけど〜〜〜、今日は折角のお出かけでしょ〜〜〜〜?」
「ああ、はいはい」
言いたいことは分かったので、さっさと出かける準備を済ます。
「いやあ、久々に電車乗ると疲れるねえ〜〜〜」
お腹空かすのには丁度いいけど、といってふに子はゆるい笑顔を浮かべた。
流石にお出かけということで、ジャージの上だけオーバーサイズのだぼっとした緑色のパーカーに着替えている。下は結局パツパツのままだが。
「乗ってるだけで済むから、飛ぶよりは楽だけどさ〜〜〜」
「そりゃそうだろ」
そもそも、その小さな翼で大きな身体を支えられるのかという疑念はあるが。使わなさすぎて退化したんじゃなかろうか。
とはいえ、そのレベルの面倒くさがりが、自ら出かけようと言ってきたのだから
「じゃ、一軒目いこ〜〜〜」
「はいはい」
「はぐれないようにね〜〜〜〜」
「いやあ、やっぱ一軒目といえばこれだよね〜〜〜〜!」
大きなプレート皿を持ったふに子が、瞳を蘭々と輝かせる。ここはホテルのビュッフェ会場である。お財布にはかなり響くが、一人あたり二千円程度なので、他の店でたくさん食われることを考えるとだいぶ優しい。
食べ放題でこれだけ食う
「喜んでくれて何よりだよ──相変わらずすげえ量だな」
「ますたーにならあげてもいいよ〜〜〜〜?」
「欲しかったら取ってくるから大丈夫だよ」
苦笑しつつ答えるが、欲の強い彼女が少しでも譲る姿勢を見せるあたり、それなりに好感度は貰えてるんだな、という気持ちになる。
いつものんびりと動く彼女は、己の欲に対する動作だけは非常に早い。俺がバランス良く盛ったプレートを綺麗に食べている間に、溢すんじゃないかというほど芸術的な盛り付け具合だった山を平らげ、俊敏な動作でおかわりを持ってきている。
「うん〜〜〜、おじちゃんの料理も美味しいけど、こういう色々食べれてオシャレなのもいいよねえ〜〜〜〜」
「お前のプレートも現代アートみたいなオシャレさしてるもんな」
フレンチみたいに少量を綺麗に並べるのがビュッフェのイメージなんだけども。まあ、楽しく美味しく食べるのが一番か。
「よ〜〜し、お腹膨れた〜〜〜」
ホテルを出ると、少し丸くなったお腹をポンポン叩いて、ふに子はにへらと笑った。
「次はどこ行きたいんだ?」
「あれ〜〜〜」
「ええ……?」
彼女が指さしたのは、少し歩いた先にある、スイーツのバイキングが売りのお店だった。
「まだ食うの?」
「何言ってんのぉ、まだ全然お腹いっぱいじゃないよ〜、それにスイーツは別腹でしょ〜〜〜?」
甘い物が苦手な俺としては全然他の場所がいいが、ふに子が望むならということで突入。
席に着くと同時に、ふに子はすごい勢いでスイーツを盛り付けてきた。積み重ねて円形に並べられたせいで最早ホールと化しているショートケーキなど、オシャレでカワイイスイーツにあるまじき状態となっていたが、豪快な食いっぷりは中々に気持ちがいい。
「ますたーもなんか食べれば〜〜〜?」
「そうだな、軽くだけ取りに行くか」
席を立ったふに子に着いていって、バイキングスペースを巡る。スイーツのイメージが強かったが、パスタやカレーなど思いの外種類が多かった。
隣でふに子が、ちょこちょこと小股で歩く。
「……俺に合わせなくても大丈夫だぞ?」
「ん〜? どーせなら、一緒の方が楽しーでしょ?」
そう言われてしまうと、そりゃそうだとしか言えない。なんだか少し、こそばゆかった。
メロンや桃なんかのフルーツを仲良く盛り付けて、席に戻ろうとすると、ふに子が「あ〜、ちょっとまって〜〜!」と立ち止まった。
「さっきのケーキにコレ乗せて食べたら絶対美味しいよね〜〜〜!?」
「絶対うまい」
「行ってこよ〜〜〜!」
席にプレートを置いて、ふに子は俊敏な動作でスイーツコーナーへと向かった。
どんな立派なケーキを作成して帰ってくるのかと、メロンを食べながら待っていたが、一向に彼女の姿は見えない。こりゃ何かあったなとケーキのコーナーに向かえば、ショートケーキの前で、彼女は立ち尽くしていた。
「ふに子、どうした?」
「あ、ますたー。それがね〜──―」
「隙アリですわ!」
ふに子がこちらを振り返った刹那。その奥で、誰かが目にも止まらぬ早さでトングを動かすのが見えた。
「あ──────っ! ずるいずるいずるいっ!!」
「ふん、隙を見せたのが悪いのですわ♪」
カチカチ、と威圧するようにトングを鳴らして、その女は勝ち誇ったように笑った。
白を基調とし、赤いリボンがたくさん付いた、ショートケーキのようなフリフリのドレス。派手な桃色のツインテール。所謂姫ロリって感じの、派手な印象の女だった。
「えーと……どういうこと?」
「ケーキがラストの一個だったからね〜、ずっとどっちが取るかで睨み合ってたの〜〜。そこにますたーが来て、あたしがちょっと隙を晒した一瞬に……!」
「ほほ、獲物から目を離すなど愚の骨頂ですわよ!」
ぐぬぬとふに子は歯噛みしているが、俺は当然の疑問を投げかける。
「……あの、食べ放題なんだから、奪い合わなくても追加の供給が来るの待てばいいんじゃないの?」
「「それじゃ意味ない
「ええ……?」
絶対待った方がたくさん食べられるのに、と言いたかったが、まあ譲れない物があるのだろうということで、俺は早々に理解を諦めた。
「でもそうね──わたくしが、少々卑怯な真似をしたのも事実ですわ。ここは平等に、勝負で決めませんこと?」
「ま、まさか……」
「ケーキを賭けて、スピストで勝負ですわ!」
「望むところだ〜〜〜!!」
「望むなや」
それ、全然ウィンウィンじゃなくてルーズルーズだから。やってる間に絶対供給されてるから。ジャンケンで決めた方がよくないか?
──などと水を差すことを言える雰囲気ではないので、大人しくデッキを構える。店内には何故かご都合主義的に決闘台が置いてあり、到底逃げられる雰囲気ではないので。
何より、相棒がやる気なら、俺だって付き合ってやりたいから。
「可笑しなお菓子な世界を見せてあげますわ──『レッツ・ストラグル』!」
「軽く噛み砕いて味わわせてもらうぜ──『レッツ・ストラグル』!」
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