第22話 塩対応な猫


「碧月、どうかしたか?」


「……なにが?」


なにがじゃねえよ!態度がもう機嫌の悪い人のそれだろ。なんかしたか、俺?


「いや、なにもないのならいいんだが……あ、この子モカちゃん。可愛いだろ?この店のNo.1お猫様なんだぜ」


「まあ、可愛いね」


まあってなんやねん!可愛いやろがい!


モカが碧月に気が付きとことこと彼女の元へいく。そして、ちょいちょいと前足で碧月に触れる。


「みゃーあ」


まるで挨拶をするかのような、可愛らしい動きと鳴き声。碧月もこれには心を動かされたようで、モカの頭を撫で始めた。


心地良さそうに目を細めるモカ。かわええな。


一瞬なぞのピリつきをみせた碧月だったが、その後雰囲気は戻り純粋にお猫様たちとの触れ合いを堪能していた。


(……客が増えてきたな)


お昼付近になり、お客さんが多くなってきた。碧月についていたトラとリンもお気に入りのお客さんが来たようで、そちらに行ってしまう。


モカだけが俺と碧月に付き合って遊んでくれていた。


「なんでモカちゃんはこんなに鈴木に懐いてるの?」


「ん?」


「すごい鈴木のこと目で追ってる……」


「ああ、実はモカは俺が保護してきた子なんだよ」


「保護?」


「そう。子猫の時にカラスに襲われてるのを助けてさ……だから懐いてくれてるのかも」


「……へえ、昔からそんな感じだったのね、鈴木は」


「居ても立ってもいられなくてな。まあ、そのあと俺がカラスに襲われたんだが」


「ええ」


「くちばしでつつかれまくって血まみれになったのはいい思い出」


「それいい思い出なの?」


「モカと出会えたし」


「……」


モカに顔を近づける。すると俺の鼻先にモカの鼻が触れた。頬に顔をこするモカ。


「いいこ、いいこ」


なでなでするとモカが幸せそうに「にゃあ」と鳴いた。


「……ちょっと、お手洗い」


「ああ、そっちの突き当たりを左に曲がったらあるぞ」


「ありがと」


トイレに向かう碧月。俺はその後ろ姿をみて、思わずぎょっとした。


「……あ、碧月!」


「え」


碧月の頭上に生えていた猫耳。スカートの下から伸びる尻尾。


俺は身振り手振りで猫化しかけていることを伝える。すると彼女はそれに気が付き慌ててトイレへ。


突き当たりを左に曲がり姿を消した碧月。


(……ま、間に合ったか!?)


どきどきと鼓動する心臓。というか、間に合ったとしても、このあとどうすればいいんだ……。


と、とにかく、碧月を追わなければ。


立ち上がろうとすると、モカがガシッと抱きついてきた。帰るとでも思ったのか、「行っちゃ嫌」というようにくりくりの可愛らしいお目めで訴えてくる。


「みゃーあ」


くそ可愛い……ッ!!


……く、俺はどうすれば……。


と、その時。


「わあー可愛い」「新しい子だ」「ロシアンブルーじゃん」


向こうにいたお客さんがざわめいた。ロシアンブルーという言葉でもうピンときた。


目をやるとそこにはやはり猫化した碧月、ロシアンブルーの鈴音がいた。


(俺がついていながら……二つの意味で猫カフェデビューしちまった)


あの位置……おそらく本能的に外にでようとしたのか。


「ロシアンブルーちゃん、お名前は?」


男性客がしゃがみこんで鈴音に話しかける。すると鈴音はふいっと顔をそむけた。


「あはは、可愛い。つんつんしてる」


そういって頭を撫でようとした瞬間、


「!」


鈴音は男性客の手を、前足でそっとガードした。まるでお触りはNGだよ?というように、彼の手をそっとおろさせる。


「ガードがかたい!なにこの子、可愛いー!!」「拒否られてて草ぁ」「あはは、うける」


きゃあきゃあと盛り上がっている。逆に塩対応が受けたらしい。


……俺にはデレデレなのに。知らない人だからか?

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