第21話 謎の殺気


「あ、そう……ごめんね、勘違いして」


「いえ、すみません!あの、店長さんバイトさがしてるって言ってたじゃないですか」


「ああ、うん」


「彼女もバイトをさがしていて、だから紹介しようかなって」


「おお!本当かい!いやあ、嬉しいな。鈴木くんには色々と助けられっぱなしだなぁ」


「いえ。碧月」


碧月に自己紹介を促すと、彼女はにこりとほほ笑み俺の前へ出た。


「はじめまして、私は碧月 鈴音といいます。今日はバイトを募集されているとお聞きして来ました。よろしくお願いします」


ぺこりとあたまを下げる。一連の動作がとても綺麗で、碧月がいいところのお嬢様だということを思い出さされた。礼一つとっても気品がある。


「うわあ、これまた綺麗なお嬢さんだね」


店長さんが若干動揺していた。まるで画面の向こうの存在であるアイドルにでもあったかのような。


艷やかな銀髪と、青い瞳。言葉の通り、綺麗なお嬢さんである。俺はまだ同じ学校で見慣れてるからあれだけど、無理もない。


「けど、ウチの店は来たことあるのかな?」


「いえ、ないです。なので今日お店の雰囲気や業務、いらっしゃる猫ちゃんを見れたらなと」


「なるほど、そういうことか!なら、見ていってよ!料金もいらない、思う存分見ていって!」


「え!?」


「店長太っ腹ですね。ありがとうございます、やったー」


「鈴木くんはちゃんと払ってね?」


「ちぃ……!」


と、いいつつもどの道ちゃんと払うつもりではあったけれども。お猫様のご飯代とか色々お金かかるだろうし、むしろ払わせて欲しい気持ちのが大きい。


「碧月さん、それじゃあ店の利用案内するね」


「はい!」


それから碧月が説明をうけ、手洗いと消毒を済ませ二人で中へ。


「わぁ」


たくさんのお猫様がいる空間を目の当たりにし、碧月は感嘆の声を漏らす。


木造の室内。お猫様がストレスを感じないよう広々とした空間に設計されていて、のびのびできるようになっている。


中央には大きなテーブルと、それを囲い込むようにソファーが設置されている。壁際には大量の漫画本やゲーム機が置いてあり、奥の方には昼寝ができるベッドルームやドリンクバーが。来店者も長時間お猫様とまったり過ごせるようになっている。


(碧月、驚いてるな……ふっふっふ)


キャットタワーのてっぺんを陣取るキジトラ。大きなネズミのぬいぐるみを抱いて眠る三毛猫。カフェ利用者のように椅子にすわり周囲を眺めているアメリカンショートヘア。ぐてえっと寝ているメイクーンをソファーがわりに乗って寝ているシャム。


ここには総勢十五匹のお猫様がいる。ちなみに今日出ているのは七匹で他の子はお休みっぽい。


とてとてと碧月の方へキジトラとアメリカンショートヘアが歩いてきた。尻尾をふりふりしていて、さっそく懐かれたのかもしれない。


なでなでとキジトラのあたまを撫でる碧月。


「可愛い」


「な、可愛い」


「名前はなんていうの」


アメショが俺も撫でろと碧月に体を寄せてくる。モテモテだな。


「こっちのキジトラはトラで、そっちのアメショがリンだよ。そこの壁に貼ってある紙に書いてある」


「あ、ほんとだ」


両手でトラとリンの頭をなでつつ名前の書いてある紙を確認している碧月。ちなみにいうとトラとリンがお初の碧月にデレデレなのに俺は若干嫉妬していた。


いつもなら俺の方に来るのに。よほど碧月が気に入っているのだろう。べったりとしていてこちらに来そうにない。


と、その時、


「こら、モカ!!そんなに急いだら危ないよー!!」


遠くから店長の叫び声が聞こえた。


しゅたたたた、と素早い足音が聞こえた瞬間、俺の足に衝撃がきた。どん、とあたまから突っ込んできた黒猫。そのまま強く俺に頭をこすりつけ始めた。


「にゃあ、にゃあー」


「モカ!今日も可愛いなぁ、モカ〜!!」


「ぐるる、んにゃう」


腹をみせるモカ。撫でると、その腕にしがみついてくる。だっこするように前足で抱え込み、すりすりするモカ。幸せ死するんだが。


――……!?


ふと、謎の殺気を感じ振り返る。


「……」


「……」


碧月が目を逸らし、ふいっと明後日の方へ顔を向けた。……え、なんなん?怖え。



―――――――――――――――――――――


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