第21話 囁きの侵入者
夜半。
蝋燭が燃え尽きかけ、部屋は暗闇に包まれていた。
レオンは私を腕に抱いたまま眠っている。
その寝顔は、昼間の威圧的な彼とは別人のように穏やかで――幼さすら感じさせた。
私はじっと彼の横顔を見つめながら、心臓を押さえる。
胸の奥で、小さな声が囁いていた。
――外へ出たい。
――けれど、この人を傷つけたくない。
そんな相反する想いに揺れていると、不意に窓辺が軋んだ。
「……!」
息を飲む。
月明かりの中、黒い外套が翻り、一人の影が室内に降り立った。
「やはり……眠れぬか」
蒼い瞳が闇に光る。ゼノだった。
「ゼノ……どうして……」
声を潜めて問いかけると、彼は唇に指を当てる。
「静かに。あの男を起こすな」
その余裕ある態度に、胸がざわめく。
ゼノは視線をレオンに一瞬だけ向け、次に私を射抜いた。
「この城は牢獄だ。お前は鳥籠の中で羽を閉じている」
「……違う。レオンは私を守ってくれてる」
言い返したものの、声は震えていた。
ゼノは静かに近づき、窓辺の月光に立つ。
「守ることと、縛ることは違う。……お前はまだ分かっていない」
蒼い瞳に見つめられ、胸が熱くなる。
彼の手が差し出された。
「来い。俺なら檻を壊せる。自由をくれてやれる」
――自由。
その言葉が、耳に深く突き刺さった。
でも……。
横で眠るレオンの顔を見る。
苦しそうに眉を寄せながらも、私の手を離そうとしない。
その温もりが、私を繋ぎ止める。
「私は……」
答えを探す唇が震えた、その瞬間――。
「紗羅……?」
低い声。
レオンが目を開いた。
金の瞳が暗闇に閃き、私とゼノを同時に捉える。
「ゼノ……貴様ァ……!」
空気が張り裂ける。
レオンが瞬時に立ち上がり、私を背に庇った。
「紗羅に近づくな。今すぐ出て行け!」
ゼノは動じず、ただ薄く笑った。
「選ばせただけだ。だが、答えはすぐに出る」
そう言い残し、彼は闇へと姿を消した。
残されたのは、怒りに震えるレオンと――胸を掻き乱される私の鼓動だけ。
「紗羅……」
レオンの声は怒りに滲み、同時に怯えていた。
「俺から……離れるつもりか」
答えられなかった。
けれど、この一夜が何かを決定的に変えてしまったと――本能で分かっていた。
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