第20話 鎖の温もり

夜は深く、城の窓の外に広がる森は闇に沈んでいた。

蝋燭の炎がゆらめく部屋の中、私はベッドに腰掛け、手首のブレスレットを見つめていた。


――冷たいはずなのに、じんわりと熱を感じる。

まるで、レオンの掌がそこに重なっているように。


「まだ眠れないのか」

低い声に顔を上げると、レオンが扉のそばに立っていた。

鋭い金の瞳はどこか柔らぎ、私だけを見つめている。


「ごめん……考え事をしてた」

そう答えると、彼はゆっくり歩み寄り、私の前に膝をついた。


「……ゼノの言葉を思い出しているな」

図星を突かれ、胸が跳ねた。

「違う……けど」

「隠さなくていい」

彼の指がブレスレットに触れ、静かに撫でる。

「不安にさせたのは俺だ。閉じ込めて……お前を苦しめている」


その声は切なげで、心を締めつける。

「でもな、紗羅。俺は……これ以上、失いたくないんだ」


彼は私の手を包み込み、額を押し当てた。

「君をこの世界に呼んだのは、俺の願いだ。運命だと信じている。だから……怖い。ゼノの目に映る君が、俺を置いていってしまいそうで」


震える声は、戦場の王ではなく、ひとりの男の告白だった。

――憎まれてもいい。ただ、失うよりは。

そんな想いがひしひしと伝わってくる。


胸の奥が痛んだ。

囚われているのに、逃げたいのに……どうしてこんなに温かいの。


「レオン……」

小さく名前を呼ぶと、彼ははっと顔を上げ、私を見つめた。

その瞳には焦燥と、溺れるほどの愛が宿っていた。


「紗羅」

次の瞬間、彼は強く私を抱き締めた。

肩に食い込むほどの力。それでも私は、抗えなかった。


「この腕を鎖だと思うか?」

耳元で囁かれ、私は息を呑んだ。

「俺には……お前を繋ぎ止める術がこれしかない」


答えられない私に、彼は続ける。

「だが、鎖であってもいい。……その温もりごと、俺を拒まないでくれ」


その声は必死で、胸の奥をかき乱した。

愛という名の鎖。

重すぎるのに、不思議と心が安らぐ。


――でも、外ではゼノが待っている。

自由を与えると囁く、蒼い瞳の誘惑。


二つの想いに引き裂かれそうになりながら、私はただ、レオンの抱擁に身を委ねるしかなかった。


蝋燭の炎が揺れ、部屋に二人の影が重なる。

それはまるで、鎖に絡め取られた鳥と、決して手放さない主の姿だった。

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