第4話
入学が引き起こした入学式から一週間。我がクラスは、陽キャ・中道・陰キャの三つに分かれ、混沌を極めていた……。
なんていう冗談は置いておいて、月日が流れれば流れるほど、クラス内における差というのは明確になる。陽キャが陰キャを弄るという名の虐めをして、どっちにも属さない私たちが白い目を向ける。とはいえ、自分たちに標的が向くのは困るので、助けたりはしない。無干渉、無関心、それを貫き通す。見て見ぬふり。助けなきゃいけない、そんなのは綺麗事で理想論。正義感があればするのかもしれないが、それで標的が自分になったとして誰が助けてくれるのか。きっと誰も助けてくれない。手を差し伸べた人間に標的が切り替わったのを皆知ってしまっているから尚更。正直、こういうこと言っちゃいけないのかもしれないが、後先考えずに手を差し伸べる。その行為はあまりにも愚かだとさえ思う。
虐めている側の人間のトップは堀口。
つまり彼女が主導して虐めをしている。
関わらなくて良かったという安堵とこれからも関わらないでいこうという決意。間違いなく私の心の中にはそれがあって、というかそれがほとんどを占めているはずなのに。不思議だ。私の心のどこかに「そんなことない」と叫ぶ私がいる。訴える私もいる。堀口はそんなことをしないと。
なぜ、どうして、そんなことが言えるのか。それはわからない。根拠はない。これっぽっちもないのに。心の中にいる私がそう叫んでいる。ちっぽけで、見つけることさえ難しいほどな私なのに声だけはやけに大きい。
つらつらと言葉を並べたが、まあ要するに今日も虐めは行われていた。まだ暴力性のあるようなものではない。わざと机にぶつかってみたり、消しゴムを落としてみたり、荷物をぶちまけてみたり、落とした教科書を踏んでみたり。露骨に虐めてます、みたいな状態ではない。あくまでもなにか一つミスが起こって、それが起因してこうなっちゃいました。別に虐めようとしているわけじゃありません! みたいに体裁を保とうという意思は少ないながら感じることができる。
「うわあ……今日もやってるよ」
十分というあまりにも短い休み時間の合間に私の席へやってきた五十嵐はその虐めの現場を見て、蔑むような視線を送っている。
「だねえ」
正義感のかけらもない私は、知らぬ存ぜぬを貫き通す。チラッと見て、なにも見なかったかのようにぼんやりする。
我関せずとはまさにこのこと。
「人を虐めてなにが楽しいんだろ」
「さあ」
「わかんないよね」
「うん。私たちにはわからない感性」
虐める側には虐める理由があるのかもしれないが。虐めたことのない人間からすると、なんでそんなことするの? と思ってしまう。
「堀口さんに目をつけられたら虐められるらしいよ」
「へー」
「あの子も入学して二日目に堀口さんとたまたま廊下でぶつかっちゃったらしくて、それから虐めの対象になっちゃったんだって」
「ほー。というか、五十嵐って結構情報通だよね」
私の噂話の九割は五十嵐から仕入れている。残りの一割は盗み聞きだ。盗み聞きしたくてしてるんじゃなくて、聞こえちゃってるだけ。そこはまあはっきりとさせておく。
「そうかな?」
「うん、私の知らない噂とか沢山知ってるし」
「まあ部活入ってるからね〜。色んなところから色んな話がさ、回ってくるわけよ」
人差し指をくるくる回しながら答える。
「バトミントンだっけ」
「そうそう。中学からやってたから。もう即よ、即。即入部したよ」
むふんと胸を張る。一瞬胸を張るようなことかなと思ったが、部活に……ましてや運動部に所属しているなんて胸の張れることだなあと結論が出る。
「ふへー、部活ねえ……」
「宮坂は? 今のところなんも決めてないんでしょ、部活。一緒にやっちゃう? バトミントン」
五十嵐はひゅひゅっと素振りをしながら提案してくる。私は迷う素振りすら見せずに首を横に振った。あまりにも即決したからか、五十嵐は苦笑を浮かべる。
「私、運動とかそういう柄じゃないから」
運動どころか部活自体多分私には向いていない。絶対幽霊部員になる。中学の時は生物部に所属していたが、活動実績ゼロの幽霊部員だった。卒業写真気まずすぎて集合写真入らなかったし。
「とにかく! 話戻すけど」
「なんの話ししてたっけ」
「堀口さんの話」
「あー、そうねそうね」
目付けられるとヤバいって話だったか。関わりたくなさすぎて記憶から抹消していた。都合のいい脳みそしていて誇らしいな。まったく。
「宮坂気を付けてね。目つけられたら虐められちゃうから」
なぜか心配されてしまった。そんな私無茶苦茶なことするように見えてるのかな。だとするのなら反省しなきゃいけない。
「わかってるよ。関わらないから。あの人とは」
「それなら良かった。私より五十嵐の方が危ないんじゃない? 運動部で目立ってるし」
「……運動部だから目立つわけじゃないんだよ?」
すみません。運動部は目立つだろうという謎の偏見を持ってました。大反省をします。
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