第19話 お一人様令嬢誕生
前世は、実家のある町(うちの一画は中身は村)からの善意による嫁に行けというプレッシャーに私はともかく母がやられてしまいそうだったので、一人暮らしをすることにしました。ご近所には『同棲でもするみたい』と言っておいてと母に言い残し家を出た。私はご近所の皆さんとは挨拶くらいしか関りがなかったけれど、それでも町を出たら開放感が半端なかったです。
安いワンルームマンションに最低限の家具を運び込み生活を開始しました。母にやってもらっていた家事の分の負担は増えたけど、会社から近くなった分時間の余裕は出来たので何とかなりました。家賃の分生活は少しきつくはなったけれど、ベランダ菜園などして楽しくやりくりしていました。
あの日交通事故でその生活が終わるまで。あの日隣の課の同期の男性に食事に誘われたのを断って帰ったんでしたね。二人で食事はハードルが高かったので。食事に行っていたら事故に合わなかったかなぁ。まぁ、寿命が決まっているなら何をしていても事故なり病気なりで人生を終えたのでしょう。
両親には悪かったなーという気はしますが、自分の人生としてはそれなりに楽しかったと思うので、ここで死にたくなかったと泣き叫ぶほどではありません。それにこの世界に生まれ変わって魔法も使えるし、男子の友達もいるし、前世以上に楽しんでいると思います。
アドリーヌとしての人生は、お父様に植え付けられた髪色と瞳の色の呪縛以外はとっても恵まれていると思う。それに、鏡を改めて見てもお父様が言うほどひどい髪と瞳の色だとは思わ無い。これはこれで素敵だと思う。なんなら前世では、わざわざこの色に染めてカラコンしている人だっていたと思う。そりゃぁ弟のフェルナンに比べると劣るかもしれないが、私もなかなか美少女だと思う。なんでモテなかったんだろう?不思議だわ!性格だってそんなに悪くないと思うんだけどなぁ。
あっ、少し言葉が前世に引っ張られているみたい。前世は一般庶民でしたからねー。
まぁ、今までの事は考えても仕方がないからこれからの事を考えましょう。これから知識チートをするなんて言うのは無いわねー。実家にいる間なら少しは考えたかもだけど、婚約者(仮)で何かするのはあり得ないですわね。
という事は、これからの暇な時間を潰せる趣味でも見つけて、ここでお一人様でも生きて行けるような実益を兼ねた何かが出来ればいいかもね。
今している刺繍はここの使用人さんたちにも評判がいいので、セギュール家の特産品の一つに入れて貰えるかもしれない。そうしたら不労所得が入って来るかしら。これは取らぬ狸の・・・ってやつだわね。それに、お飾りでも領主夫人になったら領民の上前跳ねるなんて出来ないわねぇ。
趣味と実益、趣味と実益なにかないかなぁ。前世でやっていたベランダ菜園なんてどうかな。あれは趣味と実益を兼ねてたわね。ここではプランターなんて見たこと無いから、庭の一画でも貸してもらえないかしら。一回頼んでみましょう。今の私には土と水の魔法があるし、植物を育てるのに役に立つんじゃないかしら。それにスキルも人に使うものだって言われたけれど、私の第一印象は植物を育てるのにいいと思ったのだから役に立つかもしれない。それをやってみたい理由にすれば許可が出るかもしれないですわ。
「ふうーっ、色々考えたらお腹が空きましたわ。今何時かしら、食事にしてもらいましょう」
部屋のドアを開けるとマリリーズが心配そうにドアの横に立っていた。ずっとここに居たのかしら、すごく心配を掛けてしまいましたのね。とにかく一緒に食事を取りましょうね。
マリリーズに運んできてもらった食事は、私のはスープだけでちょっと物足りなかったですけれど、急にいっぱい食べて腹痛とか嫌ですから、仕方ないですわね。マリリーズの食事はとても美味しそうで、一緒に食べようって言わなければよかったと思ったのは内緒です。
その夜はもう夢を見ることも無くぐっすり朝まで寝ました。一晩熟睡したことで、前世の記憶が今の私に馴染んだような気がします。稀に言葉遣いが前世に引きずられそうになるのが難点です。これは気を付けなければなりませんね。
朝食は皆と一緒に取る事が出来ました。私だけパンがゆでしたけれど、これは料理長の愛ですわね。昼からはまだ、コース料理なんて言うのは無理なので、皆と同じ賄いをお願いしました。暫くは食事のマナー教室もお休みですので、朝食と同じようにみんなと一緒に食べさせていただくことにしましたわ。ロッテンさんの眉間には縦に皴が入ってましたけれど、一緒に食べられることになりました。
そこでついでに庭の一画を使わせて欲しいとお願いしました。魔法とスキルの検証をしたい事。もし上手くいけば領地の役に立つかもしれない事を一生懸命プレゼンいたしましたら、そこまでおっしゃるならと一度侯爵様に尋ねてくれることになりました。離れとは言ってもタウンハウスの中ですから、庭を畑にするのは許可が出ないかもしれないですよね。
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