⑧:ほんとにバカだね。



気が付けば、デートは8時間も遅刻した。

ここぞという時の大事なデートでこんなに盛大な遅刻をするなんて、世界中どこを探したって俺だけではないだろうか。


ごめん、と勢いよく謝ったはいいものの、その後顔を上げられない。

わかってる。

元々、望月さんは俺の告白をすぐに断りかけていて、それを俺が止めたのだ。

それなのにその上こんなに盛大な遅刻をするなんて、もう二度と望月さんと付き合えるような望みは無い。


待ち合わせ場所で望月さんの姿を見つけた時は、夢を見ているんじゃないかと思って自分の目を疑った。


「……今日はもう来ないかと思ってたよ」

「…?」

「デートの約束も全部ウソで、私、明智くんに騙されたのかと思っちゃった」


…なんて考えていると、不意に望月さんが俺にそう言った。

いや、マジで申し訳ない。

これ以上口を開くと、口から出る言葉が全て言い訳に聞こえてしまいそうで、つい何も言えなくなる。


でも、決して「告白やデートの誘いが嘘だった」なんて、そんなはずはない。

俺は望月さんの言葉にただただ「ごめん」と謝った。

俺が望月さんの立場だったら今この場で頬を思い切りビンタして家に帰るだろう。

っつかこんなに長い時間待っていられないし、問答無用でラインで告白を振るに違いない。


「…どうしてこんなに遅刻したの?」


すると、目の前の望月さんが少し呆れたような顔をして俺にそう問いかけてきた。

俺はその問いかけに、酷く申し訳ない気持ちのまま言う。


「……今日が、楽しみで眠れなくて…」

「で、明智くんのことだから真夜中ずっとゲームしてたとか?」

「いや…あの…」

「?」

「……靴を磨いたりとか、色々…してて」

「!」


俺は罪悪感に襲われつつそう答えながら、少しだけうつ向く。

…こうやって改めて遅刻した理由を言ってみると、何か俺、本当にバカみたいだな。

そう思っていたら、不意に目の前で聞いたことのないくらいの望月さんの明るい笑い声が耳に飛び込んできた。


「っ、あははは!何なの、真夜中に靴を磨いてたからデートに遅刻したって!」

「!」

「今日のデートが楽しみすぎて、明智くんは真夜中にずっと靴を磨いてたってこと?でも言われてみれば、何か靴だけやたらと新品みたいに真っ白ね」


ほんとにバカでしょ、と。

容赦なくそう言っては笑う望月さん。

…そんなに笑わなくたって。

と思いつつも、笑ってくれて良かった…とどこか安心する俺。


いや、俺カッコ悪いにもほどがあるだろ。

翌日の予定が楽しみで眠れないなんて小学生かよ。

バカ丸出しじゃん!


……けど、そう思いつつ再度「ごめん」と謝ろうとしたら。

その言葉を遮るように、望月さんが言った。


「…いいよ、この前の告白の返事」

「え」

「待ってる間は絶対振ってやると思ってたけど、やっぱ私、明智くんと居るの楽しい」

「!」

「このまま一緒にいてみるのもアリかも、なんて」






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