第2話 配達先は美少女の家
――
その名前を知らない生徒は、同学年にはいないだろう。
つややかな銀色の髪に、透き通るような白い肌。
ぱっちりした大きな瞳は、見つめられるだけで息が詰まりそうになる。
雪のようにクールな印象を与えるのに、ふとした瞬間には陽だまりのような柔らかさを見せる――そのギャップが人を惹きつけてやまない。
しかも、母親は有名デザイナー。
陽依自身も専属モデルとして多数の雑誌に広告塔として出ており、入学式の日、自己紹介でその事実が明かされた瞬間――教室がざわつき、クラスメイトたちは驚きと感動で心を奪われた。
そんな雪代陽依が、今ぴったりと体に張り付く極薄のトレーニングウェア姿で、汗に濡れた髪を肩に貼りつかせながら、俺の目の前に立っている。
「な、なんで雪代さんがここに!?」
「……なんでって言われても。ここ、私の家」
俺の質問に答えた雪代さんは気だるげだ。
……そうだよな。注文者が雪代さんなら、この部屋も当然雪代さんの家だ。
けど、まさかこんな高級マンションに住んでいるとは思っていなくて、俺は思考が追いつかない。
「と、とりあえず……これ、注文の品です!」
「うん。ありがと………………私の体、どこか変?」
「っ――そ、それは! 違うんだ! 雪代さんのおっぱいが気になったとかじゃなくて!」
布地の少ないトレーニングウェアのせいで、つい視線が吸い寄せられてしまった。
雪代さんの胸元にできた、危険な谷間に。
「おっぱいって言っちゃったね」
「うわあああ!? ち、違う! その、服が下着みたいに面積が少なくて……だから、こうやって他人に見せるには肌色が多すぎるというか、外に出るときは上着を着た方がいいって思っただけで……!!」
「早口だね……ふふっ」
――笑った。
教室ではまだ一度も見たことのない、柔らかな笑顔。
その破壊力に、俺の胸は爆発しそうになった。
「そ、それじゃあ! またのご利用を……!」
「うん。ばいばい」
雪代さんに見送られ、俺はマンションを飛び出す。
……けれど、走り出してからも頭から離れなかった。
雪代さんの背後――思いの外散らかったリビングと、床に置かれた大量のハンバーガーセットの袋。
約六千円分のフード。あれは……家族で食べるもの? でも、家に誰かいる気配はなかった。
まさか、あれ全部を――雪代さん一人で……?
◇◇◇
その頃、部屋の中では。
陽依は玄関で悠希を見送ったあと、山積みの袋を見下ろしていた。
「……バレた、かな?」
頬が赤くなる。理由は明白だ。
モデルらしい完璧な姿を保っていると思われているが――実際の彼女は超のつくほどの大食いで、毎日トレーニングを重ねることで体型を維持していた。
そしてもう一つ。
リビングの方へ目を向ければ、脱ぎ散らかした服や散乱したお菓子の袋。
……彼女は家事が壊滅的に苦手だった。
「ふぅ……シャワー浴びて、食べるか」
ぽつりと、誰に聞かせるでもなくつぶやく。
――そして、小さな声で付け足した。
「……相沢。はじめて話したのに、なんだか懐かしい気分になった」
——————
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ちなみに作者はこれ書くためにウーバーイーツの配達してみました笑
自転車でやったんですが、想像以上に体力勝負で暑い日にやるとマジのマジでしんどいです笑
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