第1章【ハルカとリセと王族と】
第2話【扉をくぐったら異世界だった件】
扉を明けた先には、広大な草原が広がっていた。
見渡す限りの草原。
扉をくぐったら、丘陵地帯の上だということがわかった。
鮮やかに波打つ草原。見渡す限り、どこまでも緑と茜色のコントラストが続いていた。
「すごい……。空が茜色……。ということは、夕方? さっきまで夜だったのに……」
ふと上を見上げると、太陽がそこにはあった。
太陽が頂点にあるということは、夕方ではない。つまりは、昼間である。
更に、もう一つの違和感がそこにはあった。
「太陽が……2つ!?」
思わず叫んでいたが、当然誰も答えてくれない。
「空はいかにも異世界っぽいけど、地面は普通の世界っぽい……。手触りも普通の土だし……」
「あ、あなただれ!?」
声がした方を見ると、そこには1人の少女がいた。
銀色の髪と白を基調とした、派手すぎない装飾を施された戦闘用に作られたと思わしきドレスに身を包み、変な杖を持った少女だった。
「だ、だれ!?」
「それはこっちのセリフよ。あなた、さっき光の扉から現れたわよね」
「そ、そうだけど……」
銀髪の少女が考え込むような仕草をとった。
その少女の手には、カードのようなものが握られていた。
「あれ、そのカード……。似てる……」
「カード? ああ、これ? これは、風占いに使う占い道具」
「このカードに似てる!」
「???」
「ほら、これ」
ハルカの目の前にいる少女は、頭にはてなマークが浮かんでいたが、おかまいなしにハルカは、自らが持つカードを少女に見せた。
「これ、風占いのカード……に似てるけれど、ちょっと違うわね。なにより、風占いのカードは、金属製じゃないわ。ただ……同じ紋章が描かれているのは気になるわね……」
「そっか、似てるだけなんだね……」
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私は……」
少女は言い淀んだ。
それもそのはずで、目の前にいる黒髪の少女が何者で、どこから来たのか分からない以上、本名を名乗るわけにもいかない。
もしかしたら暗殺者かもしれない、と考えてリセは本名を告げるのを躊躇った。
「私は、リセ。よろしくね。あなたは?」
そう考えついて、少女は”リセ”と名乗った。
「私は、光遙香! ええと、ハルカが名前ね」
「そう、よろしくハルカ」
「ところで、ここってどこなの? 太陽が2つあるんだけど……」
「ここは、『フィオレ=ルミエ』よ」
「え、どこ……。まさか、本当に異世界!?」
フィオレ=ルミエなんていう国は聞いたことがなかった。
いや、世界中には200を超える国と地域があるので、探せばあるのかもしれないが、記憶を辿っても、そんな国名も地名も覚えがなかった。
そして何より、頂点に燦然と輝く2つの太陽。
もう、これだけで異世界であることがわかった。
「やばー! 異世界、テンション上がるんだけど! ゲームみたい!」
ハルカは目をキラキラさせながら、その場でピョンピョンと跳びはねて妙な小躍りをした。
リセは、ハルカのテンションに若干引いていたが、ハルカはそれに気づかなかった。
「げーむ?」
「あ。私、地球っていう世界から来たの」
「ちきゅう……?」
ハルカとは逆に、リセは地球という言葉を聞いたことがないような感じだった。
首をかしげて、ハルカの言った「地球」という言葉を聞き返した。
さっきのピョンピョンと跳びはねているハルカを思い出しながら「ちきゅうの人って、みんなこんな感じなのかしら」と心の中で考えていたリセだった。
そんな時、ハルカがふと我に返ったかのように言った。
「あ、でも、一旦戻ろうかな」
「戻るってどこに?」
「そりゃあ、地球に……」
「戻れないわよ?」
「え?」
「後ろ見てみなさい」
リセに促されるままに、後ろを振り向いた。
しかし、その場には”光の扉”はなかった。
「なんで!?」
そこには、先ほどまで確かに存在していたハズの光の扉が文字通り、光となって消えたかのように跡形もなく消え去っていた。
「逆に気づくの遅すぎでは!?」
ハルカの遅すぎる気づきに、リセはツッコミを入れていた。
「え、じゃあ、私は一生この世界に……?」
「一生かどうかは分からないけれど、恐らくそうかもしれないわね」
あからさまにハルカは落ち込んでいた。
リセはそのハルカの様子を見て、なんとかなだめようとしていた。
「あ、それなら、教会に行きましょうか」
「協会?」
「何だろう。字が違う気がするけど、教会よ教会。困っている人は、みんな教会に行くのよ。お告げがもらえたりする場合もあるって聞くから、もしかしたら何か解決策が見つかるかもしれないわね」
そういえば、ゲームでも困ったら教会に行け、みたいなことがあった気がする。
「よし、善は急げ! と言うしね。早速教会に向かおう!」
スクッとハルカは立ち上がり、右拳を天に突き上げた。
「あれ?」
その時、さっきまでと空模様が変わっていることに気がついた。
さっきまでは茜色の空だったのに、今は青く澄み渡る、綺麗な青空が広がっていた。
「青空……」
「さっきまで茜色だったのに」
「ま、そんなことはさておくとして、教会に向かうよ、リセ」
「あ、待ちなさい! ハルカ、あなた教会がどっちにあるのかわかってるの?」
意気揚々と明後日の方向に歩き出そうとしたハルカを、リセは止めた。
この近くにある教会とは全く別方向にハルカが歩き出そうとしていたので当然である。
「え、知らない。でも、そのうち歩いていれば見つかるんじゃないの?」
「それは確かにそうなんだけど、そんないつ見つかるかも分からないような探し方する気?」
ハルカの脳天気な物言いに、リセは若干呆れていた。
確かに、どっちへ歩いても教会は見つかるかもしれない。
しかし、そのためには何千キロと歩く必要が出てくるかもしれない。
「全く……。ほら、こっちよ。大人しくついてきて」
「はぁい」
ハルカは、リセに連れられて、教会に向かって歩を進めるのであった。
「そういえばこのカード、さっきは光ってたのに……」
ふと、ハルカは手に持つカードが輝きを失っていたことに気がついた。
「光っていたってどういうこと?」
「ええと、こう、ピカッ!って感じで」
「???」
ハルカが身振り手振りで伝えようとしているが、当然リセには伝わっていなかった。
「うーん、どうすれば伝わるかな……。あ、ピ○チュ○の電気ショックみたいな感じ!」
考えた抜いた結果、異世界人は当然に、現代人ですら通じるかよく分からない例えを出していた。
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