おそらく霊能バトル漫画の世界だと思うんです…

朝露颯

【第一幕 : 幽霊…たぶんいるよね?】

【1話】#1〜#5 : モブ転生(最終回までモブです)

●──#1



 俺はファンタジー要素の欠片もない現実世界に生まれごく普通の人生、何気ない日常を当たり前に送れると思っていた。


──そう思っていたさ。


俺は見てしまった。

恐怖からか震えて動けない子供を見えない何者かから攻撃されながらも守ろうとする少年と真剣な顔で何も無いところに向かって刀を振りまわすJKの姿を。



「あ、これ霊能バトル漫画の世界だわ」



それに気づいてから俺の日常は非日常なものへと変わり始める。まぁ最も、俺はただのモブ転生者なんだけどね。




●──#2



俺の名は、茅乃蘇トかやのそと。転生者だ。

転生者といっても神様から不思議な力を授かったり、特別に裕福な家系に生まれたわけでもなく、人生を賭けるほどの使命があるわけでもない。


俺は普通の家庭に生まれて、普通の才能しかなくて、ただただ前世の記憶があるというだけの人間だ。前世の記憶といっても生まれつき病弱で入院生活だった俺には知識チートとかはない。


転生特典はないようなもんだが、それでも俺はこの人生に満足している。暖かい両親、健康な身体、そして普通を譲受できる環境さえあれば何でもよかったのだ。


それは盲目的に平和な俺の日常を信じていたから…なんだと思う。今になって反省している。きっと感覚的には気づいていて、それでも否定し続けていたのだ。



「はぁ、……マジでいたんだな幽霊って」


いや実際には見たことないんだが、目の前の光景を説明しろって言われたらそりゃねぇ?


真剣な顔して、いかにも戦ってますよ感溢れる少年とJKを俺目線から言わせてもらうと、お前ら頭大丈夫か?って思う。少年の方は頭から血が出ているしさっさと救急車呼んだ方がいいのでは?JKに至っては銃刀法違反で普通に犯罪犯しちゃってるし…


俺こと一般市民からしたら不審者ってレベルで奇行を繰り返してる彼らではあるが、彼らからするとヤバい化け物から子供を庇いながら戦っているようではあるし。たまに見えない風が木や建物を切り裂いていたりした。


これらの情報、状況から俺はとんでもなく危ない世界に転生したらしいと気づいてしまった。由々しき事態である。


おそらくあの少年がこの世界の主人公で、物騒なもん持ってるJKがヒロインなのだろう。主人公の強さからして物語序盤。なんて時に遭遇するんだ俺は。


ひとまずこの場から今すぐに退散するべきだ。あの苦戦具合だと負けイベントっぽいし。巻き込まれでもしたら最悪死ぬかも。


俺はちょっと遠回りをしていつもの通学路から外れた道を通り登校することにした。勿論、通学途中で起きた衝撃的な出来事は、特技の見なかったことにして忘れるという魔法をかけた。まぁ、衝撃的過ぎて効果なかったけどね?!




●──#3



皆さんは頭の上に鉄骨が落ちてきたことはありますか?俺はあります。というか──


「──現在進行形で落ちてきてるから!」


俺は真正面に思い切りダイブして鉄骨を避ける。ガツン!と後ろから爆発したんじゃないかと思うくらい大きな音を立てて落ちてきた。


あと少し反応が遅れていたら俺はどうなっていたのだろうか?恐ろしさのあまり身震いする。あとダイブした拍子に頭を地面にぶつけて痛い。血出てないかな?


「大丈夫ですか?!」


工事の責任者と思われるスーツを着た男性が駆け寄ってきた。


「えっとなんとか…」


「本当に申し訳ございませんでした!我々の注意不足で…お怪我はありませんか!?」


「あ、はい。あの…何故鉄骨が…」


「それは…」


男性は言いにくそうに口を閉ざす。そして少し躊躇した後、男性は言った。


「言い訳に聞こえるかもしれませんが、鉄骨を動かしていた従業員が今朝から体調が悪く…」


男性はチラッと目線を後ろの方に回す。俺も男性の後ろを確認すると、まるで生気が抜けたように・・・・・・・・・立っている男が恐ろしい顔(今にも人〇しそうな顔)で俺を睨みつけていた。


「えぇ…(俺なんかした??)」


「やはり引かれますよね…」


「あ、いやそういうことじゃなくて…、えっと、次からは注意してくださいね、失礼します!」


「あっ」


俺は逃げるように足早で去った。


──うん。あれ取り憑かれてるね。間違いない。

幽霊がいると確信したからか視野が広くなったような気がする。いい意味でも悪い意味でもね!?だってあの人、わざと俺に向かって鉄骨落としただろ!やべえって!


やはり心霊関連は極力関わらない方が身のためなのだと、俺は改めて理解したのだった。




●──#4



「はぁ、今日は散々な目にあった」


いつもの俺らしくない不運な今日を呪う。

するとリビングから母さんが顔を覗かせた。


「いつもより遅く帰ってきたと思ったららしくないじゃないか」


「俺でもそう思うよ」


「おまえは幸運なだけが取り柄なんだがな」


「そうだけど悲しくなるからやめてくれない?」


俺の母さん、茅乃穂香。今世の母であり男装が趣味というかなり特殊な感性をもつ。家ではこんなふうに男物のスーツを部屋着にしているような人だが、仕事中は普通なんだよね。これがギャップっていうのかな??


「父さんは?」


「彼なら買い出しに行っている。それより幸運なだけのおまえがどんな災難にあったのか詳しく教えてくれ」


「今日の夕飯はなんだろなー?父さんの作るご飯はいつも美味しいからワクワクするなー」


「話の要点をずらすんじゃない」


言えるわけないだろ。転生したこの世界が実は霊能バトル漫画の世界で、今日危なく幽霊に鉄骨で殺されかけたなんて!正直に言ったらそれはそれで(とうとう頭がイカれたのかと)心配されそうだし。絶対に信じてはくれないだろうということは予想できる。あと絶対にバカにされる。


「…はぁ、言いたくない内容なのは分かった」


「すまねぇ、マザー」


「おまえの態度が通常運転で安心したよ」


「通常運転?え?ふざけたつもりだったんだけど、もしかして俺っていつもこんなこと言ってる?」


「今更気づいたのか、おまえはいつも頭おかしいぞ」


「すっごい悪口?!」


まさか実の母に私の息子頭おかしい発言されるとは思わなかった。少しショック。


俺は手洗いを済ませた後、すぐにソファーに腰掛けテレビをつける。チャンネルを変えていくと気になる速報が流れた。


(あ、これ地元じゃん)


何故か凄く見覚えのある公園がテレビに映る。確か今日もここに……


(ん?)

「怖いな、こんな近所でしかも公園に隕石が降った・・・・・・のか」


荒れ果てた公園、抉られた地面、怪我をした子供、やべえ。すっごく身に覚えがある気がするよ。しかも隕石て、あの奇行少年少女はどうなったの?確実に隠蔽工作されてるやんけ。


「しかもこの公園、おまえが通学するときいつも通る道じゃないか?…ん?あぁ、そういうことお前の不運ってこれか」


「気づくのはっや…」


まだ俺の不運その2(鉄骨)は知らないとは思うが、その1に気づくとは。やはり母の勘は侮れないな。


「ところで怪我はなかったのか?」


「ないよ」


「そうだろうな。いくら隕石が落ちたって言ってもお前に限った話、おまえが怪我する可能性よりも世界が滅ぶことの方がよっぽど可能性があると断言できる」


「断言するなよ!」


じゃあなに?俺が怪我したら世界滅ぶん?幽霊よりよっぽどやべえやつだな俺!?


「じゃあ聞くが、怪我したことあるのかおまえ」


「……ないな」


「だろ?私が見てきたおまえはコケても擦り傷一つすらできたことない」


「頑丈かよ?!」


俺、ロボットだった説。



●──#5



俺はファンタジー要素の欠片もない現実世界に生まれごく普通の人生、何気ない日常を当たり前に送れると思っていた。(2回目)


「僕はおまえを許さない!!」


主人公らしき人物が俺を睨みつけて言った。俺は呆然と主人公を見下ろす。


「………(どうしてこうなった?!)」







……という夢をみました。

俺がラノベの主人公ならこんな感じの展開になるかもしれない。ここが漫画の世界のモブキャラであると気づいた俺が主人公の敵として立ちはだかる、みたいな?


でも現実はそんなんじゃなくて、俺はただのモブA。物語に出てくる背景のモブですらないモブだ。


霊能バトル漫画の世界なのに霊感ゼロ。戦えもしないのでバトル要素ゼロ。ゼロゼロ続きな俺。


霊能バトル漫画の世界と気づいてから俺は考えた。

──俺はこの世界の元ネタ・・・を知らない。

世界観、先の展開、登場人物に身を覚えがないのだ。


前世はやることがなかったのでラノベ系の本ばかり読んでいた。世界中のラノベを網羅した俺がまさか、こんな面白そうな物語(ホラー系ローファンタジー)を知らないはずがないのだ。考えられるのは、この物語が俺の死後に投稿されたもの。またはそもそもそんな物語は存在せず、神様のノリ的な何かでラノベのような世界になった、ぐらいだろうか。


こんな素っ頓狂な話、以前の俺なら考えもしなかっただろうが、幽霊と前世の記憶をもって生まれた俺がいるのだから可能性はゼロじゃない。


──とにかく。

俺はヤバいことに気づいた。

もしもこの物語がバットエンドであり世界が滅ぶ程度にはバトル漫画しているなら俺生き残れないのでは?と。


物語はハッピーエンドで大抵終わる。

しかし世の中にはバットエンドという言葉があるように主人公が幸せになれない結末、終わり方が存在する。


主人公がクズで制裁を食らって当然の人物ならバットエンドも悪くはない。しかし昨日、主人公らしき人物を見た限りだとあれはまさしく主人公と言えるような正義感に溢れてそうな少年だった。是非とも彼にはハッピーエンドを迎えて欲しい限りである。てかハッピーエンド以外許さない。あと最終決戦とかで犠牲者とか必要ないからね?


主人公任せにしているように見えるかもだが、実際その通り俺は何もしない。というかできない。

これがラノベの主人公なら自分の身を守るために必死で自衛の手段を用意しそうだが、純粋なモブである俺はやらない。何故ならば、そりゃめんどくさいに決まってるからだろ?


確かに鍛えれば、目の前に化け物がいたって多少その場を切り抜けられる力にはなるのかもしれない。だがそれだけだ。切り抜けられたところでどうせ死ぬんだから意味が無いし変わらない。少しだけ寿命を先延ばしにするだけだ。


俺は知っている。そんなことしたって苦しいだけだって。命の時間を伸ばしたってどうせ死ぬんだから・・・・・・。時間が増えれば増えるだけ死の恐怖が増えるんだから。


だから俺は普通のモブなのである。

物語の背景にさえ映らないモブであれば、死ぬことはない。そりゃ漫画のコマ外で殺されるわけないんだから。漫画家がいちいち画面外にいるモブの生死を気にするか?しねぇだろ?つまりそういうことだ。


俺は最終回までモブであり続けることにした。

生き残るために修行とか、パワーアップとかいらない。

だって俺の望みはいつだって変わりなく、普通の人生を歩み寿命で死にたいからでしかないんだからさ。


────────────────────

どうも朝露颯と申します。

こちらは朝露が簡単に閲覧できる用の作品となっておりますので、こっそりと皆さんにも見せてあげます。|ω・)

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