第2話 私は1番がいい

「……ねぇ? またあの子を見てない?」


 入学式翌日の休憩時間。ぼーっとしてた俺に話しかけてきたのは武岩さん。


 頬杖をついて気だるげに目だけを俺に向ける彼女は、明るいブラウンの髪にとっつきにくいオーラを纏った隣の席の美少女だ。


 人を惹きつける容姿なのに、話しかける人に冷たい態度を取り続け、早くもぼっち街道をぶっちぎっている。


「まぁあんたが別になにをしてようが私には関係ないけど――どうせ暇なんでしょ? 私が話し相手になってあげるわよ」

「それはありがたい」


 武岩さんに返事をしながら、俺はあの子――若松さんを見てことに気付く。


 その容姿と明るい性格で、常に人の輪に囲まれている。彼女が実は激重ヤンデレ少女だなんて、俺以外は知らないのだろう……。


 出会った初日に『私は全部をあげられます』なんて言われたけど、それはまぁ――別の話だ。


 俺の視線に気付いた若松さんが笑顔で手を振ってくるから、曖昧に笑って誤魔化した。クラスの中心人物に、教室の端から手を振るのはさすがにハードルが高い。


「……仲いいんだ?」


 さっきよりもそっけない口調。頬杖をつきながらも狐のような目が俺を鋭く捉えている。


 捕食者みたいな視線はやめろよ。だからぼっちなんだって。


「仲は……悪くはないかな――」

「煮え切らない返事ね」


 彼女とは入学式前日に色々ありすぎた。その関係性を一言では説明できない。


「なんというか、説明し辛い。色々あったのよ」

「ふ~ん……。深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている――ということかしら?」

「言い得て妙だけど、どういうことかはさっぱり分からない」


 若松さんヤンデレの心を覗いたから、彼女にも俺の心を覗かれているのは間違いない。


「両想いなのかってことよ」


 興味はなさげに聞いてくるのは、他の人には聞かれたくないこと。


 若松さんの笑顔の『全肯定』を受けて、早くも形成されつつある彼女のファン達に聞かれたらどうなるか……。


 ほら今も、『髪がツンツン! すごい持続力! 天を貫く男前! 通天閣より高ーい!』とか言われてまんざらでもない顔してる男子いるじゃん。


 それ褒められてるの? 通天閣と競ってもなにも得る物はないよ??


「なに? マジでそうなの? 深淵にどっぷりじゃない」


 武岩さんが驚きの混じった声をあげる。今後のクラスでの平穏のために、その誤解を解いておかないといけない。


「そういうのじゃない。若松さんみたいな可愛い子と俺とでは、釣り合いがとれないし」

「確かにその通りね」

「ぐっ……」


 こいつ……、顔が良ければ何言っても許されるって思ってるだろ?


 ……まぁ、今回は図星だから許しちゃんだけどね? 今回だけはね!


「それじゃあ――友達……なの?」


 頬杖をやめた武岩さんがまっすぐに、そして少し不安そうに俺を見た。


 スラッとした控えめな胸の前に置かれたグーの手が微かに震える。……どゆこと?


「え……なんで?」

「なんでって……なんでもいいじゃない! 答えなさいよ!」


 不安を隠すような強気な言葉。答える以外の選択肢はなさそうだが……そもそも若松さんは友達なのか? 分からない。どちらかっていうと――


「仲間――かな?」

「仲間? なにそれ」

「同じ目的を持った協力関係……みたいな? 良く分からないけど」

「ホントに分からないわ」


 困惑した視線を俺に投げながら、彼女はため息を吐く。


 その後に安心したような微笑みを浮かべるものだから、つい見惚れてしまった。


 性格がキツい美少女の笑顔……破壊力高すぎる。


「友達じゃないならいいのよ」

「どういうこと? 俺が若松さんと友達じゃだめなの?」

「そんなことはないわ。友達になったらいいじゃない。ただ――」


 機嫌良さげに、歌うように言葉を続ける。


「私はなんでも、一番が良いの」



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