観測ログ46:調査と仮説

戦闘が終わってもしばらくの間、

洞窟の中には血と魔力の匂いが残っていた。


簡単な休憩と応急処置が施される。


中でもライガの消耗は激しく、

誰の目にも明らかな重傷だった。


「……ちょっと、無茶しすぎじゃない?」


ミニーがそう言いながら、半ば強引にライガを担ぎ上げる。


「勝ったからいいだろ……?」


それだけ言って、ライガは意識を手放した。


一行はいったん洞窟の外へ出て、

待機していた聖騎士部隊と交替する。


鎧に身を包んだ彼らが内部へと突入していく様子を、

ヴォイドは黙って見送った。


聖騎士たちはまず残党の掃討を行い、

その後、洞窟内部の詳細な調査に入るという。


依頼自体は、達成と見ていい。


だが――

ライガの傷が動ける程度まで回復する間、

ヴォイドたちは参考人として調査に同行することになった。



◆ ◆ ◆



洞窟の奥に残された痕跡は、あまりにも分かりやすく、そして歪だった。


魔の領域を作り出していた魔道具は、すでに聖騎士たちによって運び出された後だ。

崩れた祭具の前に、ミニーがしゃがみ込む。


「……この配置、召喚用ね。しかも簡易じゃない」


「こんな場所でやる規模じゃないな」


カイルが周囲を見回す。


エリシアは壁に刻まれた紋様に指先で触れ、眉をひそめた。


「邪教徒の術式……でも、少し違うわ。

これ、普通の召喚陣じゃない」


「ゴブリンどもが、後から手を入れたようじゃな」


シュレイが静かに言う。


全員の視線が集まる。


「ゴブリンだけを呼び出すための術式じゃ」


「ってことは……」


カイルが言葉を継ぐ。


「ゴブリンにも召喚の知識があるってことか?」


「どうかしら」


エリシアが首を傾げる。


「邪教徒から盗んだ可能性もあるわ」


ミニーが立ち上がり、腕を組む。


「いずれにしても、ザルドと邪教徒が組んでいた線が濃厚ね。

こんなの、個人で出来ることじゃない」


「狙いは混乱か」


グラディオが低く呟く。


「王国内に“魔の領域”を作るつもりだった?」


「その通り♡」


ミニーが即答する。


「まず別次元空間を作る。

次に、そこへ魔の領域を構築。

現実世界と繋げて、魔物を呼び出し続ける」


一瞬、沈黙が落ちる。


「……そんなこと、出来るの?」


ミアが不安そうに首を傾げる。


「出来るわ。

アーティファクト――“王鍵”を、ゴブリンキングが持っていたの」


「ザルドか邪教徒かは知らないが……

その“王鍵”を使った結果、ゴブリンキングに奪われたってわけか」


カイルが言う。


「じゃあ、どうしてゴブリンキングは暴れたの?」


「制御できなかったんだろう」


カイルが答え、


「現れた存在が、想定以上だった」


ヴォイドが、静かに結論を述べた。


「結果、邪教徒たちは殺され、

“王鍵”は奪われた」


「最悪ね」


エリシアが吐き捨てる。


「別次元空間にはゴブリンの国ができあがり、

魔の領域を通じて、魔物が溢れ出す……」


誰も反論しなかった。


「……最初から、破滅前提の計画じゃなかった」


エリシアが呟く。


「だが、途中からは――」


グラディオが言葉を切る。


「誰にも止められなくなった、か」


ヴォイドは、

閉じたはずの裂け目の痕を、じっと見つめていた。

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