第二話 キサちゃんがうちへ来た日

 私が幼かった冬の日、キサちゃんはうちへ来た。

 うちの玄関で、派手なメイクの、ヒョウ柄のコート着た母親に手を引かれて。

 それまで私の世界にはいなかった、チャラチャラした金髪の大人の女性。

 だから、その知らない大人が連れてきたキサちゃんは……。

 違う世界から来た子──。


 私はキサちゃんを一目見て、他人じゃないと確信した。

 あれは、もう一人の私だ。

 違う世界で生まれて育った、もう一人の私だ……って。

 血の繋がりを、すぐに感じ取った。


 大人たちが言い争う中で、怯えて半泣きのキサちゃん。

 リビングから顔だけ出して様子を伺ってた私は、直感。


(あの子を……守らなきゃ!)


 あのときの使命感は、いまでもハッキリ覚えてる。

 たぶん、死ぬ瞬間まで忘れない。

 そして、手を引いて部屋へ連れていったキサちゃんの、嘔吐しそうな体臭も……。

 あの悪臭……腐臭は、あの夜のことを思い出すたびに、鼻の奥で蘇る。


 あのころはまだ、育児放棄ネグレクトなんて言葉、知らなかったし。

 そんなことする母親がいるなんて、想像できなかった。

 家庭が温かいのは、当たり前だと思ってた。

 でも、それは世間知らずだったって、すぐに思い知らされる。


 キサちゃんがあの女性に、置いていかれた夜。

 私の家庭は、壊れた──。

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