酔酒投果 ~酒に酔って果実を投げる~
ただのネコ
第1話 報之以玉 ~お返しに玉をあげよう~
「ばっかやろー!」
手に持った袋を怒りと酔いに任せて投げる。
真っ直ぐ前を狙ったつもりだったけど、袋からこぼれた
思えば、昔から物を投げるのは苦手だった。
いわゆるノーコンの、もっとひどいバージョン。私が投げたものは、どこかに行ってしまうのだ。
小学校のスポーツテストの時、ハンドボールを3球続けてなくしてしまったのをまだ覚えている。いつもは優しい先生の、苦虫を噛み潰したみたいな「もういいわ」の言葉も。
大人になって、物を投げる機会なんて無くなって、忘れかけていたちょっとしたトラウマ。
あれから20年以上経って、ヤケ酒の勢いで投げてみたけどやっぱり何も変わらなくて。散ったはずの梅は、路面に落ちすらしない。代わりに、バランスを崩した私がずっこける。
(ああ私、うっぷん晴らしもマトモにできないんだ)
アルコールで鈍った頭が自己嫌悪を始めたところで、繁華街に似つかわしくない涼やかな声が聞こえた。
「これは、そういう事だと受け取っていいのかな?」
いつの間にか、私の前に青梅を持った男がいた。青い浴衣……じゃないか。和服っぽい格好をしていて、すっと目鼻の通ったクールな感じのイケメン。年は私より若そう。30になりたてぐらいかな?
「えっと、その別にあなたに攻撃したかったわけじゃなくてですね」
「害意がないのは分かる。気にされることは無い」
イケメンはサッと近寄ってきて、こけたままの私に手を差し伸べる。うん、行動もイケメンだ。
ありがたく手を借りて立ち上がる私。触り心地はなめらかなのに、引き上げる力は意外なほど強い。
近づいたおかげで、服の細部まで見える。青の地は意図的に濃淡をつけて波を現しているようだ。縁のところにガッツリと金色の竜の刺繍がしてある。和服とはちょっと違う感じだけど、これはこれでかなり高級な感じがするよ?
「ありがとうございます」
「どういたしまして。それで、この梅はもらってもいいのかな?」
「欲しけりゃいくらでも持ってってくださいな私には、いらないものだから」
あの女にもらった物なんて、持って帰りたくない。でも、梅に罪はないから捨てたくは無いし。ん、じゃあ投げたのも良くないね。でも、イケメンが拾ってもらってくれるんだから問題なし。
問題なしのはずなのに、なぜか頬に伝うものが。
涙はあごまで落ちる前に、彼の指でぬぐわれた。
「じゃあ、お返しをしないとね」
涙の理由には触れないまま、イケメンは腰の帯を触るために頭を下げる。つややかな黒髪から飛び出した、鹿みたいな角が目に入る。コスプレ……かな? 和服にしては結構派手だなと思ってたけど、何かのアニメのキャラだろうか? そう言えば流行の中華系の後宮ものに似てるような。
私の思考を他所に、イケメンは帯に下げていた石飾りを外して差し出してくる。白い石でを磨き上げて作られた輪っか。ウロコがあるから竜なのかな? 東洋風の長い体を丸めた姿だ。中央にある玉を五本指でがっしりと握りしめている。
「受け取ってもらえるだろうか」
「えっと……」
結構高そうな見た目にためらっていたけど、手を取って無理やり押し付けられる。
コスプレグッズにしては良く出来てる。肌触りは彼の手にも負けないぐらい滑らかだけど結構ずっしりくるから、3DプリンタのABS樹脂じゃなさそうだ。あー、でも最近は3Dプリンタで金属も作れるんだっけ? 石は聞いたこと無いけど、できそうな気もする。
「では、行こうか」
石飾りを握らせた方とは逆の手を取って、イケメンは歩き始める。
どこへ? と聞く前に、世界がぐるりと回った気がした。
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