零龍:始まりの赤き荒野 人里を見つけよ次元の旅人よ!

 見渡す限り、上は太陽に照らされた青い空、下は赤い地表の荒野、そんな雄大で、絶景な世界に取り残された旅人たちがいた。

「見ろ、いな、空が青いし、地面が赤い。元の世界では見られないぞ。」

 爽快に汗をかく、白髪と空色の瞳の青年『ロード』。

「すみません、お父さん。その会話は数十回、聞きました。」

 汗を額に滲ませ、陽の光の暑さで顔を赤くした、彼と同じ長い白髪と空色の瞳の少女『いな』は苦笑しながら、答えた。

「なっ、なら、この赤いサボテンでもまだ食べるか、酸っぱいが、肉厚で美味しくて…」

「ロード、その話も何十回繰り返してるよ。もしかして、迷ったことを誤魔化してるのかな。」 

 和かな笑顔で語り掛けるは茶色いローブを着こなした長い金髪と水晶のような青白い瞳を持つ痩躯な賢人『クリスト』で、彼はロードに核心を突いてきた。

 そう指摘された彼は膝を地に落とし、項垂れてしまう。

「すまない…本当にすまない、三日三晩、荒野を彷徨うのは私があの姿に成れないから…姿さえ成れば、私は空を飛べて、すぐ人里へ連れて行けるのに…」

「前にも言ったけど、世界を渡り歩く力だから回復するまで君は人間態のままだ。気ままに待とう。」

「そうです! 幸い、赤いサボテンがそこら中に生えているおかげで、食べたり、喉を潤すのに困りはしませんし、クリストさんに渡された服は涼しいですから!」

 いははそう言って、ロードに自身の服装である茶色のケープ(フード付きのマント)を見せつけて安心させようとした。

 そのケープにはクリストの聖術で気候に適した温度を調節できる機能が備わり、ロードやクリストもそれを着ていた。

「それでも私は情けない! クリストの力といなの元気さに頼っているばかりの私は何も出来ないなんて!」

「大丈夫です! 私はお父さんが居てくれるだけで心強いと思います! ほら、お父さん、顔を上げて!」

「うう、すまない。不甲斐ない父親で…」

「ロードって、感情がオーバーな所があるんだな…」

 いなに支えられ、立ち上がろうとするロードを見たクリストは微笑みを崩さず、温かい目で見守った。

 すると、ロードは何か気付く。

「いな、クリスト、前方に何か馬車みたいのがあるが?」

「あ、確かに絵本で見た馬車がありますね。」

「蜃気楼かも知れないよ。実際は遠くにあるかもしれないし。」

 すると、微かに馬車の方から声を聞き取る。それは馬車に乗っている人影らしき姿が手を振っている。

「お〜〜〜い、旅人さんかね? 道に迷っているなら、乗せて上げるぞぉ!」

 その微かな声を聴力の良いロードは理解し、いなをおんぶし、クリストの手を引っ張り、全速力で駆け抜けた。

「おっ、お父さん!? いきなり、おんぶしないで下さい、落ち着いて!?」

「急ぐんだ、これでようやく荒野を切り抜けられるんだ! 命に替えても、いなたちの役に立つんだ!」

「落ち着くんだ、ロード! そんなに急がなくたって、馬車は逃げないから! アタタタ、引っ張る手が痛い!」

 いなとクリストの悲鳴が空に響き、こだまする中、ロードは赤い荒野を駆け抜く。


 新たな旅はまだ始まったばかりだ。





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