第18話 チャンピオンシップ当日、因縁の試合
◇
……翌日。
「これより、チャンピオンシップ1回戦を始めまーす!」
チャンピオンシップ当日。ついに、チャンピオンシップが始まった。俺は指定された席に座り、対戦相手を待つ。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします……あ」
「あ」
そしてやって来た対戦相手は知っている顔。……俺が初めて参加した休日大会で最初に対戦した人だ。《ノーライフ・キング》を使う人で、当時の俺はなす術なくフルボッコにされたのだった。
「あの時以来ですね」
「そうですね。そちらもチャンピオンシップに参加されていたんですね」
「ええ、まあ」
雑談しつつ、対戦準備を整える。……この人と対戦するのはその大会以来である。そして、事前のメタゲーム分析では《ノーライフ・キング》に関しては完全にノーマークだった。この店で使うのはこの人だけだったし、ネットで調べた情報も合わせて、環境にほぼいないリーダーと判断されたからだ。それがこんなタイミングで遭遇するとは。
「それでは、対戦よろしくお願いします」
「お願いします」
そうして、俺のチャンピオンシップ最初の試合が始まるのだった。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました……」
結局、また3ターン目にコンボを決められて俺は敗北した。俺のチャンピオンシップは敗北スタートである。
「……いや、ここで気を落としたら駄目だ」
しかし、ここで九朗さんに言われたことを思い出す。……大会では、敗北すると気分が落ち込み、集中力の低下から以降のゲームでパフォーマンスが悪くなるという。ティルトと呼ばれる現象らしく、九朗さんから事前に注意を受けていた。敗北したとしても引き摺らず、気持ちを切り替える。それが大型大会で必要なことだと。
「とにかく次だ、次。……これ以降勝ち続ければ、何も問題ない」
自己暗示のように自分に言い聞かせて、俺は次の回戦開始を待つ。
「ふぅ……」
3回戦が終了して、俺は溜息を漏らした。……今の俺の戦績は2勝1敗だ。あれから2連勝出来たのは、やはり練習を含めた調整の成果だろう。
今回のチャンピオンシップはスイスドロー6回戦とトップ8によるSEであり、予選を5勝以上すれば決勝トーナメント進出確定らしい。なので、まだ俺にも決勝トーナメントに進出できるチャンスはある。しかし、ここから一度でも負けると予選敗退濃厚である。……一応2敗でも1枠だけチャンスはあるのだが、今の俺にはないに等しい。オポ―――オポネント・マッチ・ウィン・パーセンテージという概念のせいだ。その大会で対戦した相手、彼らの勝率の平均値がオポである。勝率が同じ者同士はこのオポの高さで順位に差をつけるのだ。勝率が同じ者同士でも、対戦相手の勝率が高いほど順位が高くなるという仕組みである。より勝率の高い相手に勝つほど強く、低い相手に勝っても大して強くない。勝率の低い相手に負けるほど弱いし、高い相手に負けるのは仕方ない。そういう理屈らしい。
そして、このオポというのは、負けるのが遅いほど高くなりやすいという特徴を持つ。同じ4勝2敗でも、4連勝してから2敗した場合は、5、6回戦の相手が最低でも5勝しているのでオポが高くなる。対して2敗してから4連勝した場合、5、6回戦の相手が最大でも3勝しかしないので、どうしてもオポが下がりやすい。勿論、序盤に戦った相手の勝率も影響するので絶対ではないのだが、残りの1枠は4連勝後に2敗した人になる可能性が非常に高いだろうとのことだった。
「これより、チャンピオンシップ4回戦を始めまーす!」
そんなことを考えているうちに、店員さんが次の回戦開始のアナウンスをする。……とにかく、ここを勝たないと話にならない。頑張らなければ。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします……え?」
指定された席に行くと、そこにいたのは―――
「彩芽さん……?」
「まさか、身内当たりするなんてね……」
そう。次の対戦相手はまさかの彩芽さん。後がないこのタイミングでマッチングするなんて……。
「でも、手加減はなしだよ。……どっちが勝っても、恨みっこなしだからね」
「……当然」
相手が彩芽さんだろうと、躊躇をするわけにはいかない。俺たちは対戦準備を進める。
「それじゃあ」
「うん」
「「対戦よろしくお願いします」」
いつものように声を揃えて、俺たちは対戦を始める。それと同時に、彩芽さんの表情もあの好戦的な笑みへと変わる。……彩芽さんのリーダーは《フェアリー・クイーン》。初めて彼女と対戦をした時と同じリーダー。奇しくも、あの時のリベンジみたいな形になっていた。
「……」
俺の先手でゲームがスタートする。まずは挨拶代わりだ。
「コスト1《ロック・ラット》をプレイしてエンド」
まずはいつもの最軽量アタッカー。……正直、彩芽さんのデッキ相手には強いカードとは言い難い。彼女のデッキはこちらの攻撃をフェアリーで防ぎつつ、後で纏めて場に戻してこちらのデッキを削ってくるからだ。けれど、長期戦になればこちらが不利なので、出せるアタッカーは出来るだけ出すしかない。それに、ライフを最速で削り切れば、ユニットを戻されるリスクもそれだけ減る。
「ターン貰います。ドロー。コスト1《フェアリーの斥候》をプレイ。登場時の能力でそちらのデッキトップを1枚墓地に送ります。ターンエンドです」
彩芽さんの最初のターン。彼女が出したのは、出た時と破壊された時にデッキを削る《フェアリーの斥候》。とはいえ、これは予想の範疇だ。俺の2ターン目に入る。
「ターン貰います。ドロー。《ロック・ラット》で攻撃」
「《フェアリーの斥候》で防ぎます。《フェアリーの斥候》の能力で、そちらのデッキトップを1枚墓地に送ります」
こちらの攻撃を防がれ、デッキが削れる。ここも予定調和。
「コスト2《ソニック・リザード》をプレイしてエンド」
「ターン貰います。ドロー。エンド」
続く彩芽さんの2ターン目。彼女はノーアクションでターンを返す。でも、彼女が何か構えていることを、今の俺は知っている。
「ターン貰います。ドロー。《ロック・ラット》で攻撃」
「通ります」
俺の3ターン目。最初の攻撃は難なく通る。
「《ソニック・リザード》で攻撃」
「通ります」
「コスト3《ボルケーノ・ラプター》をプレイ」
「通ります」
「ターンエンド」
「エンド時、コスト2《フェアリーの盗賊》をプレイ。登場時、お互いのデッキトップからカードを2枚墓地へ送ります」
こちらのターン終了時に、彩芽さんがフェアリーを出す。これでこちらのデッキは残り29枚。……相手がこちらのデッキを削ってくるのだから、自分のデッキ枚数は常に把握しておかないといけない。LOはこの思考負荷を掛けてくるのが厄介である。
「ターン貰います。ドロー。エンドです」
彩芽さんの3ターン目。彼女はリーダーの有効化をせずにターンを返してきた。何かを構えているのは明白だろう。
「ターン貰います。ドロー。《ロック・ラット》で攻撃」
俺の4ターン目。まずは攻撃だ。
「通ります」
「《ソニック・リザード》で攻撃」
「通ります」
「《ボルケーノ・ラプター》で攻撃」
「コスト1《妖精の暗殺計画》をプレイ。コスト2以下のユニットを破壊するカードですが、フェアリーがいるので対象がコスト4以下のユニットになります。《ボルケーノ・ラプター》を破壊します」
最初の2回の攻撃は通るも、《ボルケーノ・ラプター》は除去を受ける。《ボルケーノ・ラプター》はライフを削ることに特化したユニットなので、全力で除去しにくるか。
「コスト2《ソニック・リザード》をプレイ」
「対応でコスト2《妖精の悪戯》をプレイ。無効にします」
ユニットを追加しようとするが、無効にされる。だが、それを見越して、敢えて低コストのユニットをプレイしたのだ。
「コスト2《ワイルド・ボア》をプレイ」
「通ります」
「ターンエンド」
1体目のユニットは無効化されるが、2体目のユニットは通った。これで俺の場には《ロック・ラット》、《ソニック・リザード》、《ワイルド・ボア》の3体が並んでいる。対する彩芽さんの場には《フェアリーの盗賊》だけだ。
「ターン貰います。ドロー。コスト3《フェアリー・クイーン》を有効化します」
彩芽さんの4ターン目。彼女のリーダーが有効になる。
「そしてコスト1《フェアリーの斥候》をプレイ。登場時、能力でそちらのデッキトップを1枚墓地に送ります。そして《フェアリー・クイーン》の能力で1枚引きます。これでターンエンドです」
更には《斥候》も追加される。これで場のユニット数はお互いに3体。ただし、質だけならこちらが圧倒している。これで俺のデッキは残り27枚。
「ターン貰います。ドロー」
俺の5ターン目。俺のリーダー《デザート・ストーム・ドラゴン》が有効化出来るターンだが、とにかく先に攻撃したほうがいい。まずないとは思うが、一番除去したい《フェアリー・クイーン》を相手が差し出して来たら、手札のユニットを並べたほうが強いからだ。
「《ロック・ラット》で攻撃」
「通ります」
「《ソニック・リザード》で攻撃」
「《フェアリーの斥候》で防ぎます。破壊された時の能力で、そちらのデッキトップを1枚墓地に送ります」
「《ワイルド・ボア》で攻撃」
「《フェアリーの盗賊》で防ぎます」
彩芽さんのユニットはこちらの攻撃を防ぐため、リーダーを残して散っていった。当然だけど、こうなればリーダーを出すしかない。
「コスト5《デザート・ストーム・ドラゴン》を有効化。能力で《フェアリー・クイーン》を破壊」
「通ります」
「ターンエンド」
相手のリーダーをこちらのリーダーで除去してターンを終えた。これで相手の盤面は更地だ。こちらのデッキは残り25枚。
「ターン貰います。ドロー」
そして彩芽さんの5ターン目。
「コスト2《フェアリーの妨害工作員》をプレイ。墓地のフェアリーの数まで相手のユニットを対象にして、次のターン攻撃不能にします」
彩芽さんが出したのは、こちらの攻撃を妨害するユニット。彼女の墓地には、《フェアリーの盗賊》の能力で落ちたものも合わせて4体以上のフェアリーがいる。こちらのユニットも4体。これで全員、次のターンに攻撃できなくなる。
「これでターンエンドです」
コストを3も余らせて、彩芽さんはターンを返してきた。これはまずいかもしれない……。
「ターン貰います。ドロー」
俺の6ターン目。とにかく、今はライフを詰めるしかない。《フェアリーの妨害工作員》は自身のデメリット能力で防御には参加出来ないし、今の状況に丁度良いカードが手札に溜まっている。
「コスト3《ライトニング・イーグル》をプレイ」
「通ります」
「コスト3《ライトニング・イーグル》をもう1枚プレイ」
「通ります」
出たターンに攻撃出来る《ライトニング・イーグル》を連打する。これならこのターンにライフを削りに行ける。
「《ライトニング・イーグル》で攻撃」
「通ります」
「《ライトニング・イーグル》で攻撃」
「コスト2《フェアリーの盗賊》をプレイ。登場時の能力でお互いのデッキトップからカードを2枚墓地へ送ります。そのまま《フェアリーの盗賊》で防ぎます」
片方の攻撃は通ったものの、もう片方は《盗賊》に防がれた。更にはデッキも削れる。デッキは残り22枚。
「ターン貰います。ドロー」
彩芽さんの6ターン目。彼女のライフは半分を下回っているが、このターンで形勢を立て直してくるのは容易に想像出来る。
「コスト4《再誕するフェアリー》をプレイ。墓地のコスト2以下のフェアリーを全て場に戻します」
予想通り、墓地のフェアリーを全て戻すカードをプレイしてきた。これはまずい……!
「《フェアリーの斥候》2体、《フェアリーの盗賊》2体、《フェアリーのスパイ》1体を戻します。《フェアリーのスパイ》登場時の能力で、場のフェアリーの数である6枚のカードをそちらのデッキトップから墓地へ送ります。《フェアリーの盗賊》登場時の能力が2回誘発して、お互いのデッキトップからカードを4枚ずつ墓地へ送ります。更に《フェアリーの斥候》登場時の能力が2回誘発して、そちらのデッキトップからカードを2枚墓地へ送ります」
俺のデッキからカードが12枚も墓地に行く。残り10枚。
「そしてコスト2《フェアリーのスパイ》をプレイ。登場時の能力で、場のフェアリーの数である7枚のカードをそちらのデッキトップから墓地へ送ります」
更に《スパイ》追加で、俺のデッキは残り3枚。
「これでターンエンド」
「……ターン貰います。ドロー」
俺の7ターン目。デッキは残り2枚。……ここまでデッキが削れた以上、このターンで勝てないと敗色濃厚だ。相手の場のユニット7体だが、《フェアリーの妨害工作員》は防御に回れないから実質6体。こちらのユニットも6体だが、このターンでライフを削り切るなら、3体の攻撃を通す必要がある。
「コスト2《竜の息吹》をプレイ。《フェアリーのスパイ》を破壊します」
「通ります」
まずは除去。後2体。
「コスト3《ライトニング・イーグル》をプレイ」
「通ります」
そして頭数を増やす。これも通る。後1体。
「コスト1《二連刺突》をプレイ。《盗賊》2体を破壊します」
そして除去を重ねる。これが通れば勝ち確定だ。彩芽さんのコストは使い切っているので、これを防ぐ手段は、思いつく限り一つだけだ。それさえ引かれていなければ、勝てる。
「対応で《妖精たちの窃盗計画》をプレイ。フェアリーが6体いるのでコストを6軽減してコスト0でプレイ。《二連刺突》を無効にします」
しかし、そのただ一つの解答、他にない裏目、唯一防ぐ手段を、彩芽さんは握っていた。フェアリーが6体いればコストを払わずプレイ出来る無効化スペル《妖精たちの窃盗計画》。《フェアリーの妨害工作員》は防御に回れないだけで場にいるフェアリーではあるから、この軽減能力でカウントはされてしまう。《二連刺突》は不発に終わった。
「……エンド」
除去を防がれた俺は、やむなくターンを返す。このまま攻撃しても《斥候》が防いで破壊され、能力でこちらのデッキを削るので、俺のデッキがなくなってしまう。しかし、攻撃しなければこれ以上減ることはない。デッキがなくなってもドローするタイミングが来なければ負けにはならないし、相手に何もないことを祈りつつ次のターンを待つのが懸命だ。
「ターン貰います。ドロー」
そして彩芽さんの7ターン目。ここで残りのデッキを削る手段を持たれていたらその時点で詰み。そうでなくても、相手の手札が相当弱くないと勝ちの目がない。
「コスト5《フェアリー・クイーン》を有効化してエンドです」
彩芽さんは鈍重コスト込みでリーダーを有効化してターンを返してくる。これで攻撃要員と防御要員の数の差が1体に縮まる。
「ターン貰います。ドロー」
俺の8ターン目。デッキは残り1枚。
「コスト3《フォレスト・ウルフ》をプレイ」
「通ります」
まずは《フォレスト・ウルフ》を出す。こいつなら生半可な防御は貫通能力で突破可能なので、ライフを削りやすくなる。
「コスト4《コング・キング》をプレイ」
「通ります」
続く《コング・キング》も通る。こいつも貫通能力があるので、次のターンに総攻撃すればライフを削り切れる。
「ターンエンド」
そうして、俺はターンを返した。……俺のデッキはもう1枚しかない。次の彩芽さんのターンでデッキを削るカードか、こちらの攻撃を防ぎ切るカードを引かれた場合、その時点で俺の負けが決まる。墓地に落ちたカードから次のドローは《ロック・ラット》で確定しているし、手札にはもう除去がないから、こちらから相手の盤面をこじ開ける手段はもうないのだ。
「ターン貰います。ドロー」
そして彩芽さんの8ターン目。このドロー次第で、このゲームの勝敗が決まる……! 頼む、無駄引きであってくれ……! 何も引かないでくれ……! 頼む……! もう、祈ることしか出来ない。
「コスト4《再誕するフェアリー》をプレイ。墓地のコスト2以下のフェアリーを全て場に戻します」
ここで彩芽さんがプレイしたのは、墓地のフェアリーを全て戻すスペル。今、彼女の墓地には、除去で破壊された《フェアリーのスパイ》がいる。これが戻ってくれば、俺のデッキはなくなる。
「……参りました」
この瞬間、俺の敗北が確定した。俺は、潔く投了するしかないのだった。
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