第3話 現状と向き合う

 カインは決意した。例え自分が斬り殺される運命だったとしても、それが変えられないとしても、必ず生き抜く。


 その為には自分がもっと強くなる事、そして自分の弱点を補う優秀な人材が必要だ。自分でもここまで急速に自死の観念が消え、思考がクリアになるとは思わなかった。二重人格に陥ったのかとすら思った。でも、それでも良い。今の自分は何でもできる。リュミドラと共に。


 夜が明けた。カインはリュミドラと共に起き、協力して身支度を済ませる。そして打ち明けた。自分が転生をし、カイン・アルベルトに乗り移ったこと、転生前の世界は技術が発達し、国民が主導して政治が行われたこと。自身がカインとなった今、悪の貴族としての人格を捨て、まっとうに生を歩みたいと思えたこと。


 リュミドラは、驚き、所々理解できなさそうな顔をしながらも、最後まで話を聞いてくれた。


 「3か月前のあの朝、カイン様がカイン様でなくなったことは何となく分かりました。てっきり死霊に憑かれてしまったのかとすら思っていました。でも、貴方の変わりようを見ればよく分かります。」


 リュミドラは自身の感じたことを述べた。心なしか言葉遣いが柔和になった気がする。


 「自分でもいまだに信じられない。転生自体は前の世界でも実際にあるなんて。でもさ、僕を真の意味で生まれ変わらせてくれたのはリュミドラだよ!」


 その言葉にリュミドラはカッと赤くなる。あれ?この子こういう事に慣れてないタイプなんだろうか。でも、彼女は僕に率直な感情をぶつけてくれた。きっと、僕の感謝を受け取ってくれたんだろう。


◇◇◇


 朝食を取った後、僕とリュミドラは作戦会議に入る。まずは状況整理だ。転生前のゲーム知識と一緒であれば、ここはヴォルシュタイン王国という国のポートハイム領という領地のはずだ。リュミドラに確認し、「それは間違いない。」と言われた。やはり、『ソードオブリバティ』に酷似している。というかそっくりそのまんまだ。


 この王国は、腐敗している。国王はほぼ有力貴族の傀儡であり、全く王の器ではない。実際の政治を牛耳っているのは六大貴族家と呼ばれる有力貴族の中でも突き抜けて強大な権力を持つ者たちである。この貴族家を筆頭とする派閥がそれぞれ形成されており、そこで認められれば、それぞれの貴族家が運営する宮廷で一生贅沢に暮らすことができる。


 多くの貴族はこれを目指している。とはいえ、「認められる」というのは実力ではなく専ら、どれだけ税金を納めて、さらに賄賂を贈ったかということで決まる。そりゃ世直し勇者だって出現するだろうという状態なのである。


 ちなみに、カインの父も昔はこの貴族になることを目指して、領地運営などは一切せず、宮廷に貢物を持って出入りするような奴だった。しかし、宮廷で出会った若い娘に一目惚れし、最後はどこかに失踪してしまうのである。カインはそんな父を見て育ったせいか、父と同じく領民に重税を課し、自身は贅沢をする悪役貴族に成り下がっていくわけである。


 次に、この領地の現状である。正直なところ、これについてはリュミドラの知識が必要だ。カインはストーリー上、序盤の方で勇者に倒されてしまう。故に情報が少ないのだ。そこでリュミドラに話してもらうのだが、その実情は思ったよりもひどいものだった。


 「この領地はご存知の通り、領主様不在です。ここまで領地を運営してきたのは3人の役人で、領主家の名義のもと、この領地の全てを管理してきました。外交から内政まで全てを彼らが決めています。」


 話を聞いて、これはまずいことになったと思う。


 「つまり、僕だけが変わったとしても意味がないってことだな。」


 そう、1年後僕が領主に就任したとして、彼らが実権を握ったままでは意味がない。これらを打開する必要がある。そのためには…


 「僕を中心に、改革派を集めよう。民の為の政治を実現するんだ!」


 前世の自分が聞いたら、「無理だよ!」と全否定する言葉がスラスラと出てくる。でも迷いはない。今ここでやるしか生き残る道はないからだ。


 「カイン様、今の貴方は真の貴族の器だと思います。」


 リュミドラは、僕を見てそう呟いてくれた。


◇◇◇


 「とはいえ、どうしたものか。」


 僕はリュミドラと長椅子に座りながら思案する。どのように体制づくりを進めるか。そもそも、僕の側に着く人材を探し、仕組みを作る。並大抵のことではない。何か策はあるだろうか。


 そんな中リュミドラが口を開く。


 「ランブローグ様に会われてはいかがでしょうか。」


 ランブローグ、その名前に僕は少し聞き覚えがあった。


 ベルト・ランブローグ、元はアルベルト家に仕えていた執事で、リュミドラの前任である。しかし、数年前にカインの教育方針をめぐり、父や悪徳3役人(リュミドラの話から勝手に名付けた)と対立し、カイン家から離れたはずである。


 このベルトさんは、『ソードオブリバティ』において、勇者エリザが序盤にこの町に訪れた際に、自身の鑑定スキルで一発でその能力と勇者としての資質を見抜き、カインを倒すことに協力するというストーリーを歩む。カインを倒した後、その亡骸を抱いて自身の教育への後悔を口にしながら号泣するシーンは、多くのプレイヤーの印象に残っている。


 「あの人に会うのか…」


 会う事はできるだろう。彼が、領の南にある森に住んでいることはゲーム知識で知っている。しかし、会って大丈夫だろうか。いずれ敵対する運命の真っただ中に居るのである。

そんな僕の思考を読み取ったかのようにリュミドラは励ます。


 「今のカイン様は、真の貴族の器を有しています。絶対に大丈夫です!」


 そうか、現時点ではカインはまだ領主ではない。勇者の出現までもまだ時間がある。大丈夫だ。行ってみよう。リュミドラはいつも大切な場面で僕を励ましてくれる。


 僕たちは、ベルトさんの住む南の森へ向かった。


◇◇◇


 南の森。魔物も出る危険な森だが、近年はその出現数は減っている。僕たちは難なくベルトさんの家までたどり着くことが出来た。


 家の前まで来ると、剣の素振りを行っている少女が目に入る。


 「ねえ!そこの君、この辺りに、ベルト・ランブローグという人がいるはずなんだけど知らないかな?」


 少女は、剣の素振りを中断されたことが不満そうにしながらも、ここまで来てくれる。そして驚きの事を言い出す。


「師匠はそこに居るよ。」


 ん?師匠?この子の師匠がベルトさんなのか。そこに居るとは?

そう思い振り返ると、そこに彼がいた。ベルト・ランブローグ、これまたゲームイラストをそのまま人間にしたような姿の彼が、そこに立っていたのである。


 「貴方をお待ちしておりました。真の貴族の器を持たれたのですね、カイン様。」

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