第一章 侵略の魔の手
近づく脅威
巨木が並ぶ森に緑豊かな大地。その真ん中にプサロニアはあった。ここは惑星カイアで一番目に大きい都市であり、自治政府の首都だ。
「圧政者共にNOを! 奴らの横暴を許すな!」
プラカードと怒声。怒れる市民達は自治政府の自治権縮小と連合軍増派の是非を問う採決に抗議するため、議会ビル前に集まっていた。とある反対派の有名議員が鉱業ギルドを焚きつけたため、デモ隊の多くはセレド鉱(宇宙船建造に良く使われる鉱石)採掘の関係者が多い。近隣宙域の入植地で連合軍と交戦中の反乱軍にシンパシーを感じ、デモ隊に加わっている者もいる。
透明なシールドを構え、デモ隊の前に布陣する治安維持部隊。黒の制服と防弾ベストセラーに身を包み、ヘルメットとバラクラバで素顔を隠した兵士達に市民達は怒声や投石を浴びせる。
シールドを構える兵士達の後ろでは、アサルトライフルを手にした兵士達が最悪の事態に備えていた。黒いマガジンには青いマーカーがつけられている。
銃をベルトで吊り下げ、ベストと制服の間に手を入れて相棒と会話する兵士、分隊の仲間達とデモの様子を見つめる者達。彼らは緊張と平穏の狭間にいた。
『既に四時間を過ぎましたが、エスリース議員の演説は未だ続いています』
「こりゃ、今日中に決まりそうもないな」
議会の様子を伝えるニュース映像。マルスは端末を相棒に渡し、ため息をつく。黒いヘルメットとバラクラバの間からは青い瞳が光っている。
「四時間も喋り放しか。ウチの婆さんと良い勝負だ」
そうオセッテは笑った。バラクラバの隙間から見える琥珀色の目。ホルスターに納められた銀色の大型拳銃、ライフルに取り付けられたKABD社製のホロサイト。つま先から頭まで制式装備品に包まれたマルスと違って、オセッテは自費で購入した品を多数装備している。
「引き延ばし戦略だ。良くやるよ」
「この爺さんが明日も喋り放しなら明日も延期になるのか?」
「さぁな」マルスは肩をすくめた。「多分そうなるんじゃないか?」
「そうかよ」オセッテはふっと息をつき、群衆を見つめた。「嫌になるぜ。まったく」
◇
──
連合領辺境。
ハヴァル宙域。
駆逐艦『エンペート』の戦闘指揮所は緊迫した空気に包まれていた。
数十人の士官が青白い補助照明のもと、作業に集中している。壁一面の投影スクリーンに淡く描かれる三次元の戦術マップ。その中で、一つの赤い点が、じわじわと移動していた。
「所属不明艦、通信応答なし。エンジン出力は最小。本艦との距離4000キロ」
「解析結果出ました。データベースに該当データなし」
士官の報告に、艦長レノ・サフィール中佐は顎に手を当てて小さく唸った。四十代前半、無精髭にくすんだ制服。派手な軍歴はないが、優秀な艦長だ。
「該当データなし? 確かか?」
「はい、艦長」
レノは片眉を上げた。ターゲットは反乱軍艦ではない、反乱軍であればデータベースにヒットするはず。周辺星系を支配する種族の戦闘艦か? レノの頭に様々な考えがよぎる。
「軌道予測では、目標はアルファ441へ向かっています」
レノは座ったまま頷いた。そのワープポイントは、ハヴァル宙域に83地点ある裂け目の一つだ。
「エンジン出力を上げろ。追跡を続行す──」
「艦長! アルファ441付近に電磁反応!」
士官の声に、レノは椅子から立ち上がった。
戦術マップに次々と表示される無数の赤い点。追尾されていたターゲットが反転してきたのはそれから間もなくのことだった。「なんて数だ……」レノはマップを埋め尽くす大群を見て思わず呟いた。
「飛翔体の発射を確認! 数15!」
「防御戦闘用意!! スクトゥム発射!」
中佐は叫んだ。
「スクトゥム発射!」戦術士官が言った。
エンペートのハッチから射出される小型ミサイル。小型ミサイルは青い閃光を放ちながら向かってくる飛翔体に真っすぐ高速で突っ込んでいく。
スクトゥムは目標に命中する寸前で大爆発し、ターゲットと共に宇宙の塵と化した。
「スクトゥム、全目標に命中!」
士官の報告にレムは安堵した。
しかし、次の報告に彼は再び緊迫する。
「第二波来ます! 数150! ──続けて第三波きます! か、数300!!」
それは死刑宣告も同じだった。「スクトゥム発射!」絶望的な上京の中、レノは叫んだ。
全てのハッチから射出されるスクトゥム。何十ものスクトゥムが目標を消し飛ばす。しかし、消えたマーカーは僅かだ。数百の飛翔体が真っすぐエンペートに突っ込んでくる。
砲塔から発射されるプラズマ弾。自動防御タレットから放たれる鉄の弾幕。エンペートの周囲で爆発が起こり、戦闘指揮所のモニターがそれらを映す。
弾幕の嵐を掻い潜って装甲を貫通するミサイル。大爆発を起こし、区画とクルーを吹き飛ばしていく。
「第三、四区画に被弾!!」
操作盤の隅に置いた家族の写真を握りながら衝撃を耐える女士官、隔離ドアを勢い良く叩いて助けを求める船員、負傷した船員を必死に救護する衛生班。
数十秒後、彼ら彼女らは轟音とともに消えた。何十もの命中弾を一度に受け、『エンペート』はついに散ったのである。
エンペートを沈めた大艦隊は真っすぐ目の前の惑星プレトを目指すのであった。
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