ファントム、尋問される7

 騒々しいMI6とは違い、隠れ家にいるユキたちには重い沈黙が、ユキたちを支配していた。


「もう遅いので寝ましょう。私が寝ずの番をしますから、玲奈とユキさんは寝なさい。このドアの向こうが寝室です」


 そう言われ、「行こう」と玲奈に誘われるが、ユキは首を振る。


「眠れそうにないから……」


 彼女の心境を考えるとそうだろう。二人は納得し、玲奈は「じゃ、私は先に。お爺ちゃん、後で交代するから」と寝室に。そして、マスターは彼女に歩み寄りポンっと頭をなでる。


「眠れない気持ちもわかります。子ども扱いするつもりあありませんが、ホットミルクでも作りましょうか?」


 その優しさに、ユキはコクンと頷いた。


 キッチンは隣の部屋で、PCのある部屋にはユキ一人となった。


 ユキの中で、マスターの「彼を信じましょう」という言葉は、もはや慰めにさえならい。


 待っているだけなんて、できない……!


 ユキは、決意を固めて立ち上がると、メイン端末へと向かった。裏切り者の瀬尾でもいい。誰でもいい。ファントムを助けるための糸口を探さなければ。


 彼女が、キーボードに指を触れると起動する端末。瀬尾のようにキーボードで何かができるわけではない。ユキはそばにあるヘッドセット型のインターフェースを装着し、ネットの中にダイブする。


 入った瞬間、キィン、という耳障りな高周波音。


 けれどそれは耳障りなものではなく、まるでユキに共鳴しているようにも感じた。それがはっきりしないのは、かなり微弱なものだから。こんなことは初めてで、一刻も早く瀬尾を見つけなければいけない状況なのに、ユキはその発生源を辿り始めた。


 ユキはかなり異質な存在だ。そもそも彼女の量子パターンを知るものは、彼女を作った神崎博士と、それに携わるものだけ。


 一体、何者なの──!?


 ユキの指示を受け、隠れ家の強力なサーバー群が総力を挙げて発生源の特定に動き出した。やや旧型の端末には負担が大きかったようで、一気に熱を帯び、右側のディスプレイはブラックアウト。しかし、メインディスプレイは砂嵐のように激しく点滅を始めた。


「な、何をしてるんです! ユキ君!!」


 ホットミルクを持ってきたマスターが見たのは、ディスプレイの砂嵐の向こう側に、ぼんやりと浮かび上がる映像。 それは、歪んだ、一人称視点の映像。目の前には、端末を操作するだれかと、その隣に立つ女性が見えた。


「これは一体……?」


 マスターの声に、玲奈も「何? どうしたの!?」と部屋に飛び込んできた。


 一体何を見ているのか? ユキは微弱な電波だが、鮮明に見えるよう周波数を合わせていく。


 ゆっくりと焦点が合い始める映像。おかしなことに床は垂直にあり、人は寝転んでいるように見える。あぁ、この人は横になった状態でこれを見ているのだと、ユキは理解した。


「瀬尾さん!?」


 その椅子に座るのは瀬尾だと分かった。ユキはすぐさま、隣に立つ女性を検索する。彼女の正体はMI6のエージェントでセレスティーナ・ ヴィレッリだと判明した。


「これは、ファントムの視点なのね!?」


 ユキはこれが灰島の「目」が見ている光景だと理解した。なぜこんなことが可能なのか分からないが、灰島が何らかの機器を使い、こうして情報を送ってきているのだ。


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