SCENE#10 チャップリンなんか大っキライ!〜ある小学三年生とおじいちゃんの映画日記〜

魚住 陸

チャップリンなんか大っキライ!〜ある小学三年生とおじいちゃんの映画日記〜

 


第1章:またチャップリンかよ!



「カンタ〜、今日もチャップリン観ようか」


学校から帰ると、またおじいちゃんのこのセリフ。


「え〜、また〜?ゲームやってるとこだったのに!」


おじいちゃんが好きなのは、昔の白黒映画の男の人。ちょびヒゲで、変なステッキ持って、やたらこける人。名前は……チャップリン。


「チャップリンなんか、大っキライ!」


テレビを奪われたぼくは、わざと大きなため息をついた。



第2章:しゃべらないなんてズルい!



ある日、おじいちゃんが見せてきたのは『黄金狂時代』って映画。


「言葉がなくても笑えるんだぞ。よく観とけよ〜」


「しゃべらないなんてズルいよ。意味わかんないし」


だけど、画面の中でチャップリンが自分の靴をフォークで食べようとしたとき――


ぷっ。


……あれ?ぼく、笑った?


「おっ、笑ったな?」


「笑ってないし!くつなんか食べるのおかしいだけだし!」


なんだかくやしくて、ぼくはそっぽを向いた。




第3章:本当はちょっとだけ…



雨の日。ゲームも外出もダメ。


「『モダン・タイムス』、今日やるぞ」


またチャップリン? でも、やることないし……ちょっとだけなら。


工場でベルトコンベアに巻き込まれるチャップリン。レンチを持って、ネジを締めまくるチャップリン。何も言わないのに、すごくドタバタで、すっごく笑える。


「……ねぇ、これって、続きあるの?」


「あるとも」


気づいたら、ソファに深く座りなおしてた。




第4章:なんかちょっと、ズルいじゃん



おじいちゃんがDVDの棚から『キッド』を取り出した。


「これは、泣けるやつだ」


「え〜、チャップリンって笑うやつじゃないの?」


でも始まると――


孤児の子どもと一緒に暮らすチャップリン。二人の距離がどんどん近づいて、最後には引き離されそうになって……。


ぼく、なんか、目の奥があつい。


「泣いてるのか?」


「泣いてないもんっ!チャップリンのくせに、ズルいよ!」




第5章:チャップリンなんか、大っキライ!でも…



次の土曜日。


「今日はチャップリン、ないのか?」


おじいちゃんが風邪で寝込んじゃった。


DVDプレイヤーの前に、ぽつんと立つぼく。


ちょっと迷って、リモコンを手に取った。


『独裁者』っていうのを選んでみる。


チャップリンが、すごく真剣な顔で、何かを訴えてる。


言葉も出てきた。優しい目で、世界のことを話してる。


……ぼく、気づいちゃった。


チャップリンって、笑わせるために、いっしょうけんめいなんだ。


だから、次の日、おじいちゃんに言ってやった。


「ねえ、ぼくさ、チャップリン……」


「ん?」


「チャップリンなんか、大っキライ!」


そしてにっこり笑ったら、おじいちゃんもにやにや笑った。


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