第16話 瞬戦
「え?女性?しかも、1人?」
私以外無言のままただ目の前にいる『アンチ』を眺める。
兄とマキナさんは一層警戒心を強めていた。
スラっとした黒いスーツを着た若い金髪の女性は淡々とコツん、コツんと音を立てて向かってくる。
「……こいつがもう1人のアンチ。」
「マキナさん一体どういうこと?」
「……アンチは2人いるの。…1人は白髪混じりの中年男。彼とは以前、ケイスケと共に空港でたまたま目にして戦ったけど結局ダメだった。取り逃した上、結果的にケイスケは牢屋へ入れられた。…もう1人は、今、目の前にいる若い金髪女よ。」
「そ、それが、一体。」
「アンチは世界で最も強い殺し屋の称号を持つ者。……称号を与えられる条件は、能力があること。」
「の、能力?」
「……理解不能で非現実的だけど、そういう者はやっぱりいるらしい。……前のアンチは能力すら出さずに格闘術のみで負けたから正直恐ろしい。」
金髪女は無言のまま立ち止まる。ケイスケの真正面へ相対していた。
「お前もアンチか。両親は生きているのか!?」
兄は敵討ちすべき相手が目前に迫ったのか怒りで問いただしていた。
『………』
一瞬、アンチの唇が横に引き攣った様に見えた。そんな疑念を抱く前には兄の胴が真っ二つに裂かれていた。ほんの少し鋼鉄を直に研いだような聞き慣れない音を響かせた気がする。
「……は?」
これが兄の最後の言葉である。反応を伺うに自分が裂かれたことすら自覚していない。痛みも感じずただただ目を閉じて意識を失くしていった。まだ血は流れてすらない。鈍い音が2つ地面に叩き起こされた。
「!!」「!?」
驚愕した。今戦う勇気を持つことすら頭の後ろへ流れていた。流れた勇気を一直線に頭の真ん中へ持ってきたマキナさんは正気を取り戻し颯爽と殺意を向き出したままアンチへ立ち向かう。全てを無感情にし、怒りを沈ませる。
自身の爪先を下へ蹴って空中斜め上から渾身の右ストレートを敵本体へ放った。
が。
それも虚しく空を切る。瞬間移動に近い。
背後へ回り込まれたのに気付いたマキナは、自身の腹を右拳で貫かれていた。痛みで悶える暇もなく左手でうなじを叩かれ意識を失なった。倒れると同時に貫かれた腹はアンチの腕をズルズル赤く外れていく。地へ倒れ、鈍い音が聞こえた時には辺り血の海と化していた。
臍をこちらへ向ける。すぐさまターゲットを変えた。私だ。
「………」
圧倒的な恐怖を通り越して身も心も動かなかった。無心だった。
無念無情。全てを諦める様にゆっくり目を閉じる。
その時。彼女は口を開いた。
「……ワタシの動き……見えたの?」
「………え?」
(なんてか細く美しい声。これが兄さんとマキナさんを……)
度肝を抜かれたまま心の反応を促していたが突如、両目からぐらぐらと世界が上下横にうねり出す。眩暈が現れたのだ。フッと暗い夜道から見える知らない家の電気が切れる様に私は意識を失った。
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