Ⅱ‐Ⅱ 戦う覚悟はお持ちですか?
「そ、それで、ぼ、僕たちはどうなるんですか?」
あの狼たちからどうやって生き延びたのか不思議な豆山が、王女様に怯えながら訊ねた。
まあ、豆山は・・・
「ぼ、僕には戦う勇気なんてありません。で、できれば、戦わなくて済む仕事をしたいです・・・。ほ、他なら何でもしますから・・・・・・!」
だろうね。
正直たぶん豆山には向いていない。
ただでさえ臆病なのに、無理に戦わせるのは私はどうかと思う。
「————私は、この魔族との戦争に終止符を打ちたいと考えています」
・・・・・・
「ですが————戦いたくないのであれば、無理を強いるようなことをするつもりはありません。
———そのうえで、共に戦う覚悟がある方はいらっしゃいますか?」
「私はやります」
異世界に来てからずっと決めてた。
こんな経験、今を逃したら二度とできないかもしれないし!
「・・・私も一緒に戦います。紅葉を放ってはおけないし。・・・何かしでかさないか心配だし」
失敬な。
たまにしかやらかさんわ。
まあ、でも。
ありがと、美咲。
「ボクもやらせてもらうよ。麗しき王女のお手伝いができるなんてこんな機会きっとないだろうしね☆」
でたな。
というか、よく今まで黙っていたな。
もっとでしゃばるかと思っていたぞ?
「・・・私も王都で何か仕事をいただけないでしょうか?自分ができることを精一杯やっていきたいです」
小林さんも離脱組か・・・というか参戦するやつってどれだけいるんだ?
「—————一つ質問してもよろしいですか?」
今まで黙って話を聞いていた小鳥遊が手を挙げた。
「はい。私が答えられることなら、なんでもお聞きください!」
「では—————王女は私たちが現実世界に帰る方法を知っていますか?」
・・・まあ、確かにこの人なら知ってる可能性はあるかもしれないけど———
「———申し訳ございません。私は存じ上げません。ですが———魔王を倒すことができれば、あるいは」
「————いえ、お答えいただきありがとうございます」
ま、
もともとダメもとで聞いたんでしょ。
「ひとまず、すぐにどうこうということはありません。これから王都に向かいますので、到着までにどうするかをゆっくり考えておいてください」
王女のこの一言で、この場はお開きとなった。
***
その日の夜(もう屋敷についた時点で日は暮れていたので現代人感覚で言うと深夜2時くらい)、私はなかなか寝付くことができず暇をしていた。
いつもならこんな時間までゲームをしているのだが、あいにくゲーム機なんてものはない。
・・・たった一日でいろいろな出来事が起こり過ぎた。
異世界転移。
女神との邂逅。
狼との死闘(後から王女から聞いたが、魔狼というらしい)。
王女との出会い。
目まぐるしい一日だった。
私は起き上がると、割り当てられた部屋の窓を眺めた。
夜空には、綺麗な三日月が浮かんでいた。
おそらく
みんなには申し訳ないけど、私はこの世界に来れて良かったと思う。
—————ここなら、いろいろなしがらみから逃れられることができる。
「———ずっとここにいても、いいかもな」
「————ほんと、紅葉らしいね」
うわっ!
振り向くと、いつの間にか同室で寝ていた美咲が枕を抱えながら立っていた。
というかその「Ⅱ‐Ⅱ」な顔やめて?!
「まったく・・・・・・紅葉は、元の世界に帰りたくないの?」
「・・・すぐには。この世界は景色いいし、テストないし、通勤ラッシュにも混ざらなくて済むし、ご飯おいしいし、
「うん、聞いた私が馬鹿だったわ」
「—————何よりこっちの世界だと“自由”でいられる」
「————!—————そう・・・」
美咲はきっと帰りたいんだろう。
元の世界に。
美咲だけじゃない。
小林さんも。
豆山も。
・・・
私くらいだろう。
この世界で生きていきたいなんていいだすのは。
家族、親、学校、塾、テスト、模試、受験、人間関係・・・数えだしたらキリがないほど、私たちは“縛られている”。
そんなのは嫌だ。
もっと自由に生きたい。
「————わがまま言っていい?」
美咲が少し苦しそうな顔で私を見つめてきた。
美咲のワガママなんて珍しいな。
「———いっしょに現実世界に帰ろう?」
・・・・・・そっか。
「紅葉がこっちの世界のほうが好きかもしれないのはわかってる。だけど!だけど・・・私は紅葉に会えないのは、嫌だよ・・・・・・」
「美咲・・・・・・」
私はそっと美咲を抱きしめた。
「—————大丈夫。私は勝手に美咲のそばからいなくなったりはしないから」
「で、でも紅葉はこっちの世界のほうに居たいんじゃ・・・」
「まあ確かにこっちの世界は楽しそうで好きだよー?・・・でもいつまでもゲームとかできないのはやだ。それにさ?もしかすると魔王倒した後、現実世界とこの世界行き来できるようになるかもしれないじゃん!」
「・・・ほんと、紅葉らしいね」
美咲は涙をぬぐいながら笑った。
ほんと、泣き虫なんだから。
「誉め言葉として受け取っとく♪」
こうして私たちはまた眠りにつくのであった。
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