第9話『才能と数値』

五歳の誕生日を迎えて、数日が経った頃。

剣術の初歩訓練が終わり、今日は座学室でクラリスと向き合っていた。


「レオン様。今日は、魔力の“自己干渉域”について学びます」


「はい、クラリス先生」


魔力制御の応用段階。

簡単に言えば、魔力を“自分の体の中で循環させる”技術だ。


これができるようになると――


「能力の可視化、つまり“ステータスの確認”が可能となります」


その言葉を聞いて、俺の中で思わず喜びが弾けた。



(やっと……!)


俺は、この世界に転生した直後から、ずっとステータスを確認しようとしてきた。

声に出してみたり、念じてみたり、ステータスウィンドウ的なものを期待してみたり――

だが、どれも反応がなかった。


(この世界では“そういうの”がないのかもしれない)

そう思い始めていた頃だった。



「今のレオン様なら、おそらく可能です」


クラリスは魔導紙を一枚取り出し、机の上に置く。


「魔力制御が安定した者は、魔導紙に魔力を流し込むことでステータスを確認できます。

 魔力量、適性、基礎能力などが数値化されるのです」


紙の上には淡い魔紋のようなものが刻まれていた。


(ついに、来た……!)


異世界転生者らしく、今の自分がどれだけ“やれるのか”――

それを知れる瞬間が、ようやく訪れたのだ。



俺は深呼吸し、魔力を練る。


制御の基礎はすでに仕上がっている。

意識の流れに沿って、魔力を全身に循環させ、魔導紙へと送り込む。


「……っ」


紙が淡く光り始め、文字と数字が浮かび上がった。


クラリスが覗き込み、その目を見開く。



▽ レオン・マクシミリアン・ヴァルネス ▽

• レベル:5

• 種族:人間(帝国民)

• 属性適性:闇(適合100%)、無(適合100%)

• 魔力量:S+

• 魔法制御:A

• 体力:B

• 筋力:B+

• 敏捷:A

• 知力:A+

• 魔法耐性:A

• 剣術適性:不明(初回測定不能)



「これは……」


クラリスの声がかすれる。


「レオン様……これは、“魔の器”どころの話ではありません。

 完全な双属性適性。しかも、魔力量と制御力がこの年齢でこの数値……」


彼女は震える手で魔導紙を持ち直しながら、言葉を失っていた。



俺は数字を見つめながら、胸の奥で何かが静かに震えるのを感じていた。


(これが……俺か)


思っていた以上だった。

けれど、浮かれることも、驚くこともなかった。



(才能がある。……なら、それに応える生き方をしなきゃいけない)


数値に満足するだけじゃ足りない。

この世界では、“力”には“責任”が伴う。



「これで……少しは、“主役”の土俵に立てたかな」


つぶやいた言葉に、クラリスが不思議そうに首を傾げる。


「何か仰いましたか?」


「ううん、ただの独り言だよ。

 でも……ここからが本当の勝負だなって、思っただけ」


俺は笑いながら、再び魔導紙を見つめた。



この異世界で、俺はもう“脇役”じゃない。

そう、胸を張って言えるようになった。

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