交渉

 僕による魔法の雨から始まり、ドラゴンのブレスの防御、僕が再現した過去の騎馬兵団との戦い、森林にいる魔物との実戦など。

 僕による怒涛の訓練の日々を送るウィリアムズ家の騎士団は成長し続け、強大な組織への道を歩き始めていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


「きっつぅ」


「……死ぬ」


 今日は心肺機能の向上デー。

 僕が魔法で作り出した過酷な環境下での走り込みを終えた騎士団の面々の多くは地面に転がって息を荒げていた。


「いや、それにしてもスロースさんがここまで強いとは思っていなかったです」


 大半がぶっ倒れている中で、体力に自信のあるやつが僕へと話しかけてくる。


「私はお嬢様の手によって召喚された悪魔ですから。それ相応の強さはやはりもっていますよ」


「いや……それはわかっているんですけど、こうして触れ合ってみるとより実感するんです」


「だとするのならば、遅すぎませんか?初日で気づくべきでしょう」


 初日の段階で僕は魔法の雨を降らせているのだが。ドラゴンのブレスの再現とか理不尽の塊みたいな攻撃ぞ?


「いやぁ、ちょっと話しかけに行くタイミングがなくてぇ……」


「むむっ。そうでしたかね?私はかなりオープンなつもりだったのですが……」


 話しかけれたことはないが、何時でも話しかけて良いよという雰囲気は出していたつもりである。

 密かに体力に自信のある彼から話しかけられて嬉しくなっていたのは秘密である。


「いや、普通に訓練がきつすぎて死んでいました」


「ありゃ」


「私は体力だけが取り柄の馬鹿ですから。今日はたまたま話に行けるだけの余裕が残りました」


「体力だけと言いますが、体力がある分素晴らしいですよ。貴方のその自慢の体力を認め、何でも聞いて差し上げましょう」


「……自分、元は貴族生まれだったんです。没落しましたけど」


「ふぅーん」


「ですから、わかるんですよ……高位、悪貴ですか?」


「およ?」


「父が上級悪魔を使役していました……私は、その上級悪魔より悪魔の見分け方というのを教えてもらっていました。貴方が見せている数々の行動は、上級悪魔という枠を、超えていると思うのです」


「あぁ、期待しないでくださいね?」


「……はい?」


「これからドラゴンとの戦いが控えていますが、私を戦力と見られても困ります。ドラゴンは二体いますから。一体は私が抑えてみせましょう。ですが、二体目は別です。貴方たちが努力してくださいね?」


「い、いや、私はっ」


「僕が危険な悪魔なのではないか。そう言いたいのでしょう?ですが、それを相談するのであれば、その矛先を間違えています。お嬢様に行くべきでしょう」


「交渉。好きなんでしょう?悪魔は」


「それは己が認めた人間とのみ、です……」


「……っ」


「そして、私は基本的にすべての人類のことを認めています。ですので、しっかり質問に答えましょう。帰るのはノー。ですが、裏切らないと言っておきましょう。メリットがない」


「だ、大悪魔のはずです。貴方がずっと人の下にいるはずが……」


「お嬢様は可愛いでしょう?」


「……はい?」


「貴方もわかるでしょう?まず、お嬢様はおっぱいが大きい」


「わかります」


 僕の言葉に


「なぁーに言っているのよ!」


 そこにちょっと離れたところで神妙な面持ちで聞いていたお嬢様が飛び蹴りで割り込んでくる。


「大事なことですよ」


 それをさらりとよけながら僕は笑う。


「お嬢様のおっぱいに興奮する益荒男たちよ!声をあげぇええええ!」


 そして、そのまま周りを先導しに行く。


「「「おぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」」

 

 男たちなど単純な者よ。

 声をあげられる場を作れば、簡単に悪ノリして声をあげだす。


「~~~ッ!」


 お嬢様がこのノリをされても不敬だと切れず、ただ恥ずかしそうに赤面するだけだということを部下たちがわかっているというのもあまりに大きいが。


「見てください。このお嬢様の赤面顔……私が仕えるに足るだけの価値があるとは思いませんか?」


「……なるほど。これは反論できないっ」


 僕の言葉に体力のある男は神妙に頷く。


「やかましいわッ!」


 そこに再度、お嬢様が強めのツッコミを入れてくる。


「えぇい!お前ら!まだ元気があるなら私が直々に走らせてやる!私の為に走れぇっ!」


「「「ひぃぃぃいいい!?」」」


 そして、お嬢様は僕の前から逃げるように自分の部下を叱咤し、再び走らせ始める。


「じ、自分もこれで」


「あぁ、それと貴方が僕との交渉にあたって持ってきた手札は大外れですよ。僕はむさくるしい男に興味などない」


「えっ?」


 そのお嬢様について行こうとした体力自信ニキへと僕は声をかける。


「んっ、じゃあ、行きな?体力だけで、速さには自信ないでしょ?」


「あっ!?はいっ!」


 その言葉を受けて足を止めた体力自信ニキをさっさと僕は走るよう促すのだった。

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