【第七話】 最初のダンジョンより、同行女子の殺気の方がこえぇ件。

「じゃあ、今日の依頼はこれに決まり!」


俺はギルドの壁に貼られたクエストから、一つを選び抜いた。


《地下ダンジョン・前層調査:報酬200リル》


「新しく見つかった遺跡の調査だってさ。敵は弱め、でも階層が深いから慎重にって感じらしい」


「ふむ、体はなまってねぇ。行けるぜ」

ガルドは腕をぐるぐる回しながらニヤリ。


「魔力も問題ありません」

レミアは相変わらず感情のない声で準備完了。


「じゃあ、いざ参──」


「ちょっと待って。なぜ私を入れていないの?」


ドスンと机に婚姻契約書を置きながら、リゼ登場。


「えっ?いや……君、旅の人じゃ……」


「今日から“妻見習い”として帯同いたします♥」


「勝手に役職作んな!!」


そして、もう一人の刺客が、椅子の下からひょっこり顔を出す。


「にゃ〜ん、ネネもちゃんとスタンバってたよ♪ ユウトくんの匂いで追ってきた♥」


「もっと怖ぇよお前は!!!」


こうして、予定外の5人パーティが爆誕した。


* * *


ダンジョン前の草原。

風が穏やかで、鳥のさえずりも聞こえる。だが──


「ユウトく〜ん、水筒とおやつ、ネネの膝の上に置いといたからね♥」


「いえ、必要なものは私が既に準備済みですわ。私の魔法袋から出せますの」


「くっ……ポンコツお姉さんのスキルに負けない……!」


「ふふ、野良猫ごときが何を……」


空気が……重い。


前衛のガルドは肩をすくめて一言。


「……戦うより疲れるパターンだな、これ」


「全くだ」


* * *


ダンジョンに入ると、出てくるのはスライムやアンデッドなどの雑魚系ばかり。

戦闘自体は難なくこなせた。


「《アイスボルト》」


レミアの魔法が敵を一撃で氷漬けにし、

「《ヘヴィブレイク!》」

ガルドの剣が壁ごと敵をぶち抜き、

俺はスキル模倣しながらサポートに徹する。


一見、完璧な布陣……だが。


「ねぇユウトくん、ネネにだけ“褒めて”くれないの、どうしてかな〜?」


「私には“ありがとう”すらありませんのね……涙が出そうですわ……」


「……いや、戦闘中なんで集中してくれない?」


リゼとネネのどちらが隣を歩くかでもめ、

お弁当を誰が作るかで2時間揉め、

「どっちがユウトの右側に座るか」で軽く斬り合いになりかけた。


(もう、魔王よりこいつらの方がこえぇ)


そんな中、唯一の癒しはレミアの冷静さだった。


「……あの二人、放っておくと暴走します」


「うん。知ってる。俺も暴走されてる側だからね……」


* * *


最深層では、階層主らしき《牙持ちリザード》が出現。


「こいつは強そうだな。みんな、連携していくぞ!」


「ネネは突っ込むよっ!」

「私は後方から光魔法を……って、ネネさん!?勝手に──!?」


「ちょっ、リゼさん、今スカートで剣しまおうとしないで!?見えてる見えてる!!」


──連携、完全崩壊。


結果、俺が全スキルを模倣してリザードをワンパン処理した。


「倒したけど、違う意味で疲れた……」


ダンジョンを後にしたユウトは、そっとつぶやいた。


「世界は救えるかもしれないけど……このハーレム、制御不能だわ」

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